2016年に初の長編映画『カネと詐欺師と男と女』を手掛け、 全米の映画祭を中心に16の賞を受賞したマーティン・ロセテ監督。最新作『43年後のアイ・ラヴ・ユー』では、43年越しに再会する男女のラブストーリーを描き上げました。今回のリモートインタビューでは、本作の軸となる愛の物語や、主演のブルース・ダーンとの仕事について伺いました。
<PROFILE>
マーティン・ロセテ:監督、脚本
1980年4月21日スペイン、マドリード生まれ。 スペインとキューバ共和国でオーディオ・ビジュアル・コミュニケーションと演出を学び、 奨学金を得てニューヨークフィルムアカデミーで映画の演出を学ぶ。 2002年から短編映画を撮り始め、4作目となる短編映画“Voice Over(原題)”(11)でゴヤ賞短編映画賞のノミネートをはじめ、世界中で100を超える賞に受賞&ノミネートされ、トライベッカ映画祭やサン・セバスチャン国際映画祭などのオフィシャルセレクション作品にも選出された。2016年には初めての長編映画『カネと詐欺師と男と女』を手掛け、 全米の映画祭を中心に16の賞を受賞した。
初恋は「誰かのために自分は何でもできるんだ」と思わせてくれる初めての体験
シャミ:
本作の資料に「本作のアイデアを聞いた時は特別な何かを感じた。努力して作り上げるに値する、素晴らしい映画になると確信できた」とあったのですが、最初にこの企画で最も惹かれたのはどんな部分だったのでしょうか?
マーティン・ロセテ監督:
まず、すごいラブストーリーだと感じました。愛の力についての映画で、その物語を綴りたいと思いました。これは生涯をかけた愛ですよね。ずっと抱き続けていた永遠の愛という部分がすごく魅力的でした。最初本を読んだ時は深く感動して、泣いてしまったんです。また、声を出して笑ってしまったところもあり、それを考えるとこれは僕が作るべきだと思いました。
シャミ:
そのくらい感動された作品を実際にご自身で手掛ける上で気を付けた点や大切にしていた部分などはありますか?
マーティン・ロセテ監督:
やはりトピックがアルツハイマーなので、本当に大きなチャレンジでした。ロマンティックコメディでありながら、アルツハイマーという要素があるので、笑いをとるために踏み込んではいけないし、とにかく特別なリスペクトを持って気を付けて描きたいと思いました。実際のアルツハイマーの方や、そのご家族が決して失礼に感じないものにすること、だけどユーモアのある楽しい作品にしたかったんです。そして、僕にとっては最初から最後までラブストーリーだと感じたので、そこをしっかり守って描くことを大事にしていました。
シャミ:
監督のおっしゃる通り、アルツハイマーというテーマとロマンティックコメディのバランスがすごく良くて、最後まで楽しく観させていただきました。本作では、クロードの初恋の物語がメインにありつつ、娘セルマの夫婦関係や、孫タニアの恋愛も描かれていて、さまざまな恋愛模様が見られました。監督としては、本作の恋愛物語を通して1番伝えたかったのはどんな点でしょうか?
マーティン・ロセテ監督:
特にクロードと孫のタニアの物語はパラレルなんです。だからこそ2人の関係性を描くことも大事にしていました。この物語では、タニアも大きく変化していくんです。最初は少し距離を置いているというか、「真実の愛なんて」と思っていて、ちょっと猜疑心を持っているんです。一方でおじいちゃんのクロードは、自分の愛した女性に近づくためにクレイジーなことをしでかしてしまうわけですよね。クロードが最初にリリィに惚れた時はタニアくらいの年齢だったわけですし、タニアがおじいちゃんの姿を見ることで、真実の愛があるんだと感じるようになり、そして自分の恋愛も叶えることができるというストーリーになっているんです。
シャミ:
ブルース・ダーンさんの自然な演技がクロード役にとてもマッチしていました。監督からブルース・ダーンさんに対してこうして欲しいなど演出された部分はありますか?逆にブルース・ダーンさんから提案されたことなどもあれば教えてください。
マーティン・ロセテ監督:
今回の撮影はリハーサルをしなかったんです。というのも、ブルースはリハーサルを信じていないので、やらないんです。常にその場にいて演じるタイプの役者さんで、アドリブもたくさんしていました。例えば、ジョークのあるシーンを8テイク撮ると、8回全部違うジョークを言うんです。
シャミ:
すごい!!
マーティン・ロセテ監督:
だから相手も常にサプライズがあって嬉しそうでした。僕としてもたくさんの可能性があるので最高でした。でも、事前にキャラクターについてはかなり話し合いました。元々の脚本だとクロードはもっと優しいキャラクターだったんですが、それを気難しい頑固じじいというか、ちょっとクレーマータイプのキャラクターにしたのは、実はブルースなんです。親友と一緒にああだこうだ文句を言っている時と、初恋の女性リリィと一緒にいる時との対比が出てすごくおもしろくなるんじゃないかと思って、「それでいこう」となりました。おかげで作品がさらに良くなったと思います。
シャミ:
クロードのリリィに対する強い思いや、積極的な姿勢は見ていてすごく爽快でした。もし監督ご自身がクロードの立場だったら、リリィにアプローチされますか?
マーティン・ロセテ監督:
直感に従うタイプなので、たぶんすると思います(笑)。今回クロードと親友のシェーンが登場しましたが、クロードはどちらかというと夢を見る人物で、シェーンはお堅い真面目なタイプで、新しいことにチャレンジしないタイプなんです。でも、僕は映画作家なので、断然クロードと同じドリーマーなんです(笑)。
シャミ:
素敵ですね!もし監督がリリィにアプローチするのであれば、クロードと同じようにストレートにアプローチしますか?
マーティン・ロセテ監督:
シャイなので、僕はクロードほどストレートにアプローチできないと思います(笑)。でも1番大切なのは、「何があってもその人と一緒になりたい」「その思いを伝えたい」という気持ちがあるかどうかですよね。「何があっても伝えるんだ」って思えるかどうかだと思います。
シャミ:
本作を観ていると何年経っても初恋は美しいものだなと感じたのですが、監督が思う初恋の魅力はどんなところだと思いますか?
マーティン・ロセテ監督:
人を愛する初めての体験になるので、初恋はすべてを変えると思うんです。誰かのために自分は何でもできるんだと思わせてくれるし、それがこの作品のエンディングでもあって、映画の強さでもあると思います。昔まいた種が今もクロードの中で咲き続けていて、その情熱や記憶が未だにそこから生まれ続けているというのがすごく魅力的なんです。昔生まれた愛が人の心を動かすことができるのかと考えた時に、僕は答えが「イエス」だと思ったので、この映画を作る価値があると感じました。
シャミ:
では最後の質問で、監督がこれまでで1番影響を受けた作品、もしくは人物がいらしたら教えてください。
マーティン・ロセテ監督:
いっぱいあるので悩みますね。ロベルト・ベニーニの『ライフ・イズ・ビューティフル』は、すごく感動する作品で、愛に関しても男女の愛、父と息子の愛が描かれている素晴らしい作品です。それからドゥニ・ヴィルヌーブの『メッセージ』。母と娘の関係性が、世界を動かすラブストーリーだと思いました。まさにこの『43年後のアイ・ラヴ・ユー』でもそういった愛を描きたいと感じていて、恐怖心よりも愛というものに目を向けることで、世界や人、時にクレイジーなことでさえ変えることができるんだと、そういう映画を作りたかったんです。
シャミ:
本日はありがとうございました!
2020年11月25日取材 TEXT by Shamy
『43年後のアイ・ラヴ・ユー』
2021年1月15日より全国公開
監督・脚本:マーティン・ロセテ
出演:ブルース・ダーン/カロリーヌ・シロル/ブライアン・コックス
配給:松竹
妻を亡くし、L.A.の郊外に1人で住む元演劇評論家のクロードは、近所に住む親友のシェーンと共に老後生活を謳歌していた。そんなある日、昔の恋人で人気舞台女優のリリィがアルツハイマーを患わせて施設に入ったことを知る。彼女にもう一度会いたいと願ったクロードはある嘘をついて施設に入所し…。
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