映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』来日記者会見:レオナルド・ディカプリオ、クエンティン・タランティーノ監督、シャノン・マッキントッシュ(製作)
本作の公開を間近に控え、主演のレオナルド・ディカプリオと、クエンティン・タランティーノ監督、製作のシャノン・マッキントッシュが来日し、記者会見を行いました。タランティーノ監督はもうすぐお子さんが産まれるとのことで「家中に小さな“タラチャン(日本語で)”がたくさんいるような日も近いんだと思います」と喜びを露わにしました。この日はたっぷり質疑応答の時間が設けられましたので、Q&A方式でご紹介します。
Q:シャロン・テート殺人事件という史実に基づきながらも、リックとクリフという架空の人物を加えるアイデアはどこから生まれたのですか?
タランティーノ監督:すごくおもしろいと思ったのは、この映画で描いているハリウッドの時代には、カウンター・カルチャーの変化が見られたところです。町も業界自体もそうでした。なのでその時期をシャロン・テートの事件に至るまでの時間軸に設定すれば、歴史的な部分というのも掘り下げられておもしろいのではないかなと思いました。13、14歳くらいの時に1970年代に出版された本を読んでいて、ちょっと変わったものではあったんですが、すごくおもしろかったのは、実際にその時代の有名だった方とフィクションのキャラクターを組み合わせた物語だったんです。ハリウッドの一時期を描くのに、自分もそのフィクションのキャラクターと、実際にロサンゼルス群に住んでいた方と組み合わせたらおもしろいんじゃないかと思いました。
Q:タランティーノ監督作は『ジャンゴ 繋がれざる者』以来の出演ですが、このオファーが来た時の気持ちは?
ディカプリオ:この人物の魂の部分をどうやって作り上げていくかということで、本当に数日間で起こる物語なんですけど、彼は私的にも変わりますし、俳優としても何とか時代についていこうとするわけです。彼は1950年代のテレビでスターとして西部劇に出ていたわけですけど、今ではアンチ・ヒーロー的なあまり好かれない悪役を演じなければいけなくて、彼にとっては考えられないような状況になってきているんです。でも周りでは文化も演技自体も世界が変わってきていて、表裏一体という関係の2人、彼らの友情がどうやって2日間のうちに変わっていくかというストーリーです。非常に良かったのは彼らのバックストーリー、彼らの歴史を全部聞いていたことです。(リックは)若い女の子に出会って、彼が本当に秘めている力を押し出してくれるような助けをしてくれます。そうやって変わっていくストーリーで、ブラッドもそうだったと思うんですけど、僕達はこの映画をやりたいという気持ちにさせられました。
Q:レオナルド・ディカプリオさん、ブラッド・ピットさんを起用した理由は?
タランティーノ監督:2人がこの役にピッタリだったからです。でも正直なところ、自分が選んだというよりも彼らが僕を選んでくれたと思うんです。すべての企画のオファーをされるお2人ですから、その中から自分を選んでくれたのはラッキーだったし、自分が以前に彼らと仕事をしたことがあったこと、自分の仕事を彼らが好きでいてくれることもあり、たくさん送られてくる山積みになった脚本の中できっと上のほうに僕の脚本があったんだと思うし、内容にもキャラクターにもすごく響くものがあって、やりたいと思ってくださったんです。個人的にもレオとブラッドの2人のキャスティングができたのは、世紀のクーデターではないかと思います。そして、主演格の俳優ともう1人はそのスタントダブルというバディものですから、素晴らしい役者だから、大物だからというキャスティングだけではうまくいかないわけです。必要だったのは、どんなに内面のキャラクターは違っても、外見の部分でどこか近しいところがなくてはいけないということ。ある俳優のスタントダブルとして演技ができるような、つまり同じ衣装に身を包めば非常に近いルックスになるようなことも必要だったんですね。それを見事にお2人が持っていてくれたことが幸運だったと思います。
Q:親友のブラッド・ピットとの共演ということで、(役作りで)どんな準備をしましたか?
ディカプリオ:私は徹底的に映画に関して、キャラクターに関してリサーチします。ブラッドが演じるクリフも、私が演じるリックもこの業界に属しているけど、ど真ん中にいるわけではなく、外側というか、ちょっと落ちぶれているんです。ハリウッドがどんどん変革していく中、2人は取り残されています。ブラッドも私も実際にはキャリアとして成功していると思います。しかし、この業界がどういうものであるか、周りというものも見ていますし、このキャラクター2人がどういう状況なのかというのは非常によくわかるし、お互いに依存し合っているような関係にあるんですね。彼らのサバイバルのためにはお互いが必要だということ。そういうようなバックグランドというものを、すべて監督が用意してくれていて、どういう映画に2人が出たことがあって、どういうパートナーシップなのか、すべて決められていたので、この映画に入っていく時にある程度知っていたんです。でも撮影中にももっともっと情報がきましたし、時代の精神というものもわかりながら撮影ができました。
Q:リックというキャラクターを作るにあたり、監督がインスピレーションを受けた映画やドラマのキャラクターはありますか?
タランティーノ監督:当時はリックと同じような状況の役者さんはたくさんいたと思います。まず背景に1950年代にテレビというものが登場して、新しいスター達をテレビを通して生んだということがあります。それまでは映画、舞台、ラジオでスターがたくさんいたわけですが、テレビが人気を博す中で、テレビを通して大スターが生まれてきて、1本の作品の1エピソードの視聴者のほうが、クラーク・ゲーブル作品の観客よりも多くいるような時代でした。けれども新しく生まれてきたスター達が50年代から60年代の過渡期にどうなるのかというのはまだ見えてなかった時期なんです。もちろんテレビから映画へと見事に活躍の場を広げた3人の役者さんは誰にでもすぐに思い当たると思いますが、スティーブ・マックイーン、クリント・イーストウッド、ジェームズ・ガーナーさんです。ただ彼らのようにうまく移行できなかった方もたくさんいるわけです。出演した映画の質があまり良くなかった、ヒットしなかった、あるいは他の理由でうまくいかなかった方達が当時たくさんいて、1人というわけではないんですが、それらの実際の役者さん達のいろいろな要素を組み合わせて、リックというキャラクターを作っています。テレビ番組『ルート66』の主演の1人だったジョージ・マハリスさん、『サンセット77』(原題:77 Sunset Strip)のエド・バーンズさん、『ベン・ケーシー』のヴィンス・エドワーズさん、『ブロンコ』のタイ・ハーディンさんなどです。
Q:何を一番大切にしてキャラクター作りをしましたか?
ディカプリオ:たくさんの俳優さん達を参考にしました。この映画のリサーチをした時は未知の世界に入り込んだという感じだったんです。皆さんご存じのようにクエンティン・タランティーノと言えば、映画マニアですから、ものすごい知識の宝庫なんです。そのようなことで、いろんなものを紹介されまして、私はある意味、この映画は、ハリウッドという場所の祝福というか、お祭りというようなことだと思うんですね。私達が愛したいろんな作品に貢献していた多くの俳優さん達がいて、でも多くは忘れ去られていると思うんです。私はリックというキャラクターを通して、いろいろな忘れられた人達、ほんの一部しか知らなかった人達、そういうような人達のことがわかり、どんどん文化が変わり、映画作りも変わっていく中で、ハリウッドというのは魔法のような世界で、リックはまだまだ仕事ができているわけですし、存在はしているわけだから、彼はラッキーなんだという気持ちになりました。こういうリサーチをしたということは私にとって、素晴らしい経験になりました。
Q:タランティーノ監督独特の現場で、印象に残ったことは?
シャノン・マッキントッシュ:クエンティン・タランティーノの作品には本当にマジカルなものがあると思います。現場も本当に素晴らしいんです。ある意味、ファミリーが戻るという感じで、最初の作品『レザボア・ドックス』からずっと一緒に働いているクルーもたくさんいるわけです。だから彼らは本当に楽しんでこの現場に戻ってくるんです。クエンティン・タランティーノのビジョンを彼らは一緒になって作り上げようとしますし、非常に多くのインスピレーションを受けるんです。撮影していない間、準備をしている間は、クエンティンの歴史の授業が始まって、「どの映画を観ろ」とか「どういうテレビの番組がある」とか、いろんなことを彼から学べるわけなんです。誰よりもよく知っているわけですから。そして、スタッフはどんな映画をやっていようと、クエンティンの映画に参加したいということで、「彼が(脚本を)書き出したよ」というと、「いつ頃、出来上がるの?」と私に連絡をしてきます。他の映画を断ってでも参加したいという、それだけの喜びもあります。今回、レオ、ブラッドとマーゴと一緒に働く彼の仕事ぶりをみて、皆感じたのは喜びと素晴らしさでした。テイクを撮ったあと、クエンティンが「今のでオーケーだ」と出すんですけど、もう一回撮るよという時、皆が「え?なぜ?」と言うと、全員で「だって、僕たちは皆映画作りが好きなんだ」という言葉をいうのがお決まりです。これは皆本心で言っています。
Q:作品の中では、ものすごい奇跡が起きますが、皆さんの身の回りで起こったとんでもない奇跡は何ですか?
タランティーノ監督:映画のキャリアをこの業界中で持てているということ自体がミラクルなんじゃないかなと思っています。これまで9本の映画を作ることができて、こうやって日本に来ても自分が誰だか皆様が知っていらっしゃるわけで、1986年にはビデオストアで働いていた自分があると思うと、これが大きなミラクルだなと感じます。たくさんの素晴らしい機会を与えられて、この業界の中で仕事だから映画を作っているわけではなく、1人のアーティストとして映画を作ることができる。自分の道のりを前に進むという形で物語を綴ることができていることが、本当に幸運だし、そのことを絶対に忘れないでいようと思います。
ディカプリオ:クエンティンさんの言ったことに完全に同意します。僕はLAで育ち、実際にはハリウッドで生まれてるんですね。本当にこの業界を知っているので、どれだけ俳優であることが大変なのかというのはわかります。世界中から夢を持って人々がハリウッドにやってくるわけです。このメッカ、夢の国に。でもなかなかその夢を叶えられないのが現状だと思います。私はラッキーなことに子どもの頃からハリウッドにいて、学校が終わるとオーディションを受けにいくという、そういう生活ができたんです。ですから、今本当に仕事がある俳優であるということ、また自分に決定権があったり、選択肢がある、それ自体が俳優としては奇跡だと思います。そのことに本当に感謝していますし、一緒に仕事をする仲間にも仕事があるということがミラクルだと思います。なぜかというと、99%の人はこういう奇跡がなくて、なかなか仕事がないという現状だからです。
シャノン・マッキントッシュ:私も本当に同じなんですけど、この大好きな仕事をできて、大好きなこの業界で、大好きな人達と仕事ができるということ、家族がいて、私のこういう生活に耐えてくれる夫がいて、2人の息子がいるっていうことがミラクルだと思います。
Q:1969年の古き良き時代のハリウッドのセットや当時のヒッピー・カルチャー、ファッションなども見どころだと思いますが、監督自身、この時代を作り上げる上で一番楽しかったことは?
タランティーノ監督:本当に楽しいことが満載で、素晴らしい役者さんにも恵まれましたし、この時代、そのキャラクターに息吹を吹き込むことは本当に楽しい作業でした。でも一番何に満足したかと聞かれたら、今生きている町ロサンゼルスを、40年間という時を戻して、CGを一切使わず、スタジオでも撮影せず、バックロットのようなセットを組んで撮影するわけでもなく、実際にビジネスも普通に行われていて、車や人通りもあるその場所を、衣装、映画で使われるさまざまなトリックを駆使して、あの時代を再現できたと自負していますし、そこに一番のマジカルな満足感を覚えます。1969年ということで、最近初めて知った日本の監督について一言触れたいんですが、蔵原惟繕監督(初監督作品『俺は待ってるぜ』)の『栄光への5000キロ』が、日本では1969年に一番ヒットを飛ばしたというのを知りました。
Q:皆さんにとってハリウッドとは?
タランティーノ監督:まさにレオとも話していたことですが、2つの意味を持っています。一つは映画業界、そして町としてのハリウッドです。この映画はこの両方を描いた作品です。もちろん市民が住んでいる町でもあり、一つの業界として、大きな成功、中ぐらいの成功、中ぐらいの失敗、大きな失敗、すべて隣りあわせにあるそんな町でもあります。そんな風にいろいろな人のポジションがどんどんどんどん変わっていく場所でもあって、そこがすごく興味深い町でもあるんですけども、そこで20年、30年、仕事をしていると、感覚的にはずっと同じ高校に通っているような感じなんですね。しばらく10年くらい会っていない方でも、嫌いになったから会っていなかったわけでもなく、会えたらすごく嬉しいし、普通だったら4年くらいの高校生活が25年くらいずっと続いているような感じです。
ディカプリオ:私にとっては、ハリウッドもLAも生まれ育ったところなので、ちょっと偏見があると思うんですけど、かなり悪評というかひどい人もいることは確かです。でも、私自身はLAに家族もいて、本当に良い友達もたくさん作っていますので、そういった意味ではこの町は私の一番になっていると思います。ある意味ここは夢の工場であり、もちろん成功も生み出しますが、失敗もあります。LAの中で本当に多くの素晴らしい人々、世界中から集まった人々に会ってますし、結構政治的な意見が合う人もいますし、常にLAは戻ることでハッピーになれる場所です。
シャノン・マッキントッシュ:私はクエンティンやレオと違って、ハリウッドやLAで育ったわけではないですが、もう20年間住んでいますので、今は自分の故郷ですし、家のあるところで、心からとても愛する場所です。
最近は記者会見がめっきり減ってしまいましたが、しっかりと映画のお話を聞けるこういう機会を設けて頂けるのはすごく嬉しいですね。たっぷりと3人のお話を聞いて、この映画の魅力を一層感じました。ハリウッドで生き延びてきた方達が作った作品だからこそ、いろいろな思いが込められていると思います。ぜひ本作で、1969年代のハリウッドにタイムスリップして、世界観に浸ってください。
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』来日記者会見:
2019年8月26日取材 PHOTO&TEXT by Myson
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
2019年8月30日より全国公開
PG-12
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
前述のタランティーノ監督がお話されていた、日本で1969年に大ヒットした蔵原惟繕監督作『栄光への5000キロ』の出演者は、石原裕次郎, 仲代達矢, 三船敏郎、伊丹十三と超豪華で、カーレーサーのお話です。タランティーノ監督は「(日本に)あと2日間いるから、英語字幕入りのDVDを持っている人がいたら募集中です」とジョークを言っていましたが(笑)、監督が観たい映画なら、「私も観たい!」という方、いますよね。探してみたらありました。下記の文字リンク、ジャケットをクリックすると、デジタル配信でレンタル視聴できます。