REVIEW
1926年、女性で初めて遠泳による英仏海峡横断を達成した水泳選手トゥルーディー・イーダリーの実話を、デイジー・リドリー主演で映画化した本作は、『トップガン マーヴェリック』のジェリー・ブラッカイマー、チャド・オマンがプロデューサーを務め、『マレフィセント2』『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』のヨアヒム・ローニングが監督を務めています。トゥルーディー・イーダリーは1905年生まれ、ニューヨークで育ちました。Gertrude Ederle(ガートルード・エダール)で検索すると、プロフィールが見られます(参照:Britannica )。トゥルーディーは子どもの頃にはしかにかかり、生死を彷徨いました。その頃、船の沈没事故が起き、当時泳ぎを教わっていなかった女性達が海に飛び込んで逃げるという選択肢がなく命を落としたということをトゥルーディーは知ります。そして、はしかから奇跡的に回復した彼女は、泳げるようになりたいと強く思い、当時は女性に許されていなかった水泳に挑戦します。
まず、スイマーとしての才能が開花する姿を観るのが爽快です。映画公式資料によると、彼女は競泳選手として29の全米、世界記録を作り、アメリカ代表に選ばれた1924年のパリ・オリンピックでは400m自由形リレーで金メダルを獲得しました。そして、1926年8月、女性で初めて英仏海峡(距離36マイル)を完泳した時の記録は14時間31分で、当時の男性の世界記録から2時間ほど速く、その記録は35年間破られなかったそうです。でも、海を泳いで渡る上で必要なのは水泳の技術だけではありません。自然の脅威に耐えうる体力と精神力が何よりも要であり、劇中でも「この状況で泳ぐの!?」というシーンが出てきます。過去には命を落とした選手が何人もいるので、いかに危険なスポーツかがわかります。それでも彼女が挑んだ理由にはさまざまな思いがあったのだろうことが本作から伝わってきます。
本作を観ていると、トゥルーディーの意志の強さと実行力は、母親譲りだとわかります。女性には良縁を見つけて結婚するという選択肢しかなかった時代に、母は姉とトゥルーディーに少しでも自分の意志で生きていけるよう希望を託したのがわかります。ただ、水泳が習えたとしても、その後も女性だからというだけでトゥルーディーはさまざまな困難を強いられます。それでも負けずに戦った姿が本作には収められていて、トゥルーディーをはじめ性差別に立ち向かった人々がいたからこそ、徐々に女性が社会進出できるようになったのだなと実感します。
トゥルーディー・イーダリーは女性の生き方を切り拓いてきた人物として偉大であるのはもちろん、自分の意志に従って難関に挑戦した人物として、性別や年齢を問わず勇気を与えてくれます。やりたいことがあるのに叩かれてばかりでくじけそうな方は、本作を観てエネルギーチャージしてください。
デート向き映画判定
ロマンチックなムードになるようなストーリーではないものの、人生観を問う物語で爽やかな作品なので、デートでも観やすいと思います。また、結婚観を考えさせられる展開もあるので、敢えてカップルで観るのもアリでしょう。一生を共にするつもりのカップルや既に夫婦の場合は、トゥルーディーの両親の姿から、子育てについて参考にできるところがあるかもしれません。
キッズ&ティーン向き映画判定
子どもや若いうちは大人のいうことを聞かないといけない状況ではあります。でも、ここぞという時もあるでしょう。正しい判断なのかどうかは正直正解がないというか、その後になってみないとわからないものです。ただ、挑戦したいことがあり、挑戦しなければ後で絶対に後悔すると感じるほどに強い意志があるなら、声を大にして主張することも大切です。トゥルーディー・イーダリーはどうしたか、とても参考になるはずです。
『ヤング・ウーマン・アンド・シー』
2024年7月19日よりディズニープラスにて独占配信中
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TEXT by Myson