フランスを代表する名優カトリーヌ・フロさんにリモートインタビューをさせていただきました!これまで数々の作品で名演技を披露されているフロさんですが、どんな風に出演作を選んでいるのかということや、役との向き合い方などいろいろなお話をお聞きできました。
<PROFILE>
カトリーヌ・フロ:エヴ 役
1956年5月1日フランス、パリ生まれ。舞台、テレビドラマ、映画と幅広く活躍するフランスを代表する俳優の1人で、フランスの国家功労勲章を受章している。1980年のアラン・レネ監督作『アメリカの伯父さん』で映画デビューを飾り、1985年『C階段』で注目を集め、1995年に舞台“家族の気分”で、モリエール賞助演女優賞を受賞。1996年、フランスで大ヒットした『家族の気分』では、セザール賞助演女優賞を受賞し、有名女優の仲間入りを果たす。以降、『奇人たちの晩餐会』『女はみんな生きている』『地上5センチの恋心』などでセザール賞ノミネートの常連女優となる。2012年、フランス官邸史上唯一の女性料理人を演じた『大統領の料理人』は、フランスと日本で大ヒットを記録。2015年、グザヴィエ・ジャノリ監督作『偉大なるマルグリット』では、セザール賞及びルミエール賞主演女優賞に輝いた。2016年の“Fleur de Cactus(原題)”ではモリエール賞主演女優賞を受賞。本作『ローズメイカー 奇跡のバラ』は、『ルージュの手紙』(2017)以来の主演作となる。
フランスを代表する名優カトリーヌ・フロさんがオススメのスポットとは
マイソン:
これまで数々の名作に出演されていますが、出演したくなる作品の共通点はありますか?
カトリーヌ・フロさん:
基準があるかどうかわかりません。勘で選ぶところもあるし、もちろんシナリオがよく書けているかどうかというのもありますし、あとは監督との相性です。監督がどうして自分を選んだのかとか、そういうことを話して決めます。そしてやっぱり大前提として、その登場人物のキャラクターに愛着が持てるかどうかです。結局のところ、自分が彼女になり、彼女が自分になり、その人物を生まれさせないといけないので、そういった愛着が持てるかどうかですね。
マイソン:
今作は1番どんなところに惹かれましたか?
カトリーヌ・フロさん:
エヴはキャラクターがおもしろくて、パラドックスな人間ですよね。最初は感じが悪いし、すべてを失いかけている鬱になっているような人物です。“ルネッサンス”という言葉には再び生まれるという意味が語源としてあるのですが、これはその人物が再構築される物語なわけです。出会う3人も含めて、この人物達のルネッサンスの物語なんです。
マイソン:
今、再構築という言葉が出てきたのですが、この作品では皆それぞれ再生していく姿が印象的でした。今の世の中はインターネットやSNSが普及して、失敗や悪事がすぐに拡散され、そのことが世の中の問題意識を喚起する一方で、一度失敗したらやり直すことが難しいくらいのダメージというか、人を押さえつけるような感じがしています。そういった今の風潮をカトリーヌさんはどのように感じていらっしゃいますか?
カトリーヌ・フロさん:
それもあると思います。やっぱり新しいテクノロジーによって、ある意味人生がどんどんおかしな方向に行っているというか、本当に人間性のある人間であるためには、むしろそこから離れて1人で隔離しないと、人間性を保てないような感じになっていると思います。この状況だと未来に対して楽観的であるということがすごく難しいと思うんです。今の世の中で美しい人生を送っている方もいると思いますが、すごく苦しんでいる人もいっぱいいる、それが現状だと思います。
マイソン:
私もそう思います。今作では、こんなにいっぱい種類があるのかとビックリするくらいたくさんのバラが出てきて、香りの違いもあるということを今回初めて知りました。実際にバラに囲まれてみて、やはり香りは違いましたか?
カトリーヌ・フロさん:
これだけバラの香りがあるというのは、私もすごく感銘を受けましたし、今回の映画で私が1番学んだこと、発見というのがそれでした。元々自然は好きですが、知識はありませんでしたし、バラのこともそんなに知りませんでした。あと、歴史的に詩とか文学の中でバラというのは、ずっと語られてきて、ある意味花として伝説的な存在になっているわけです。今回は美を作る物語だったわけですが、やっぱりこれだけ素晴らしいもの、美しいものだからこそ、伝説的な存在なんだということがわかりました。それはまさに美を象徴していて、劇中でエヴが「美のない人生なんて意味がない」ということを言いますが、これはまさにアーティスティックな美を象徴していると思います。要するに、実際に考えたら具体的には人生の役に立ちませんが、美のない感動のない人生は意味がないということですよね。
マイソン:
確かにそうですね。では、これまで出演された作品でいろいろな職業の役を演じられて、それぞれの知識もたくさん入ってくると思いますが、この作品に限らず、作品を通じて何かハマったことはありますか?
カトリーヌ・フロさん:
役を通じて何かを学んで趣味になるということはあり得ないんです。どうしてかというと、女優の仕事というのは、幻想を作り上げることなんです。だから最もらしいジェスチャーを学んで、そこにある小道具を使って、その職業にある内的なリズムで動作をするということで、皆さんにまるでその職業の人になったかのような幻想を与えているわけなんです。例えば『大統領の料理人』で、私はプロの料理人になったわけじゃなく、あれは幻想なんです。でも1個覚えたレシピがあって、それはシューファルシオッソーモという、キャベツにサーモンを詰めたお料理なんです。それはご馳走することができます。
マイソン:
わ〜食べたいです。そして、この作品では血の繋がりにこだわらない家族の形が1つ印象に残りました。カトリーヌさんにとって、理想の家族というか、家族の定義みたいなものはありますでしょうか?
カトリーヌ・フロさん:
家族には2つのタイプがあると思っていて、血の繋がりのある選べない本当の家族と、ある意味友人となった人達と後から自分が選んで作る家族があると思います。後者のほうがおもしろくて興味深いと思います。というのは、血の繋がりと違って自分で選ぶ家族というのは自由なんですよね。よく考えるとこの映画でも、最初エヴは血の繋がりのない“家族”をコントロールしようとしていて、他の人は「何だ、この人は」という感じで、それぞれ反感を持っています。でも、いろいろなことが起きて、人間関係が進んでいって、最後は家族のようになるというのはおもしろいと思います。
マイソン:
前半のシーンでフレッドが差別的な発言をして、エヴがツッコむやり取りがあって、今社会で関心が上がっている多様性やジェンダーの問題も少しテーマになっているのかなと思いました。こうした風潮のなかで、フランス映画での表現に変化を感じることはありますか?
カトリーヌ・フロさん:
そういった価値観の土を掘り起こしている時代、そういう問題をすべてテーブルの上に出して、価値観を問い直している時代だと思います。日本はそうですか?
マイソン:
日本では最近東京五輪の組織委員会において元会長の性差別発言が問題になりましたが、日本はやっぱり遅れているなと感じています。なので、フランスのほうが時代の変化が進んでいるのかなと思いながら観ていました。
カトリーヌ・フロさん:
そうおっしゃるのでしたら、そうなのでしょう。でもこの作品は、そういった価値の多様性とかそういったものばかり語っている映画ではなく、キーワードとなっているのは伝承だと思うんです。エヴは言ってみれば、昔の世界に属している人で、だから今いろいろなものを失っているわけです。ただ彼女にはノウハウがあるんです。それを次の世代に伝承していくという話なんだと思います。
マイソン:
では最後に、こういう機会でないと聞けないので、ぜひお伺いしたいことがあります。私はまだフランスに行ったことがなく、フランス映画を観るたびにフランスにすごく行きたくなるので必ず行こうと思っているのですが、フランスを代表する俳優のカトリーヌさんだからこそ知るオススメのスポットがあったら教えてください。
カトリーヌ・フロさん:
パリはもちろん必須ですが、その次にオススメはマルセイユですね。
マイソン:
観光スポットみたいなものはありますか?
カトリーヌ・フロさん:
例えば、今良い現代美術館があってそれもおもしろいのですが、とにかく街のスピリット、街自体がすごくおもしろいんです。典型的な地中海の歴史を反映している街だし、すごくいろいろな人種も混じり合っていて、とても庶民的なエリアがあったり、あとは街が細長い形をしていて、港のほうに行くと漁港かと思うような、そういった顔も持っているんです。海岸は岩があるようなところで、街自体に活気があり、歴史ある港町です。プロムナードという散歩道もおもしろいし、港なのですごく大きな船が停まっているのを見るのもおもしろいし、街の活気を感じられるマルセイユはおもしろいですよ。
マイソン:
絶対に行きます!本日はありがとうございました。
2021年3月19日取材 TEXT by Myson
『ローズメイカー 奇跡のバラ』
2021年5月28日より全国公開
監督・脚本:ピエール・ピノー
出演:カトリーヌ・フロ/メラン・オメルタ/ファツァー・ブヤメッド
配給:松竹
フランス郊外にあるバラ農園を経営するエヴは、これまで新種のバラを開発し、数々の賞を手に入れていた。だが、バラ農園は財政的困難に陥っており、エヴは父が遺したバラ農園を守るため、再び新種のバラを開発しようとする。そんななか、助手のヴェラが、格安で雇えるワケありの新人を連れてくる…。
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