本国フランスをはじめ世界的に大ヒットした『最強のふたり』の監督と主演が再びタッグを組んだ本作。今回監督のお一人であるオリヴィエ・ナカシュ監督が来日したので、インタビューをさせて頂きました。彼らの映画に欠かせないユーモアについて聞いてみましたよ。
PROFILE
1973年、フランスのオー=ド=セーヌ生まれ。16歳のときにエリック・トレダノと知り合い、1995年短編映画『Le jour et la nuit』からずっと脚本・監督を共同で手掛けている。1999年、短編『Les Petits souliers』でクレルモンフェラン国際短編映画祭に招待され、パリ映画祭観客賞を始めとする様々な賞を国内外で受賞。2002年、短編『Ces Jours heureux』でオマール・シーと初タッグを組み、2005年に長編デビュー。2011年、オマール・シーを主演にした『最強のふたり』が世界的に大ヒット、フランスでは歴代興収第3位に。
2014年12月26日より全国公開
監督:エリック・トレダノ/オリヴィエ・ナカシュ
出演:オマール・シー/シャルロット・ゲンズブール/タハール・ラヒム/イジア・イジュラン
配給:ギャガ
10年間暮らしたフランスから国外退去を命じられた、ついていない男サンバ。一方、仕事で心が疲れてしまい、大手企業を休職中のアリス。ある日、アリスは移民を支援する協会のボランティアを務めていてサンバに出会う。サンバは明日国へ送還されるかも知れない危機感のなか、あらゆる手段を使い必死に生き延びようとしていた。それでも明るさを忘れないサンバにアリスは徐々に惹かれていくが…。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定 来日リポート
イイ男セレクション/オマール・シー
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マイソン:
本作のように、社会的なテーマのなかにユーモアを入れる一番の意図を教えてください。また、社会問題ばかりに注視しちゃう観客もいると思うんですが、監督たちは一番何を伝えたかったのでしょうか?
オリヴィエ・ナカシュ監督:
ユーモアを取り入れることによって誰しもが社会問題にアクセスしやすくなり、それを知ってもらうことができるので、より多くの人に何かを伝えるには、ベストな表現方法だと思っています。ユーモアは人々の心も結びつけます。例えば映画館に行って400人の観客が一緒に笑っているという体験はすごく良い体験だし、どんなに難しいテーマでも映画館で笑ったっていう経験が何かしら明るいことになるので、やっぱり映画はエンターテインメントだと思います。だからそのユーモアを私たちはすごく重視しています。
この映画はお菓子に例えるとミルフィーユみたいにいろいろな層で構成されていて、燃え尽き症候群に感心を持つ人もいるかも知れないし、ラブストーリーとして捉える人もいるかも知れないし、不法移民の労働者に焦点を当ててそういったところからメッセージを感じる人もいるかも知れません。でも自分たちが映画を撮るとき、何かメッセージを伝えたいというより、ただ「世の中にはこんな人もいるんですよ。もしかするとあなたの持っていた先入観が間違っていたかも知れませんよ」と投げかけているだけなんです。すべてを美化して人生はこんなに美しい素晴らしいっていうのではなく、こういう人もいるんだっていう意識を人々にちゃんと持ってもらうことが目的なんです。普段意識していなかったり、なんとなく見過ごしていたものや人に、何か意識を持ってもらいたいというのが意図なので、メッセージっていうのはないですね。
マイソン:
なるほど。ずっと2人で監督をされてきていますが、そのきっかけと、2人だからこそのメリットを教えて下さい。
オリヴィエ・ナカシュ監督:
まず2人が出会ったきっかけですが、16歳のときにサマーキャンプで「お前みたいなクレイジーなやつで、映画の話ばかりして、ウディ・アレンが好きだとばかり言っているやつがいるから、会ってみるか?気が合うんじゃないか?」って言われて、紹介されたのがエリックでした。映画の話で意気投合して、それからずっと離れないまま、バカロレア(フランスで実施されている、大学などの高等教育機関に入る資格を得るための試験)が終わったら、すぐに映画を始めようってことで、短編から始めました。
2人で監督をやるメリットは、テイクがいっぱい撮れること。自分はオーケーと思ったシーンでも相手がまだだと言ったらもう一回撮り直したりできるし、最初から2人なので別に違和感はありません。シナリオも2人で書いているので、その段階である程度議論はしますが、議論からアイデアが生まれたりするので、すごく良いことだと思っています。だから2人で一緒にやることで2倍アイデアができて、2倍チャンスが生まれて、2倍ミラクルが生まれるので、本当に良いことだとしか思っていません。
マイソン:
『最強のふたり』も本作もキャラクターがコンビとなって登場しますが、2人という組み合わせは監督たちの作品にとって、キーポイントなのでしょうか?
オリヴィエ・ナカシュ監督:
今回長編5作目なんですが、我々は常に群像劇を描いてきて、これも群像劇だと思っています。ただ今回は初めてラブストーリー的なエッセンスも入れて、女性も一人主演に据えたいと思いました。シャルロット・ゲンズブールほどの適役は本当に考えられなかったんですが、彼女は大女優で、オマール・シーとは実生活でも別世界にいる人なので、全く対極にある2人を一緒に映画のなかで取り上げたら、すごく科学反応がおもしろいんじゃないかと思い、あのペアが主役になりました。あの2人はもともと面識がなかったので最初の顔合わせのときに既に科学反応が起きて、「もう、ここ撮りたい!」って思うくらい本当におもしろかったです。
2014.10.24 取材&TEXT by Myson