今回のテーマは、働く人のモチベーションで、2回に分けて特集します。今回は心理学的に見たグループについて、例となる映画をご紹介します。
<参考・引用文献>
佐々木士師二(1996) 「産業心理学への招待」(有斐閣)
下記は、上記で語られている内容から一部引用しまとめた上で、映画に関するところは本記事筆者の考察を掲載しています。
働く人なら誰しも、自分のモチベーション、周囲のモチベーションについて、「どうやったらモチベーションが上がるんだろう?」もしくは「なぜモチベーションが下がってしまったんだろう?」と考えたことがあるのではないでしょうか。そして、一般的には「給料が高い」「休みがちゃんと取れる」「福利厚生がしっかりしている」などの条件が、社員の満足を維持したり、高めるだろうと思う人が多いと思います。ですが、ワーク・モチベーションの研究では、興味深い結果が明らかにされています。
テイラーの科学的管理法
ワーク・モチベーションの研究で歴史上大きな影響を与えてきた中に、テイラーの「科学的管理法」があります。テイラーは、出来高払制度と時間の関係性に着目しました。1895年に発表した「出来高払制私案」の中で、テイラーは従来の日給制度や出来高払制度は従業員の怠業を生み出すとして批判。つまり、従業員は管理者には早く作業を進めているように見せかけ、実際はゆっくり作業をすることが自分の利益になると考えるだろうと指摘したのです。そこでテイラーは、一流の作業者が1つの作業を完了するのにかかる標準的時間と、1日で行える仕事量を決定する「時間研究」という方法を考え出しました。
これは合理的な考え方に思えますが、テイラーの「科学的管理法」は、1911年に発表した当初から、「工員を機械扱いする考え方だ」「工員独自で工夫する機会がなくなる」「一流の作業者でなければ排除される」など、さまざまな批判を受けました。「科学的管理法」は、時間研究、出来高払制度、機能的職長制度といった個々のメカニズムを組み合わせているだけで、マネージメントの原理、原則には触れていないと批判されましたが、作業の仕方や能率と人間関係の影響というところに着眼したのが、次に述べるホーソン研究です。
ホーソン研究(1924〜1932年)
これは、ハーバード大学のメーヨーやレスリスバーガーらによって、アメリカの電話機メーカー、ウェスタン・エレクトリック会社のシカゴにあるホーソン工場で行われた一連の研究です。この研究は、「公式組織はその中に非公式組織を生み出すこと」「非公式組織の中で人々はある種の人間関係を形成し、それがワーク・モチベーション、作業の仕方、役割の果たし方などに影響すること」を見出し、ワーク・モチベーションにおいて社会的側面が重要であることを明らかにしました。ホーソン研究も、最初は作業能率が物理的条件(照明)、時間的条件(休憩、作業時間)、経済的条件(賃金、ランチ)などに直接規定されるという考え方でスタートしましたが、監督や仕事に対する態度、家庭状況といった個人的な事情、職場内の非公式組織が作業態度や労使間のコミュニケーションに与える大きな影響にも目を向けました。この研究の総括として、レスリスバーガーは個々の従業員の態度や行動に焦点を当てつつ、非公式な集団や組織が、個人のそれぞれの態度や行動を越えた独自の機能を持つことを明らかにし、経営組織を1つの社会体系として見る立場に達しました。
こういった研究によって、ワーク・モチベーションは個人の問題だけでなく、属する集団からも影響を受けることがわかってきましたが、ここには人間が持つ社会的欲求が絡んでいると考えられています。
公式集団と非公式集団
ここで集団というキーワードが出てきましたが、その性質と機能は異なります。かみ砕いて説明すると、
■公式集団:同じ目的、目標のもとに集められた集団で、誰が所属しているか、それぞれの役割や立場、規則などがはっきりしている。学校、企業など。
■非公式集団:自然発生的に集まった集団。序列や立場が明確にされているわけではない。共通の価値観、趣味などがきっかけで自然にできる集団で、クラスや職場で一緒にランチを取るグループや、ゴルフ仲間、ママ友のグループなど。
会社員で考えた場合、勤めている企業そのものの待遇や社風だけでなく、個人が属する非公式集団もワーク・モチベーションに影響すると考えられているわけですが、これが良く機能する場合もあれば、悪い影響を与える場合もあります。良い影響を与えていると思える例として、実存の組織を描いた映画『前田建設ファンタジー営業部』を挙げたいと思います。ファンタジー営業部では、アニメのマジンガーZの格納庫を現実に作るというプロジェクトが立ち上がりますが、部署の皆が皆最初から乗り気ではありません。でも、渋々仕事を進めていくなかで出会っていく部外の人達の知恵や思い、協力的態度に触れて、皆が熱い思いでプロジェクトに取り組んでいくことになります。ここで登場する部外、社外の人達は、このプロジェクトに手を貸しても断っても良いわけですが、自分の本来の業務を越えてプロジェクトに関わる人達によって、非公式集団が形成されていきます。この非公式集団の良い影響が公式集団としての機能も上げて、素晴らしい成果を上げていったのだと考えられます。非公式集団は自然発生的に生まれるものなので、簡単に真似できるとは言えませんが、職場を見渡してみて、非公式集団の存在やその性質、機能に目を向けると、改善の余地や、発展させるべき要点も見えてくるのではないでしょうか。
次回は、 働く人の満足要因と不満足要因について取り上げます。
『前田建設ファンタジー営業部』
2020年1月31日より全国公開
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
実存する“前田建設ファンタジー営業部”の実話を基に映画化。仕事として成立するのか否かという次元の話が、社員や関わる人のモチベーションを見事に上げることになる展開が観ていて爽快。
©前田建設/Team F ©ダイナミック企画・東映アニメーション
TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)