2017年6月10日より全国順次公開
33 BLOCKS
公式サイト
2016年のモスクワ国際映画祭およびチューリッヒ国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー映画賞を受賞し、カンヌ国際映画祭ほか多数の映画祭で絶賛された、新鋭ユン・ジェホ監督による一人の脱北女性の生き様に迫るドキュメンタリー。家族を養うために1年間の出稼ぎに出た北朝鮮女性の通称マダム・べーが、詐欺によって中国の貧しい農村へ嫁として売り飛ばされ、生きるために自らも脱北ブローカーとなって暮らす姿と、妻、そして母として2つの家族の狭間で葛藤する様を描きます。脱北者の現実や人身売買という衝撃的な事実を知ると同時に、マダム・べーという女性の、あまりにも逞しい生き方に心を揺さぶられました。どんなに不利な状況に置かれようとも、人生を受け入れ、与えられた場所で生き抜くために最善を尽くすマダム・べー。彼女の根幹にあるのは、生きることへの凄まじい執着と、家族への深い愛情なのでしょう。その2つがあるからこそ、彼女はどんな時も強くいられるし、誰よりも過酷な人生ながら、不思議と不幸には見えませんでした。金正恩政権に代わってから、脱北者の数は爆発的に増加しており、同時に脱北ブローカーを装った人身売買業者も増え、脱北女性のなかには悲しい末路を辿る人が大勢いるそうです。自分自身ではどうしようもない不幸な環境や出来事もありますが、マダム・べーの生き方を見ていると、考え方次第で負の人生も切り拓いていけるのではないかと、不思議と心強くなります。北朝鮮問題や家族の分断を描く社会派作品でもあり、ヒューマン・ドラマとして、何かに迷っている人や自分を不幸だと嘆いている人にもオススメしたい作品です。 |
人生とはままならないもので、予想もしていなかった方向に感情が動くことがあります。数奇な運命により2人の夫をもつことになったマダム・べーも、まさか自分を買った夫とその両親を愛するようになるとは、思ってもみなかったでしょう。そんなマダム・べーの“女性としての感情”を、日本の男性陣がどう受け取るのかは非常に興味深いところですが、デートで観るには少し気まずい作品ではあります。特に長年連れ添ったご夫婦でご覧になるには、かなり酷なシーンが多々出てきます。ただし、妻の愛情にあぐらを掻いて、安心しきっている夫に灸を据えるつもりなら、敢えて一緒にご覧になると良い刺激になるかも知れません(笑)。 |
マダム・べーには10代後半〜20代前半と思われる(正確な年齢は不明)2人の息子がいて、劇中にも登場します。北朝鮮時代の彼らの生活にはあまり触れていませんが、脱北して韓国で暮らすようになった彼ら(特に次男)は、日本のティーンともそんなに変わらない、どこにでもいる若者という感じです。キッズにはまだピンとこないかも知れませんが、ティーンの皆さんなら、彼らの姿に自分を重ねて「もしも、自由や娯楽を制限された北朝鮮に生まれついていたら、自分の生活をどう感じただろう?」「もし自分が脱北者なら韓国社会でどう暮らしていくだろう?」という疑問をもって映画を観ることができると思いますし、日本に生まれたことの良い部分や、息苦しい部分なども見えてくるのではないでしょうか。また、「もし、自分のお母さんがほかの国に売られて、別の家族をもったらどう思うだろう?」という視点で観ると、国境により家族の絆が分断されることの残酷さを、よりリアルに感じられのではないでしょうか。 |
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© Zorba Production, Su:m
2017.6.5 TEXT by min