2017年2月25日より全国順次公開
空族
公式サイト
富田克也監督率いる映画制作集団「空族」の最新作。2011年に公開された『サウダーヂ』では、移民、肉体労働者、ヒップホップをテーマに地方都市のリアルを描き、国内外の映画祭や映画ファンのあいだで大きな反響を呼びましたが、本作ではタイの日本人向け歓楽街である「タニヤ」を舞台に、タイ人娼婦と日本人の男達が“それぞれの楽園”を追い求める姿と、アジアの大地に息づく歴史、文化、戦争の傷跡などを描いていきます。本作で富田監督は、相澤虎之助とともに共同脚本を執筆し、主人公の一人であるオザワ役も自ら演じていますが、構想10年にして上映時間182分という本作のなかに、これまでの映画制作で築き上げた思想、人脈、仲間との絆、スケールアップした映像表現などを凝縮させた感が溢れており、“空族作品”の印象をさらに色濃く打ち出しています。日本に居場所を失くしタイに渡った男達、家族のために娼婦となった女達、それぞれが貪欲に逞しく生きる姿に人間の底力を感じながらも、彼らが求める桃源郷はどこかおぼろげな輪郭を呈し、現実と理想の間にぼんやりと浮かんでいるようにも観えました。自主上映にこだわり、作品のソフト化も一切されていない空族作品は、劇場でしか観られないという貴重性もありますが、上映時間と見応えが見事に一致した力作ですので、ぜひ劇場に足を運んでいただきたいです。 |
空族作品初となる女性主人公の物語ということで、女子としては、やはり娼婦ラックとオザワのラブストーリーに注目してしまいます。カネで娼婦を買う男達、カネのために男を利用する女達。それぞれの思惑が交差するなか、どこかで愛への幻想を捨てきれていない男女の純粋さが見え隠れしますが、その純粋な愛さえも男と女の求めるカタチは違っていて、少し切なくもなりました。2人が逃避行したラックの故郷の美しい風景と、バンコクの歓楽街の猥雑な風景の対比は、まるで、永遠に交わらない男と女の溝や、決して埋まることのない理想と現実を表わしているようにも観えます。前置きが長くなりましたが、デートよりも同性同士で観に行ったほうが確実に盛り上がる作品でしょう。 |
ある意味、裏社会を描いた作品ですので、キッズにはまだ理解できないかなと思うのですが、第69回ロカルノ国際映画祭で本作は10代の若者が選ぶ「若手審査員・最優秀作品賞」に輝いたそうで、個人的にはティーンが本作にどんな感想をもつのかが気になります。それぞれの心の成長度にもよると思いますが、高校生くらいになれば楽しめる作品だと思います。 |
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2017.2.22 TEXT by min