大ヒットを記録した『最強のふたり』の監督、エリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュが今回映画化したのは、問題を抱える子ども達を支援している無認可団体の実話です。ヴァンサン・カッセルが演じるブリュノが赤字経営するのは、自閉症の青少年を支援する団体“正義の声”。そして、レダ・カテブが演じるマリクはドロップアウトした若者達を支援する“寄港”を運営し、彼等が社会復帰できるように教育しています。“寄港”で教育された青年達は、“正義の声”の自閉症の子ども達の介助を行っており、2つの団体は協力して運営していますが、トラブルは絶えません。さらに“正義の声”は無認可の赤字経営で、役人に目を付けられてしまいます。“正義の声”には、他の施設で受け入れられなかった症状の重い子ども達が集まっており、ブリュノは1つトラブルに対処したかと思えば、また呼び出され…という繰り返し。手に負えず困った医療関係者達もブリュノを頼るため、いつも電話が鳴り、結婚相手を探す暇もありません。マリクという良き理解者がいて、ブリュノは助けられているところもありますが、彼等の熱意と努力だけでは、できることに限界があるのも観ていてよくわかります。“正義の声”は無認可ということで、国からの援助も受けられないばかりか、表面的なところばかり問題視されて施設を閉鎖されそうになっており、人を増やしたり、施設を大きくしたりということは簡単にできません。そんな状況下で、どんなに重い症状の自閉症の子ども達も受け入れているわけですから、本当に頭が下がります。そして何度問題を起こしても、子ども達、若者達を見捨てることなく信じて、自分の力で生きていけるように根気よく手伝うブリュノやマリクの姿を観ると、こういう大人が社会に欠かせないと実感します。こんなに身を捧げて人のために尽くしているのに援助を受けられず、逆にリスクを回避して無難な経営をする団体のほうが認可されているという実態も垣間見えるのですが、日本でも同じことが起こっているのかも知れません。こうやって闘う人達が想像以上の苦労を強いられていること、症状が重くて行き場のない自閉症の子ども達がたくさんいることを、本作を通してぜひ知って頂けたらと思います。
恋愛は話題にはのぼりますが、ブリュノがあまりに多忙でそれどころではない状況が描かれています。実際に彼のようにひっきりなしに電話がなり、いつも仕事に追われている人と交際している人にとってはとてもリアルに思える内容で、映画に誘ってもきっと行く暇はなさそうなので、1人で観に行くことになるかも知れませんが、忙しさの裏には、その人の熱意や思いがあり、人には真似のできないことに取り組んでいるのだと知ると、ゆっくり会えないストレスも少し和らぐのではと思います。
自閉症は、人によって主な症状も違えば、障がいの重さにも幅があります。一見他の人と同じように生活しているようでも、困っていることがあるかも知れません。自閉症を含め、発達障害は一昔前よりも知られるようになりましたが、人とのコミュニケーションに困難を抱えるケースが多いので、周囲の人の理解と支援がすごく重要になってきます。自閉症は治らないと思っている人もいるかも知れませんが、苦手なことも練習すればできるようになったり、発達障害は早い段階で気付いてトレーニングをすることで、社会に順応しやすくなると考えられています。自分は関係ないと思わずに、こういった作品を通して、同じ世代の子ども達が頑張っている姿を観て欲しいと思います。
『スペシャルズ!~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~』
2020年9月11日より全国順次公開
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