映画『アド・アストラ』来日記者会見:ブラッド・ピット/毛利衛(日本科学未来館・館長/宇宙飛行士)、山崎直子(宇宙飛行士)
1992年9月12日、毛利衛宇宙飛行士が、日本人で初めてスペースシャトル“エンデバー号”に乗り宇宙へ飛び立ったのを記念して、毎年9月12日は宇宙の日と制定されました。そんな宇宙の日となる2019年9月12日、毛利衛氏が館長を務める日本科学未来館で、ブラッド・ピットの来日記者会見が行われました。
ブラッドは、館内に展示された地球ディスプレイ“Geo-Cosmos(ジオ・コスモス)”の周りを歩いて登場。この会見では、アジア圏からも取材陣が来ており、質疑応答の時間がたっぷりと設けられたので、Q&A形式で掲載します。
Q:今回、製作、主演で宇宙飛行士の役を演じて、チャレンジングな作品だったと思いますが、個人的に一番チャレンジングだったことは?
ブラッド:プロデューサーもやり、演技もやるわけですから、それだけ責任が増えるということなんですね。でもそのすべてが物語を語るという作業で、私はそれが大好きなんです。プロデューサーなので現場には早く行きますし、すべてをまとめて、チームを作るということで、これは皆が共同するスポーツのようなものです。毎日が挑戦なんですけど、製作をする過程でいろいろなことを失敗したり、間違えることがあります。私は昼間は俳優、朝と夜はプロデューサーというような分け方でやっています。すべて撮影が終わった後も、音楽や編集すべてに関わるわけで、まるでルービックキューブをやるような感覚です。一番今回チャレンジングだったのは、スペーススーツを来て演じたことです。
Q:今回初めての宇宙飛行士役ということですが、撮影で初めて体験したことや、初めてやった役作り法があったら教えてください。
ブラッド:このジャンルに今まで挑戦しなかったのは、非常に優れた作品がいっぱいあるジャンルで、やるなら全然違うものをやりたかったんですね。このジャンルに何か貢献できるような。そして、友人のジェームズ・グレイ(本作の監督)がそういうプロジェクトを持ってきてくれたんです。今回まるでピーター・パンのように、ワイヤーに吊されることが結構あって、それも宇宙服を着て吊されたので、そこが一つ大変でした。トレーニングの間、クルクル回されたり、上げられたり下げられたり、要するにどこまで吐かずに耐えられるかっていうことをテストするために、いき過ぎるところまでやって、ここまでしかやれないなと、そういういろんなテストをされたんです。
Q:今後俳優業をセーブされるというニュースに驚きましたが、その理由と、今回製作にも携わっていらっしゃいましたが、今後取り組んでいきたい仕事、思い描く夢を教えてください。
ブラッド:私は今まで通り、自分が心惹かれるプロジェクトには参加していくつもりです。本当にどういうものが自分に語りかけてくるかっていうことで、今までもそうですけど、やはり複雑な物語に惹かれます。ですからプロデュースもやりますし、俳優業もやっていきます。
Q:宇宙のリアリティやスケールを表現するにあたって、製作者側のブラッドさんは、どのような工夫をされましたか?
ブラッド:これは主にジェームズ・グレイ監督と、撮影監督のホイテ・ヴァン・ホイテマさんの考えだったんですけど、今回はあまりCGに頼らずに、なるべくオールドスクール、古いやり方でやりたいということで、実際に海王星に行くのは無理なので、レンズの中でいかにリアリティを出して撮るか、実際に撮るかで、これは自然なものなので皆が観て信じられるものにしたいわけなんですね。ですから、オプティカルとか、レンズのフレイヤーとか、月の暗闇とか、そういうものをレンズの中で実際に撮って、アナログとCGをミックスした撮り方をしました。結果的にすごくそれは体感的で臨場感のあるものになったので、CGでただ作り上げたものではなく、すごく真実味のあるものになったと思います。
Q:この映画は宇宙という広大な世界を描きつつ、自我の戦いを描いた作品だと思いました。そんな身近なテーマを宇宙を舞台にして描きたかった理由は?
ブラッド:この映画は、オデュッセイアのような自分を探す旅ということになると思うんですけど、深淵の中で人間というものの謎を比喩的に象徴しているのが宇宙だと思うんです。ロイは人生が何もかもうまくいっていなくて、自分の存在価値を見つけられなくなっています。銀河系の一番遠いところまで行って、自分と向き合わなければいけない。今まで抱えていた喪失感とか、後悔、自己への疑念、そういうものを全部押し殺してきたんですけど、ここで対面、対立しなくてはいけない。映画というものの魅力は、人間が持ついろんな葛藤、それにスポットを当てることができるところなんですね。人間のいろんな側面を映し出す、これは悲劇でもコメディでもそうだと思います。自分達の存在を笑い飛ばしたり、そういうことができる、それが映画が持つ本当の力であり、だからこそ私は惹かれます。
Q:今回プロデュースだけでなく、主演も務めようと思った決め手は何ですか?また、プロデューサー目線で、理想の監督像があれば教えてください。
ブラッド:まずジェームズ・グレイ監督とは昔からの友達で、1990年代半ばから何か一緒にやりたいねって話をしてたんです。ただし私は時間的に年に1本しか映画を撮れない状況でもありますし、なかなかそれがうまくいかなかったんですけど、これは非常に題材にも惹かれて、ずっと念頭にありました。やはり映画を作るのは大きなコミットメントなので、私は誰と仕事をするか非常に大事にしてますし、またどれだけストーリーを信じられるかっていうのも大事なんです。理想の監督は、自分の視点を持った方。初めて話合いをする時に、監督がどういう視点で描きたいのかとか、どれだけ強いストーリーがあるかとか、オリジナリティがあるのかとか、良い、おもしろい方向に向かっているのか、そういうことを見極めます。
Q:ジェームズ・グレイ監督と昔からのお友達ということで、これまでと違う、非常に難しい役をやっていて、かなりアップが多用されていて、ある意味(あなたが)裸にされている気がしました。どうやって、監督はあなたをこの作品に出すように説得したんですか?
ブラッド:監督はある道筋を示してくれて、トーンを示してくれます。自分が信用している監督なら、どんなにクレイジーなことでもやってみたいと思わせられるんですね。どういう気持ちで、難しいと思っても。でも信用していない人ですと、俳優としては自分を守る立場になりますので、あまりリスキーなことはできません。ジェームズ・グレイ監督は非常に正直で素直な方なので、僕もオープンに人間的な話をできると言いますか、我々の欠点の話も一緒に笑ったり、オープンな関係です。朝eメールが来て、とても私的な話をしたり、それがその撮影日のトーンを作り上げたりということがあります。そういう関係なので、どんな嫌なことも恥ずかしがらずにできるんです。だから最初にジェームズには、今回僕の演技は非常に微妙な“静”のパフォーマンスになるから、あまりにもフラットで退屈になりそうだったら言ってくれとお願いしました。
Q:多くの少年は子どもの頃に宇宙に行きたいという夢を持ちますが、あなたはロイを演じてそうういう夢は叶いましたか?
ブラッド:子どもの頃、宇宙飛行士になりたかったかどうかは忘れてしまいましたが、自分の中の少年の部分が宇宙船に乗るというだけでも興奮しますし、以前パイロットのライセンスを取ったことがあるんですが、コックピットに入って、いろんなスイッチやボタンを押したりするのはおもしろいし、そういう意味ではすごく楽しい時間でした。
Q:「私は今安定していて、よく眠れたし、悪い夢は見ませんでした」という心理テストが劇中に何度もありましたが、今はどうですか?
ブラッド:時差ボケで、お腹が空いていて、でもまだ寝ません。というのは東京の町をもっと見たいからです。
そして最後に、毛利衛氏と、国際宇宙ステーションの組立、補給に携わった、山崎直子氏が登壇。すると、ブラッドは「(2人は)ホンモノ(の宇宙飛行士)ですよ」と紹介。映画の感想を聞かれた毛利氏は、「(宇宙の日である)この9月12日にブラッド・ピットさんが来て下さって、とても嬉しいです。映画は楽しんで観ました。私が一番胸を打たれたのは、ロイが父親と息子として会うシーンや、自分の一番愛する人、チームワーク、宇宙飛行士はミッションが大事なんですけど、それらを演じる表情が非常に繊細で、その時その時で本当にホンモノ以上と言いますか、やはりすごい俳優だなということに驚かされました」と大絶賛。
山崎氏は「素晴らしい映画をありがとうございました。とにかく圧倒的な美しさと壮大さ、これはブラッド・ピットさんはじめジェームズ・グレイさん、いろいろなチームの方が魂を込められた賜物だと思います。宇宙飛行士の立場、実際に宇宙に行く時に子どもを残して行かなければいけなかった立場、家族に心配をかけてきた立場からすると、実はこの映画は心をえぐられる映画でした。だからこそ、映画はとても深いものだと思います。宇宙に行くと、地球のことがよくわかる。これは毛利さんが館長をされている、この日本科学未来館のまさに“ジオ・コスモス”に表れています。他の人と関わることで自分を知る、そんな自分を再構築していく映画だと思います。本当に皆さん共感できると思います。私自身も何度も観たいと思いますし、実際にブラッド・ピットさんが今度は宇宙を旅する日を見てみたいと思います」と、作品を称えました。
すると、ブラッドは「ちょっと質問して良いですか?(2人は)ホンモノですから」と言って、「実際に毛利さんと山崎さんは宇宙に行かれていて、宇宙から地球を見た時の感想とか、気持ちを教えてください」と問いかけました。毛利氏は「今自分がここの館長をしているのは、今ブラッドさんがおっしゃってくれた感覚を大事にして、それが自分のミッションだと思っているからです。科学技術が宇宙へ行くことを可能にしています。しかし同時に科学技術だけではこの私達が住んでいる大事な地球を守ることはできない。外から地球を見ると、誰が見ても美しいという気持ちを、世界中の人に伝えたいと思います。 子どもの頃を振り返ると、人類で初めて宇宙に行ったガガーリンの“地球は青かった”という言葉が、どんな青さなのかとずっと考えて、宇宙飛行士になりたいと思っていました。それを現実に見た時に、もっと深い意味がありました 」と、思いを明かしました。
山崎氏は「地球は丸い、青い、美しいということは今の時代皆さんわかっていることですけども、理屈ではなくて、体にストンと入ってくるような感覚で、地球自身が生きているような感じがしました。その中で私達も同じ生き物同士が向き合っているような感じがしたのが、私にとっては印象的でした。また宇宙に行った時にどことなく懐かしいような感じもして、宇宙は冒険で行く意味合いも強いんですが、実はふるさとを訪ねていくような感じもしました」とコメントしました。
さらにブラッドは「もう1つ、聞いて良いですか?」として、「もう一回行きたいですか?」と尋ねると、山崎氏は「また戻りたいです」と答え、毛利氏は「次は月ではなく、火星に行きたいです」と返し、記者会見を終えました。
今回ブラッドは、2年4ヶ月ぶり12回目の来日となりますが、日本が大好きとのことで、「実は今回こそ仕事だけじゃなくて、日本を満喫するぞと思って、早く来る予定でいたんですね。でも皆さんご存じの通り、台風が来たので、飛行機がキャンセルされてしまったんです。やりたいことリストは非常に長いものがあるんですけど、今回は東京を出て、ちょっと田舎に行ってみたいです。京都では、古い建築物や庭園なども見たいと思います。あと、鯉を養殖しているところを見たいです。竹林も見てみたい。日本の文化が大好きで、職人技とか質の高さ、和食からジーンズまですごくクオリティが高いということに感心しています。そして鯉が大好きなんです。鯉の話は1時間できますよ」と話していました。ぜひたくさん回って欲しいですね。
さらに会見の途中、「ここ、最高の記者会見の場所ですね!普段の場所より全然良い。“That’s pretty cool!”」と称賛したブラッドでしたが、終始上機嫌で、素敵な笑顔がたくさん見られました。「ジェームズ・グレイさんが描いたこの物語は、 宇宙という空間での1人の男の葛藤だったり自分発見で、これは表現するのがとても難しかったんですけども、結果には満足しています」と語っていましたが、本当に素晴らしい演技を披露していて、 映像も美しく壮大な宇宙に呑み込まれるような感覚を味わえます。ぜひ大きなスクリーンでご覧ください!
映画『アド・アストラ』来日記者会見:
2019年9月12日取材 PHOTO&TEXT by Myson
『アド・アストラ』
2019年9月20日より全国公開
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
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