映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』来日記者会見、辻一弘
第90回アカデミー賞®にて、主演男優賞(ゲイリー・オールドマン)、メイクアップ&ヘアスタイリング賞(辻一弘他2名)の2部門を見事受賞した本作。日本での劇場公開を控え、メイクアップ&ヘアスタイリング賞では日本人初受賞となった辻一弘氏が来日記者会見を行いました。
登壇した辻氏は、現代美術家として目の前に置かれているオスカー像のデザインや触り心地を聞かれると、「すごく素晴らしいデザインですね。他のトロフィーと比べても、デザイン的にプロポーションも素晴らしいです」とコメント。また、アカデミー賞受賞については「実際、この映画が獲ったっていうことに非常に意味があると思います。映画も素晴らしいですし、メイクも作品の一部として認められたというのが非常に良かったです。あと今回もそうですけど、日本に戻ってきて、こういうことができたり、日本の若い人で特殊メイクをしている人に、こういう可能性もあるんだっていう夢が与えられたことは、非常に良いと思います」と語りました。
ゲイリー・オールドマンが別人のような容姿になって、チャーチルに変身している本作で、造形のなかで一番難しかった点やパーツ、工夫した部分を聞かれると、「チャーチルとゲイリーさんの顔はプロポーション的にもかなり違います。似ていればわりと簡単だったんですけど、そういうなかで、メイクのゴールとしては、メイクに見えないメイクをやりたかったんです。似せるためにつけ過ぎてもマスクみたいになるので、どこを工夫してつけ過ぎずに似せさせるのか、バランスを作り出すのが非常に難しかったですね。テストメイクを大体5つくらいして、結局一番最後にやったのが「これが一番いいだろう」ということで、それが使われることになったんです」と返答。実際、メイクに見えないメイクだったので、大きなスクリーンで観るほど、その精巧さに驚くと思います。
18歳の時にディック・スミスの特殊メイクに出会い、特殊メイクの道を進んできた辻氏。日本にいる10代、20代の夢に向かっている若者達に向けて、何かメッセージがあるか尋ねられると、「よく言うのが、確実に自分の心を正直に見出して、他人の意見を聞くな、とりあえずやりたいことをやれって言うんです。どうしてもね、先生とか兄弟とか親とかに相談すると、いろいろアドバイスをくれるんですけど、結局何が一番大事かっていうと、自分の心の中で精神的に繋がったものっていうのは、自分にしかわからないので、自分で決めてやっていかないといけないんです。他の人の意見を聞いたり、流されてしまうと、後で後悔するので。それと、10年は続けること。海外に1ヶ月くらい1回住んでみることは大事ですね。僕もやりたいことをやって、2012年に映画界を一旦去りましたが、目標を切り替えるまでに10年くらいかかりました。ていうのはやっぱり、今まで積み上げてきたものを切り捨てるのが怖かったので。決心がついて本当にやりたいことをやると、人生どんどんいろいろなことに1つ1つ繋がっていくんですよね。だから、自分のやりたいことを見極めるっていうのがとりあえず大事で、あと自分をよく、もっと信じるべきですよね。日本人の悪い癖で、自分を信じられないっていうのがあるんですけど。それはやっぱり、直した方が良いですよね」と、熱く語りました。この言葉、胸に染みました!
本作では、ゲイリー・オールドマンが演じるチャーチルがほとんどの場面に登場して、ほぼ出ずっぱり。そういう意味での苦労や、メイクにどれくらいの時間がかかったか、またチャーチルのような歴史を動かした人物にただ似せるだけではなく、歩んできた人生みたいものを出すために、メイクで心がけたところは何かという質問も出ました。「今回この仕事を僕が受けた時、“僕はセットでメイクしたくないから”とゲイリーさんに言いました(笑)。僕が映画界を去った理由の一つが、大勢の中で一緒に仕事をするっていうのが嫌いで、1番最初にセットに入って1番最後に出るような仕事なんですね。今回は、ゲイリーさんと相談して、僕はデザイン、テストメイク、フィルムテストをして、メイクを完成させた後に、デヴィッド・マリノフスキ、ルーシー・シビックの2人に、どういう風にやるのかお話しして、後はお任せしました。メイク時間は大体3時間15分から3時間半くらいです。結構タイトなスケジュールで、撮影は48日間。予算がすごくある映画ではなかったですが、ゲイリーさんがメイクをされるっていうことをちゃんと理解されていて、あとはスタッフ全員素晴らしい人ばかりだったので、こういう素晴らしい映画になったんだと思います。あとは、デザインの時に、行程として写真を色々集めたり、(チャーチル関連の)ドキュメンタリーを観たり、もちろん精神的にチャーチルがどういう人であったか理解をするのは非常に大事でした。表面的なことで似させると、どうしても演技にも繋がらないので、その点はいろいろリサーチしましたね」と明かしました。とてもストレートに発言される方で、聞いていて気持ちが良かったです。
一度映画の現場を去られて、本作で復帰した辻氏にとってのハリウッドはどういう世界なのかという質問には、「それこそ複雑な思いがあるんですけど(笑)、やっぱり映画の仕事をするのであれば経験しておく場所なので、すごいと言えばすごいですし、良いところも悪いところもいっぱいあります。一言では難しいですが、大変なことがいっぱいあるので、その中で生き残っていくというか、合う人じゃないと大変過ぎてもたないと思うんですね。僕もそうだったので。ただ一旦離れてみれたっていうのは非常に良かったです。外から見ると、また理解が深まるというか。今もロサンゼルスにいるんですけど、ポッと戻れるとは思いませんし、結局恵まれてたって思うんですよね。改めて見直して、自分の考えは正しかったとわかりました」と振り返りました。
今後の活動については、「もちろんメインのフォーカスはファインアートなので、映画の仕事は、本当にやりたいようなおもしろい仕事で条件が良ければやるかも知れません。2020年頃に日本で個展をやろうと思っているので、それに向けて下調べとか、もちろん作品の制作も大事ですし、スポンサーとか手伝ってくれる人とか、いろいろ集めていて今忙しいので、やっぱり…早く帰らないといけないです」とコメント。早くロサンゼルスに帰って仕事をしなければいけないと何度かおっしゃっていたのが印象的で、ストイックな方だというのが伝わってきました。この仕事が始まった時に、ゲイリー・オールドマンと冗談で「もしこの仕事でアカデミー賞を2人とも獲れたら、やっと本当の意味でリタイアできる」と言っていたそうですが、2人揃っての受賞が実現したというのも感動的で、映画本編を観ていても、ストーリーはもちろん、そういった映画作りの背景も思い出されて、感慨深いものがあります。映画からはもちろん、この日の辻氏の言葉からも、良い刺激やパワーをたくさん頂きました。ぜひ多くの方に観て欲しいです!
『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』来日記者会見:2018年3月20日取材 TEXT by Myson
『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』
2018年3月30日(金)より全国劇場公開
公式サイト
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