とても楽しそうな雰囲気を醸し出していて、もちろん笑えるシーンもあるのですが、根本的にはすごく切なくて、ときに心が痛くなりました。音痴だけど歌と音楽が大好きな妻のために、夫が全力で、皆の陰口や不穏な反応を隠そうと奔走する姿は愛に溢れていて、そこには感動するのですが、どこまでが本人にとって優しさになるんだろうと、考えさせられた部分もありました。音痴をおもしろがられているという状況を本人が自覚していて、割り切ってそれを楽しめているならもう少しすんなり共感できた気もしますが、本人は笑われたくないと思っているままというところで、切なさが溢れてきます。なので、前半は結構笑えたけど、後半は胸が痛かったというのが正直なところですが、実話をもとにしているストーリーだからこそ、こういうジレンマがドラマチックなんだと思うし、そこが本作の魅力であると思います。
そして素晴らしいのが、メリル・ストリープ。数々のミュージカル映画でも実証している通り、歌がとても上手なことで知られる彼女ですが、今回は音痴な役に挑戦。主人公の個性的な歌声はとてもコミカルで、これはこれで楽しいのですが、メリル・ストリープが本気で歌った上手い歌も聴きたいなという欲望が芽生えてきます。でも、最後にある演出で上手な歌声も聴ける、一粒で2度美味しい構成になっているのでご安心を。
結末やこの映画が発するメッセージをどう受け取るかは、二分されそうな気がしますが、何かを全力で好きになり、それを貫き通すことはとても素敵なことだなと元気をもらえます。想像していた“感動”とはちょっと違っていましたが、その真意は皆さんご自身の目で確かめてください。
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一見、デート向きな映画に思えるのですが、主人公夫婦は特殊な関係を築いていて、彼らを取り巻く男女関係をどう解釈するのかによって、純粋にロマンチックな気持ちに浸れない方もいるような気がします。そういうことすら超えてしまうほどのすごく深い愛を描いているのですが、こういう感覚を理解できるとしたら、人生経験豊富な大人カップルではないかと思います。 |
あまり深く考えずに観ると、音痴で陽気なマダムのお話として楽しめると思いますが、いろいろな側面から、主人公や彼女の周りの人の心情を想像しつつ観ると、とても深い人間ドラマとして観ることができる、二面性のある作品です。キッズは気楽に楽しく観れば今はそれで良いと思いますが、ティーンの皆さんは、人間ウォッチングをする感覚で、あらゆる人々の複雑な心情を分析する感覚で観ると有意義だと思います。でもコミカルに楽しめるシーンは、それはそれで素直に笑って観てください。 |