是枝裕和監督ってやっぱりスゴい!そして、この世界観に生きる人間達をリアルに体現するソン・ガンホを始めとした韓国実力派俳優もスゴい!「赤ちゃんを売る」という絶対に共感できないであろう設定によって、最初は一種の抵抗感を持って観る方もいると思いますが、観てみると、皆が赤ちゃん、子どもを大切に思う姿勢が根底にあることがわかり、メインキャラクター達の葛藤を観る側も体感することになります。
キャラクターそれぞれの一見不可解な行動の裏には、傷付いた過去や未来への不安を物語る心境があり、それが徐々に露わになっていきます。さまざまな立場のキャラクターがいながら、誰かを擁護するわけでもなく、客観的、総合的な視点で「子どもが育てられない場合にどうすべきか」という問題に切り込んでいる点も見事です。当然ながら、女性目線で観て複雑な心境になるシーンやセリフはいくつかあります。きっと始めは誰か1人自分に近いキャラクターを見つけて感情移入しながら観るでしょう。でも、自分とは正反対の立場のキャラクターの心情も合わせて観ることができ、良い意味で何が正解かわからなくなるはずです。そうしてわからなくなるからこそ、それぞれの立場で考えるようになる。だから、本作はそういう意味でどんな立場の人にも平等に問題提起をしているのだと感じます。
また、本作には貧困という問題も潜んでいます。だから、女性だけの話、カップルや夫婦だけの話でもありません。社会全体に関わるストーリーというところで、ぜひ多くの方に観て欲しいと思います。
将来的に子どもが欲しいと思っているカップルは特に、ぜひ一緒に観てください。実際にまだ子どもがいない状態だと、すべて大人の事情で考えてしまいがちです。でも、本作には子ども側の目線も描かれていて、子どもを持つことの重みを改めて実感させられます。子どもの存在は2人の関係にも大きく影響することなので、1度じっくり話し合う機会として観てみると良いのではないでしょうか。
子ども目線では本作はどんな風に見えるのか、ぜひ聞いてみたいところです。本作を観ると、世の中にはさまざまな事情を抱えている人がいるとわかるでしょう。それぞれ考え方も違います。でも、本作のキャラクターはお互いを知ることで徐々に心を近づけていきます。学校などでも、辛い事情を隠している友達がいるかもしれません。本作を観て社会事情を知って視野が広がれば、悩みを抱えている友達に今より少しは優しくできるようになるかもしれません。
『ベイビー・ブローカー』
2022年6月24日より全国公開
ギャガ
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TEXT by Myson