ダコタ・ジョンソンとショーン・ペンの2人芝居で魅せる『ドライブ・イン・マンハッタン』で監督、脚本を務めたクリスティ・ホールさんにオンラインでインタビューをさせていただきました。笑顔がとっても素敵なホール監督は、一つひとつの質問にとても丁寧に答えてくださいました。そのお話から、演劇界でも映画界でも一流のストーリーテラーとして活躍する所以をヒシヒシと感じました。
<PROFILE>
クリスティ・ホール:監督・脚本
ニューヨークを拠点に劇作家として活躍していたなか、本作の脚本が脚本家専門サイト“The Black List”のトップ3に選ばれたのを機に、2017年にロサンゼルスに拠点を移す。バラエティ紙の“2018年に注目すべき脚本家10人”に選出後は、NETFLIXシリーズ『ノット・オーケー』(2020)の脚本、製作総指揮、共同製作を手掛け、遂に本作『ドライブ・イン・マンハッタン』で長編監督デビューを果たす。他にも、ブレイク・ライヴリー主演『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』では脚本を担当。また、スティーヴン・キング原作「トム・ゴードンに恋した少女」の映画化や、ニューヨーク・タイムズ紙No.1ベストセラーの映画化“The Husband’s Secret(原題)”などが控えており、今後ますます映像業界での活躍も期待されている。
自分が描いたキャラクターの肌をまとって、服をまとって、彼らになって、彼らの視点で見た世界を通して、観客に感じ取ってほしい
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クリスティ・ホール監督:
オハヨー!
マイソン:
おはようございます!この作品がすごくおもしろくて楽しませていただきました。ありがとうございました。本作はほぼ車内だけで描かれていて、約90分という短いストーリーでありながら、2人のキャラクターがすごくリアルに描かれていました。だから、監督は普段人間をすごくよく観察されているのだなと感じました。普段人を観察する時には、どんなところに目がいきますか?
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クリスティ・ホール監督:
物語を伝える人間として、私はこの作品の脚本を書いて、監督もしたんですけど、まず何よりも作家であり脚本家なんですね。キャラクター、ストーリーを伝える上で人間観察というのは本当に一番大切なことだと思っているので、この質問を聞いてくださってありがとうございます。物語の真実さをいかにリアルに伝えるかという上で人を観察するということはすごく大事で、実は子どもの頃から人を観察するのが好きだったんです。人の体の動かし方、そういったものを見るのがすごく好きです。
映画の中でショーン・ペンが運転をしながらハンドルを握ってる手で、頭の中で聞こえている音楽に対してリズムをとっているシーンがいくつかあったと思います。あれも実はこういう風に動いてほしいと脚本の中に書いているんですね。話し方や言葉も世代によって違ったり、そういったことを発見するのがすごく好きなので、特にニューヨークは人を見たり、会話を聞く場所として、本当に他にないタペストリーのような、いろいろな人間模様が見られる、一番理想的な場所です。なので、ニューヨークはこの映画を作る上で欠かせない要素でした。
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マイソン:
男女関係の話題になり、だんだん踏み込んだ話になる展開で、男性目線と女性目線のセリフがすごくおもしろかったです。セリフには監督の本音も入ってるのでしょうか?
クリスティ・ホール監督:
ストーリーテラーとして私が心がけていることは、キャラクターにとって嘘のない言葉を発させることなので、必ずしも自分の考えをすべてのキャラクターに投影するわけではありません。今回の場合であれば、ショーン・ペンが演じるキャラクターにとって嘘のない言葉を彼に発してもらう、ダコタ・ジョンソンが演じたキャラクターの声をそのまま届けるように心がけました。彼らは私が書いた言葉をそのまま完璧に発してくれました。
私は決して作品を通して、世の中に対してこうあるべきだとか、こうじゃなきゃいけないということを伝えようとしているわけではありません。それぞれのキャラクターが立体的にしっかり見えるように作り上げたいなと考えています。なので、自分が描いたキャラクターの肌をまとって、服をまとって、彼らになって、彼らの視点で見た世界を通して、観客に感じ取ってほしいと思っています。
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ひょっとしたら、時には私が普段考えていることと違うような言葉を発するかもしれない、全く私が賛同できないことをするかもしれない。あるいは、私が思っている理想的なことを発するキャラクターもいるかもしれない。いずれにしても、私が描きたいのは完璧ではない人間であり、まさに完璧ではない人間同士が出会って、全く違う人間なのに深いところで繋がることがある、そういったことをテーマにしています。
2人の人間が出会って、初めは摩擦が起こる。でも、全く違う考えを持った人達が摩擦を起こすことを恐れずに会話を続けることによって、どこかで実は共通点を見出すことができたりするということを、この映画で伝えたかったんです。
だから、自分をキャラクターそれぞれに投影し過ぎないように心がけています。投影し過ぎると結局同じようなキャラクターばかり描いてしまうし、自分のようなキャラクターばかり登場してしまうことになっちゃうんですね。さきほどの話にもあったように、人間を観察したり、世の中にある真実を観察するのが好きなので、より完璧ではない人間のほうが人間臭さが出るし、それこそがリアリティであって、一番おもしろい最高の物語が生まれるのだと思っています。
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マイソン:
たしかにそうですね!本作には会話劇のおもしろさがすごく詰まっていました。監督が考えるおもしろい会話の定義ってありますか?
クリスティ・ホール監督:
私が捉えたかったのは、会話を通して人って全く見知らぬ者同士からそうじゃない関係になり得るというところです。そういうことが短い間に凝縮されて起こり得る状況ってあるんですよね。この映画を観た方に実際に言われた体験として、ベルリンに向かう電車の中でたまたま隣に座った人との会話がすごくおもしろくて、気づいたら自分のお母さんのことを話していたと。タクシーの運転手もそうですし、電車でたまたま隣り合わせとか向かい合わせに座った人、公園のベンチで一緒に座った人など、実は見知らぬ人のほうが自分の心を開いて本音を言えたりすることがあります。自分の知り合いだとどうしてもこの人にこれを言っちゃうとどうかなと躊躇しちゃったりするじゃないですか。それと比べて、見知らぬ人だからこそ、すごく本音が言えたりすることってあるんですよね。
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この映画の2人も見知らぬ者同士で、始めはちょっとお互いを探り合っていて、気があるようなやりとりがあったり、女性はちょっといい寄ってこられている感じがして自分の身の安全を考えたり。彼は彼女からいろいろ聞き出したいけれど、名前は絶対に聞かない、あえて聞かないんです。なぜかというと、名前を聞かないほうが安心してきっといろいろと話してくれるだろうって思っているんです。途中で口論にもなるけれど、後で仲直りする流れもあって、恐らく人と人が友達になっていく過程が90分というものすごく短い間で起きている話だと思うんですね。まさにその会話のやり取りこそが、私にとってすごくおもしろい会話だと思います。この作品の会話にはアップダウンがあって、怒ったり笑ったり、ちょっと男と女で惹かれあっているような感じもあったり、父親と娘とか友情とか、いろいろなものが感じられる。そういういろいろな面があって、話が逸れるけれども戻ってくるみたいな、自然な流れの会話が一番おもしろいのかなと思います。
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マイソン:
まさに、短い時間の会話の中でさまざまな関係性に変わる様子に引き込まれました。あと、この作品はもともと舞台演劇として作られたと資料で拝見しました。結果、映画になったわけですが、映画だからこそ表現できたことはありますか?たとえば、しばらく会話がない“間”は舞台だと表現が難しそうな反面、映画なら手元を映したり表現しやすいのかなと思ったんです。
クリスティ・ホール監督:
私は劇作家の仕事をやっていくなかで、ハリウッド映画の世界に入りました。いきさつを話すと、ニューヨークで劇作家としてこのアイデアを脚本に書いていた時、まだハリウッド映画界とのコネクションは全くない状態だったんです。日本も同じかわからないですけれども、アメリカでは演劇の世界と映画の世界に全く繋がりがないんです。元々このアイデアを思いついた時、これは映画的な作品だなと思いました。タクシーの中に2人がいて、すごく閉鎖的な空間で、彼女の視点から運転手を見て、彼という人間を知っていく。そういう瞬間がすごく具体的に見えていたんです。あと、彼女が携帯でショートメッセージを見るのを我々も見ることができます。そういう覗き見ができるのも映画ならではの手法だと思います。「これ見ちゃっていいの?」って感じる場面も、映画だからこそ表現できると思ったんです。
ということで、頭の中では映画だったんですけれども、当時はハリウッド映画界にコネクションがなかったので、ニューヨークで舞台として制作しようと思いつつ、そこから誰かが映画として作れるかもしれないという感じで臨みました。そしたら当時の知り合いで今はマネージャーをしてくださっている方が、脚本をハリウッドの方達に紹介してくれて、この脚本のおかげでハリウッド映画界への扉が開いたんです。だから、おっしゃったように、会話が途切れる“間”であるとか、後部座席に座っている彼女がたぶん心の中でいろいろ揺れ動いている心情を音楽で表現したり、自分が初めに思い描いていたことを映画として描くことができました。自分がこの物語を書いた時に思い描いた最終的な完成形を、まさにこの映画で実現できたので、今はこれを舞台化する必要があるかどうかもわからないです。
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マイソン:
最初から映画化を想定されてらっしゃたんですね!では、最後の質問です、今回初めて監督を務められて、クリエイターとして考え方に変化はありましたか?
クリスティ・ホール監督:
毎回こういう自分が創作をする機会があると、当然いろいろな面で変わるし、毎回学ぶことがたくさんあります。どの舞台もそうでしたし、どの脚本を書いてもそうです。人からもらうフィードバック、アドバイス、感想といったもの、そのすべてが自分に変化をもたらすもので、アーティストとして、クリエイターとして当然成長すべきことだと考えています。
今回監督をして、自分にとってもものすごく大きく、深い経験になりました。1ページ1ページ脚本に書いたものを撮影して、編集して、プレミアで世に出していくなかで、自分が始めに描いていた意図をそのままの形で観客に共有できることは、この上ない経験であり、恵まれたことであり、非常に光栄なことです。より研ぎ澄まされた感じがして、当然またやりたいし、次に何をやろうと今もワクワクしてます。脚本家というのは、どうしても監督の言いなりになってしまうんです。脚本家がいくら意図したことでも、監督がこれは必要ないと言ったら切り捨てられます。だから、監督になって、脚本に書いたことの中で、どれが本当に大事なのかを考えて、しっかり守れる立場にいることは本当に特権なので、すごく光栄ですし、誰でもできるものじゃないということもわかっています。またぜひやりたいと強く感じていますし、その時はまたお会いしたいです。
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マイソン:
ぜひ!次の作品も大変楽しみにしています。今日はありがとうございました。
クリスティ・ホール監督:
アリガトウゴザイマシタ!
2025年1月23日取材 TEXT by Myson
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『ドライブ・イン・マンハッタン』
2025年2月14日より全国公開
東京テアトル/東北新社
監督・脚本:クリスティ・ホール
出演:ダコタ・ジョンソン/ショーン・ペン
ジョン・F・ケネディ空港で女性(ダコタ・ジョンソン)を乗せたタクシーはニューヨークの市街へ向かった。運転手(ショーン・ペン)は、彼女と何気ない会話を始め、ジョークをいったり、時に軽い口論になったり…。そうして、2人は名も知らないまま、お互いに心の内を明かしていく。
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