声のみでしか登場しないキャラクターが、物語を一層ドラマチックにしている映画があります。そこで今回は、聴覚の仕組みについてご紹介します。
聞こえた音をどう処理できるかが重要
まず耳が聞こえる仕組みについて、岡田ほか(2015)は、「聴覚系の刺激となる信号は、空気の圧力の変化である。圧力変化の大きさが音の大きさとして知覚され、圧力変化の頻度が音の高さとして知覚される」とあります。また、「聴覚においては、音の種類の同定だけでなく、音を手がかりにして音源の位置を検出することも重要な機能の一つである。たとえば、両耳に到達する音圧変化の時間差や強度差が音源定位の手がかりとなっている」と述べています。音と一言でいっても奥深いですね。
でも耳が聞こえるからといって、聞き取った音を脳で情報処理できなければ意味がありません。また、人は成長するにつれて言語を覚えていきますが、いつ頃から聞き分けられるようになるのでしょうか。
鹿取ほか(2015)によると、これまでの研究で「乳児は生後しばらくは、さまざまな言語が用いられている多様な言語音をふるい分けて受容する能力を備えているらしいこと、そして特定の言語環境において一定の言語刺激に曝(さら)されることによって、その言語環境の音声を聞き分ける能力が十分なレベルまでに到達する一方、それ以外の言語音の弁別力は低下すること、しかもそれが生育の比較的初期(1歳頃)までに形成されるらしいこと」が見出されているとのことです。生後まもない赤ちゃんは言葉の意味はわかっていなくても、音は大人よりも細かく聞き分けられているんですね。逆に考えると、大人は一旦聞き分けられなくなっていても、もとはそういう能力を備えているので、他国語も訓練次第で聞き取れるようになるということでしょうね。
では、個人差はどう表れるのでしょうか。鹿取ほか(2015)は、Korte & Rauscheckerが行った、仔ネコの実験について取り上げています。この実験では、仔ネコの両眼の眼瞼を縫い合わせ、視覚刺激を遮断して知覚できないようにして、実験装置の起点から音のなる方向にいくとエサをもらえるという音源定位の訓練をしながら育てたネコと、視覚を持ったまま音源定位の訓練をして育てたネコの成績が比較されました。結果、視覚刺激を遮断したネコのほうが、視力のあるネコよりも音源定位がより正確であったとされています。鹿取ほか(2015)は、「ヒトも含めて多くの動物は、その情報処理の働きにかなりの程度の可逆性を備えており、経験に依存して感覚的環境の長期的な変化に対応出来るようになっている」としています。
映画『THE GUILTY/ギルティ』は、緊急通報指令室のオペレーターの男性が主人公で、彼が受けた1本の通報の行方を描いた作品です。物語はほぼ主人公と電話の向こうの人物とのやり取りで形成されていて、彼は電話口の人物の声の調子や周囲の音などを頼りに相手を救おうと尽力します。この作品では、複数の人物との通話が登場し、それぞれが徐々に繋がりを持ち始めるのですが、こういった状況で情報処理が追いつくかどうかは、どこまで細かく相手の状況を音から聞き取ってリアルに想像できるかにかかっていると言えるでしょう。
主人公は警察官という経験を活かせたからこそ、事件のいろいろなケースを念頭に置き、どんな音を聞き逃してはいけないということもわかっていたのではないかと思いますが、主人公が相手を救えるかどうかは、別の要因も出てくるので、そこは本編を観て楽しんでください。
それにしても人間の身体ってスゴいですね。次回は視覚についてご紹介します。
<参考・引用文献>
鹿取廣人・渡邊正孝・鳥居修晃ほか(2015)「心理学 第5版」東京大学出版会
岡田隆・宮森孝史・廣中直行(2015)「生理心理学 第2版―脳のはたらきから見た心の世界―」(サイエンス社)
『THE GUILTY/ギルティ』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
ブルーレイ&DVD TSUTAYA先行レンタル&発売中/その他2020年5月2日リリース
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
舞台は緊急通報指令室で、主人公がひたすら誰かと電話をしているシーンだけで構成されているのに、すごい臨場感。映画を観る側も、電話の向こうの人物の状況を音だけで想像するので、主人公と同じ立場で緊張感を味わえます。ラストは衝撃的!
© 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
『フォーン・ブース』
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電話ボックスでただ鳴り続ける電話を取ってみたら、命を狙われちゃって〜というお話。主人公は、電話の向こうの犯人にどう対峙する?
TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)