REVIEW
製作にスティーヴン・スピルバーグ、マーティン・スコセッシという重鎮が名を連ね、ブラッドリー・クーパーが監督、主演を務める本作は、指揮者、作曲家、ピアニストとして音楽史に名を刻んだレナード・バーンスタイン(ブラッドリー・クーパー)と妻のフェリシア・モンテアレグレ・コーン・バーンスタイン(キャリー・マリガン)の物語です。レナードは1943年、25歳という若さで、ニューヨーク・フィルハーモニックの指揮者を代役で務め、華々しいデビューを飾ります。その後フェリシアと出会い、1951年に2人は結婚。始めは順調に結婚生活を送っていました。ただ、レナードにはもう一つの側面がありました。その側面については、序盤でさりげなく触れているので、フェリシアとの結婚が最初から単純なものではなかったことは察しがつくと思います。
レナードは音楽家としてめきめきと出世していきます。フェリシアも俳優として実力を発揮しながら、子育てに追われ、レナードを支えるためにも家庭に入ります。夫の才能を潰さないようフェリシアが支えている様子が健気に映る一方で、やはり彼女も限界に近づいていきます。彼女が何より辛かったことは後半になるにつれて明かされていきます。
才能ある人物と人生を共にしようとする時、パートナーも大きなものを背負うのだなと、本作を観て実感します。レナード本人が周囲の大きな期待から重責を負っているのは当然ながら、影で支えるフェリシアも多くのことに耐えています。2人の様子を観ていると、絆は強固なものであるのが伝わってくると同時に、絆が深いからこそフェリシアは一層苦しかったのではないかと感じます。
ネタバレにならないように濁して書いているので、お伝えしづらい部分もありますが(苦笑)、2人が生きた時代の風潮も大いに影響しているとはいえ、現代でも同じように悩む方達はいるはずです。でも、本作を最後まで観て、結局2人の愛は本物だったと感じました。“愛の形”へのこだわりは捨てられないとしても、愛することはやめられない。本作は、そんな2人の素敵なラブストーリーです。
そして、本作ではブラッドリー・クーパーのなりきりぶりも見どころです。まず、『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』『スキャンダル』で2度のオスカー(メイクアップ&ヘアスタイリング賞)を受賞したカズ・ヒロ(辻一弘)が担当した特殊メイクに要注目。特殊メイクとブラッドリー・クーパーの演技力で、20代から晩年のレナードが蘇ります。また、指揮者、ピアニストとしてのパフォーマンスも見事。個人的には、終盤で学生に教えるシーンで指揮でこれほど演奏が変わるのかと驚き、それを体現するブラッドリー・クーパーのスゴさも実感しました。
レナードは「ウェスト・サイド・ストーリー」など名作ミュージカルの楽曲もたくさん作曲しています。劇中で流れる音楽にも耳を澄ませてください。
デート向き映画判定
とてもロマンチックでありながら、切ないラブストーリーです。パートナーがアーティストでなくても、レナードとフェリシアと同じような関係性のカップルは、本作を観て自分達についていろいろと思考を巡らせることになるでしょう。2人で一緒に観てこれを機にじっくり話し合うのも良し、1人でじっくり観て自分の恋愛観を見つめ直すのも良いでしょう。
キッズ&ティーン向き映画判定
レナードが音楽家として活躍する姿は観ていて憧れる方もいるかもしれません。一方で、常に世の中の注目を集めることで家族関係に影響が及ぶ様子も見られるので、名誉や地位がもたらすものがメリットだけではないとわかるでしょう。皆さんはレナードとフェリシアを親に持つ子ども達の目線で観ることもできるでしょうし、将来の恋愛像の1つとして観ることもできると思います。
『マエストロ:その音楽と愛と』
2023年12月20日よりNetflixにて配信中
公式サイト
TEXT by Myson
第96回アカデミー賞®ノミネート:作品賞、主演男優賞(ブラッドリー・クーパー)、主演女優賞(キャリー・マリガン)、脚本賞、撮影賞、音響賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞(カズ・ヒロ)、計7部門