映画『ドント・ウォーリー』来日トークイベント:ガス・ヴァン・サント監督/野村訓市氏(司会)
2014年に他界した名優ロビン・ウィリアムズが映画化権を所有していましたが生前に手掛けることができなかった本作は、そんな彼から、監督を務めて欲しいと相談を受けていたガス・ヴァン・サントの手で、企画があがってから20年の時を経て、ようやく完成されました。本作のPRのために来日したガス・ヴァン・サントが行ったティーチインでは、海外の映画監督とも親交が深い、クリエイターの野村訓市氏が司会を務め、フランクな会話から裏話もたくさん聞けました。
野村訓市氏:
本作の主人公である漫画家ジョン・キャラハンって、僕等日本人にはあまり馴染みがないんですけど、監督がポートランドに住んで映画を作り出した頃に、ちょうど彼も新聞で漫画を書き出したらしいですね。彼はどんな人で、ポートランドではどう思われていたのか聞かせてください。
ガス・ヴァン・サント監督:
ジョン・キャラハンは、80年代に漫画家として活動し始めたんですけど、私がポートランドで映画を撮り始めた時に、彼はローカルな人物として皆に知られるようになりました。彼はおもしろいんですけど、彼の漫画はとても毒のあるもので、いろいろな問題を起こしたり、いろいろな人の気分を害したり、彼の障がいとかそういったものも扱っていたりで、さまざまな苦情の手紙なども届いたわけですが、彼はそれさえ喜んでしまっていたわけです。
ロビン・ウィリアムズはサンフランシスコに住みながらずっと彼のファンだったそうですが、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のちょうど後くらいに、この本の映画化権を買ったということで、私に監督をしないかという話がきました。
野村訓市氏:
それで作りたいと思ったんですか?
ガス・ヴァン・サント監督:
ジョン・キャラハンについては、彼のストーリーから知っていて、車椅子のこと、アルコール依存症のこと、事故についての話はしていたんですけど、ロビン・ウィリアムズが演じるのなら上手くいくと思いました。それで脚本を2本書いたんですが、結局映画化はされなかったんです。その過程でキャラハンにも実際に会いました。それがきっかけで1本目の脚本を手伝ってくれたりしました。
野村訓市氏:
当時はロビン・ウィリアムズが演じるという前提で書いていたんですよね?でも彼が亡くなって、フォーカスが変わっていったんですね。
ガス・ヴァン・サント監督:
1本目は結局映画化されなかったんですけど、それが1998年のことで、それから何の音沙汰もなく、2本目の脚本ができたのは2001年から2002年くらいだったと思います。その後もまた音沙汰がなく、その時にジョン・キャラハンが、「一体どうしたんだよ。この映画ができる頃に俺達は死んでしまうよ」って。
野村訓市氏:
そしたら全員本当に亡くなってしまったんですね。
ガス・ヴァン・サント監督:
まずジョンが亡くなりました。それからロビンが亡くなって、ジョンの言うとおりだったなって思ったんです。ロビンはいなくなってしまいましたが、まだ本の権利は持っていたんです。コロンビア映画が持っていました。実際に誰がどうすれば良いんだっていうことになって、私に興味があるかということでまた話が来たわけです。僕自身は、AAミーティング(断酒会)に興味があったので、その彼の経験するプロセスに興味を持ちました。それで台本を書き上げる時に、そういう部分を込めながら書いていって、ホアキン・フェニックスにそれを見せたんです。
野村訓市氏:
断酒会で皆が問題を話し合うって、日本ではあまりやらないんだけど、アメリカではすごく多い会合で、ガスが何でそれに興味を持ったのかと思って、さっきそういう話を裏でしてたんですけど、「断酒会に自分(ガス)も出てたことがあるのか?」って言ったら、「出たことがある」と。
ガス・ヴァン・サント監督:
断酒会に出てたってことだよね。
野村訓市氏:
実際どうだったんですか?上手くいくもんなんですか?断酒会に出た人は恐らくここ(会場)にはいないと思うんですが。
ガス・ヴァン・サント監督:
セラピーの状況については知っていたんですけど、結構エキサイティングなことなんですよね。8人で円を組んでいろいろな話をしていくわけですけど、皆がお互いに嘘を付き合っているという。だからおもしろいんじゃないかと思ったんです。それでやりました。
野村訓市氏:
映画の中のジョン・キャラハンのように実際に効果はあったんですか?
ガス・ヴァン・サント監督:
いや、僕は実際にそのステップまでには行っていません。まだ問題があるっていうことなのかな(笑)。
会場のお客さんによる質問コーナー
観客 A:
ロビン・ウィリアムズが亡くなってから、この作品はリライトされたということでしたが、ホアキン・フェニックスが主演に変わって、ロビン・ウィリアムズの場合とどういうところが変わりましたか?あとホアキン・フェニックスをキャスティングしようと思った理由を教えてください。
ガス・ヴァン・サント監督:
1〜2本目の脚本には母親の話が入っていて、彼が持っているオブセッション、つまり養子に出された彼の母親探しと、彼が抱えている内面の問題というものにフォーカスが当たっていました。1本目も2本目もそうなんですが、2本目においては特にアルコール問題とか、断酒会について描かれていて、ドニー(ジョナ・ヒルが演じたキャラクター)の問題がそこに入っていなかったわけです。それが結果的に多少あったにしても、より高予算のアニメーションなどが入る予定の脚本でした。3本目の脚本というのは、逆に本に出てくる章を中心にしていて、断酒会、12ステップのプログラムなどについて触れるような形で進めていきました。そしてもう1つホアキンに対しての質問ですが、彼は本当に自分を徹底的に入れ込んでくれるので、彼との仕事は素晴らしい体験でした。
最後に、野村訓市氏は「今話していたら、この映画を観て日本の皆さんは気に入ってくれるかなって。馴染みのないテーマかも知れないけどって」と語り、会場に拍手を求めると、盛大な拍手が沸き起こりました。それを受けて、ガス・ヴァン・サント監督は、「気に入ってくれたならぜひ友達にも伝えてください。そうしてくれないと誰も行かないよ(笑)」とコメントし、イベントは終了しました。ガス・ヴァン・サント監督がありのままに語ってくれたように、本作は綺麗事としてでなく、ジョン・キャラハンがありのままに葛藤する姿が描かれています。観る視点がいろいろとある作品なので、どこか通じる部分が見つかるはずです。
映画『ドント・ウォーリー』来日トークイベント:
2019年2月19日取材 PHOTO&TEXT by Myson
『ドント・ウォーリー』
2019年5月3日より全国順次公開
PG-12
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