学び・メンタルヘルス

心理学から観る映画28:教えるのは何でも早いのが良いとは限らない!?

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『モンテッソーリ 子どもの家』

一昔前から、お受験や英才教育という言葉を聞くようになり、子どもがかなり幼い時期からさまざまな教育を受けさせたいと考える親御さんも多くいると思います。でも、早く教えることは効果的なのでしょうか?今回はレディネスという成熟論的アプローチについてご紹介します。

教育を効果的に行うためのレディネスという視点

レディネスは、ゲゼルらが主張した成熟優位説に基づいています。ゲゼルらは、ワトソンの行動主義心理学が主張した極端な経験主義、つまり基本的な反射以外のすべての行動は学習によって獲得されるとする考えを批判し、成熟優位説を主張しました(鹿取廣人他,2015)。成熟論では、人は生得的に内在する能力を時期に応じて自然に展開していくと考え、教育において、子どもが持つその能力を抑制することのない環境を与えることが重要とされています(中澤潤,2008)。

中澤(2008)によると、レディネスとは「学習ができるようになる心身の準備態勢」のことを言い、レディネスが形成されるのを待ち、レディネスの形成の上に教育的働きかけを行うことがよいとされています。一方、成熟論的アプローチに対して、行動主義的アプローチは、「行動変容は何らかの経験を通して新たな行動が形成されたり、刺激と反応との新たな連合が生まれる」という考えのもと、賞罰を与えることによって強化(行動の促進)と弱化(行動の抑制)を行う方法です。行動主義的アプローチでは、「学習者は環境からの働きかけの受動的な受け手」となります。

映画『モンテッソーリ 子どもの家』

フランス最古のモンテッソーリ学校の様子を捉えたドキュメンタリー映画『モンテッソーリ 子どもの家』のナレーションの中で、ご褒美をあげるやり方がうまくいかなかったという言葉が出てきます。ざっくりとした分類における解釈を述べると、ご褒美をあげる方法(強化)は行動主義的アプローチということになりますが、モンテッソーリ教育はそれとは異なり、子ども達が自然に好奇心を発揮し学んでいく環境を整えているので、成熟論的アプローチということになるでしょう。

※成熟論的アプローチ、行動主義的アプローチのどちらが優れているということではありません。子どもの特性や置かれた環境、発達障がいの有無などによっても、適したアプローチは異なると考えられます。

日本モンテッソーリ教育綜合研究所のWEBサイトによると、「モンテッソーリ教育は、医師であり教育家であったマリア・モンテッソーリ博士が考案した教育法です。“子どもには、自分を育てる力が備わっている”という自己教育力の存在がモンテッソーリ教育の前提となっています」とあります。

『モンテッソーリ 子どもの家』を観るとわかるように、子ども達が扱う道具は種類が豊富で、年齢に合ったものを選べるようになっています。教師は過度に子ども達に介入することはなく、様子を見ながら接しており、また年長の子どもが年少の子どもに道具の使い方を教える姿も映し出されています。

映画『モンテッソーリ 子どもの家』

ゲゼルらは、成熟優位説を実証するために、遺伝的素因が同一の一卵性双生児を対象に、運動機能、言語、数記憶などの能力について双生児統制法という研究を行い、「特定の行動を習得するには子どもがその学習を受けつけることができるような内的成熟段階に達していること、つまり学習準備性(レディネス)が備わっていることが必要」であり、「それ以前の訓練は無駄であるばかりか、場合によっては有害になる」ことを示しました(鹿取廣人他,2015)。

ただし、成熟にはさまざまな要因が関係しているので、この研究だけで理論を一般化することはできないとされています。しかし、この研究は成熟論的アプローチの根拠として長く用いられています(中澤,2008)。

子どもの将来を思うとついつい先のことまで考えていろいろやらせてみたくなるのは当然です。でも、お金もかかるし時間もかかる。そして何より子ども自身にとって良いことなのかが気になるところ。だからこそ、時にはこういった教育方法のルーツを辿ってみると、より良い選択のヒントが得られるかもしれません。

<参考・引用文献>
中澤潤(2008)レディネスをふまえる:成熟論的アプローチ 中澤潤(編)「やわらかアカデミズム・<わかる>シリーズ よくわかる教育心理学」ミネルヴァ書房
鹿取廣人・渡邊正孝・鳥居修晃ほか(2015)「心理学 第5版」東京大学出版会
日本モンテッソーリ教育綜合研究所WEBサイト(閲覧:2021/03/10)

映画『モンテッソーリ 子どもの家』

『モンテッソーリ 子どもの家』
2021年2月19日より全国公開

REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

子ども達が“お仕事”として、さまざまな道具を使ってできることを増やしていく様子を見ることができます。子ども達が夢中になって“お仕事”に励む姿は本当に可愛くて、子どもが本来持つ力の大きさを実感できます。

© DANS LE SENS DE LA VIE 2017

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『グッドワン』リリー・コリアス 利口な子どもに甘える大人『グッドワン』【映画でSEL(社会性と情動の学習)】

今回は、父と娘、父の友人の3人で出かけたキャンプでの様子を描く『グッドワン』を取り上げ、娘サム、父クリスと、その友人マットそれぞれの視点でどんな思考が働いていたかを想像してみます。

映画『モディリアーニ!』リッカルド・スカマルチョ モディリアーニ!【レビュー】

35歳の若さで亡くなったイタリア人の芸術家アメデオ・モディリアーニの人生を変えた3日間を描く本作では、ジョニー・デップが『ブレイブ』(1997)以来約30年ぶりに監督を務めました…

映画『28年後... 白骨の神殿』ジャック・オコンネル/レイフ・ファインズ 28年後… 白骨の神殿【レビュー】

おもしろすぎる!テーマが深い上に、遊び心もちゃんとあって、観賞中はテンション爆上がり…

映画『AFRAID アフレイド』ジョン・チョウ ジョン・チョウ【ギャラリー/出演作一覧】

1972年6月16日生まれ。韓国出身。アメリカ、ロサンゼルス育ち。

映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』南沙良/出口夏希/吉田美月喜 万事快調〈オール・グリーンズ〉【レビュー】

原作者の波木銅は、現役大学生だった21歳の時に、同名小説で松本清張賞を受賞…

映画『長安のライチ』ダーポン(大鵬)/テレンス・ラウ(劉俊謙) 長安のライチ【レビュー】

REVIEW『熱烈』で監督・脚本を務めたダーポン(大鵬/ダー・ポンと表記される場合もある)…

映画『ダウントン・アビー/グランドフィナーレ』ヒュー・ボネヴィル/ローラ・カーマイケル/ジム・カーター/ラケル・キャシディ/ブレンダン・コイル/ミシェル・ドッカリー/ケヴィン・ドイル/マイケル・フォックス/ジョアン・フロガット/ハリー・ハッデン=パトン/ロブ・ジェームズ=コリアー/アレン・リーチ/フィリス・ローガン/エリザベス・マクガヴァン/ソフィー・マックシェラ/レスリー・ニコル/ダグラス・リース/ペネロープ・ウィルトン ダウントン・アビー/グランドフィナーレ【レビュー】

テレビシリーズ、映画版と全部観てきた者として、15年の歴史を振り返ると、感慨深いものがあります…

映画『恋愛裁判』齊藤京子 恋愛裁判【レビュー】

アイドルは恋愛禁止という風潮が社会に浸透しているなか、改めて本作はその是非を問います…

海外ドラマ『グレイズ・アナトミー シーズン13』ジェシー・ウィリアムズ ジェシー・ウィリアムズ【ギャラリー/出演作一覧】

1981年8月5日生まれ。アメリカ、イリノイ州シカゴ出身。

映画『YADANG/ヤダン』公開記念来日舞台挨拶:カン・ハヌル、ユ・ヘジン、ファン・ビョングク監督 一緒に仕事をしたい日本人俳優・監督名を告白!『YADANG/ヤダン』カン・ハヌル、ユ・ヘジン、ファン・ビョングク監督、来日舞台挨拶

『YADANG/ヤダン』が日本劇場公開された初日、主演のカン・ハヌル、本作を含めさまざまな作品でキーパーソンを演じ、名脇役として活躍するユ・ヘジン、ファン・ビョングク監督が揃って来日しました。

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『ウィキッド ふたりの魔女』シンシア・エリヴォ/アリアナ・グランデ トーキョー女子映画部が選ぶ 2025年ベスト10&イイ俳優MVP

2025年も毎年恒例の企画として、トーキョー女子映画部の編集部マイソンとシャミが、個人的なベスト10と、イイ俳優MVPを選んでご紹介します。

人間として生きるおもしろさを知る【映画学ゼミ第4回】参加者募集 昨日よりちょっと賢く生きるための【映画学ゼミ第4回】参加者募集!

ネットの普及によりオンラインで大抵のことができ、AIが人間の代役を担う社会になったからこそ、逆に人間らしさ、人間として生きる醍醐味とは何かを映画学の観点から一緒に探ってみませんか?

映画『チャップリン』チャーリー・チャップリン『キッド』の一場面 映画好きが選んだチャーリー・チャップリン人気作品ランキング

俳優および監督など作り手として、『キッド』『街の灯』『独裁者』『ライムライト』などの名作の数々を生み出したチャーリー・チャップリン(チャールズ・チャップリン)。今回は、チャーリー・チャップリン監督作(短編映画を除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『グッドワン』リリー・コリアス
  2. 人間として生きるおもしろさを知る【映画学ゼミ第4回】参加者募集
  3. 映画『殺し屋のプロット』マイケル・キートン

REVIEW

  1. 映画『モディリアーニ!』リッカルド・スカマルチョ
  2. 映画『28年後... 白骨の神殿』ジャック・オコンネル/レイフ・ファインズ
  3. 映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』南沙良/出口夏希/吉田美月喜
  4. 映画『長安のライチ』ダーポン(大鵬)/テレンス・ラウ(劉俊謙)
  5. 映画『ダウントン・アビー/グランドフィナーレ』ヒュー・ボネヴィル/ローラ・カーマイケル/ジム・カーター/ラケル・キャシディ/ブレンダン・コイル/ミシェル・ドッカリー/ケヴィン・ドイル/マイケル・フォックス/ジョアン・フロガット/ハリー・ハッデン=パトン/ロブ・ジェームズ=コリアー/アレン・リーチ/フィリス・ローガン/エリザベス・マクガヴァン/ソフィー・マックシェラ/レスリー・ニコル/ダグラス・リース/ペネロープ・ウィルトン

PRESENT

  1. 映画『アウトローズ』ジェラルド・バトラー
  2. 映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』チャージングパッド
  3. 映画『ただ、やるべきことを』チャン・ソンボム/ソ・ソッキュ
PAGE TOP