「人間の行動は統制できるのか?」ということで、今回は刺激と行動、反応についての関係を研究した理論の一部をご紹介します。
<参考・引用文献>
無藤隆・森敏昭・遠藤由美・玉瀬耕治(2018)「心理学」有斐閣
渡辺浪二・角山剛・三星宗雄・小西啓史(2009)「心理学入門」おうふう
下記は、上記で語られている内容から一部引用しまとめた上で、映画に関するところは本記事筆者の考察を掲載しています。
先天的な特性を問わず、環境を操作すれば、望んだ人間に育てられるのか
心理学といっても、その分野は多岐に渡り、人間の何に焦点を当てるかもさまざまです。科学的心理学の出発点とされるヴントの心理学では、“意識”に目が向けられていましたが、ヴントの内観主義心理学に反対して、20世紀初頭に行動主義を主張したのがワトソンです。ヴントの内観主義心理学が私的で主観的な内観報告をもとにしている点を指摘したワトソンは、心理学が科学であるためには、意識ではなく、誰もが見たり触れたりして確かめることができる行動のみを研究の対象にすべきだとしました。
さらにワトソンは、「すべての行動は条件反応によって説明することができる」「本能とか遺伝といった先天的特性を否定し、環境(刺激)を操作することによってどのような人間でも育て上げられる」(「心理学入門」おうふうから引用)といった、極端な環境主義も唱えました。
ワトソンは、心理学の研究目標を“行動の予測と統制”として、刺激と反応との関係に着目しました。彼の有名な研究には“アルバート坊やの実験”というものがあります。これは生後11ヶ月のアルバートという男児に、白ねずみを見せ、坊やが手を伸ばして取ろうとすると、背後で金属を激しく叩く音が鳴り、ビックリした坊やが飛び上がるほど驚いて倒れマットに頭を打ち、それを何度も繰り返しているうちに、白ねずみを見せただけで、坊やが泣き出すようになったというものです。
※現在ではこのような実験は倫理的に問題があるので実施されていません。
これは“古典的条件づけ”と呼ばれる手続きによって、人の行動を統制した例になりますが、ワトソンは“Behaviorism,rev.ed.Norton.(1930)“の中で、複数の健康な乳児と自由にできる環境を与えてくれれば、ランダムに選んだ子どもを医者、法律家、芸術家、大商人など、どんな専門家にも育て上げてみせるといったことを述べました。
こうしたワトソンの実験や発言は、極端で人間性を冒涜していると非難されましたが、一方で後に登場する行動療法の研究へと繋がっていきました。
ワトソンは、先天的な特性の違いがあっても、環境さえあれば人の行動を統制できると考えましたが、「本当にそうなのか?」と調べる研究として、双生児研究なども実施されています。次回は双生児研究についてご紹介します。
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真菌の感染が拡大した世界。子ども達は同じ服を着せられ、頭には器具を付けられ…。子ども達の条件反射と行動、それを統制するためのルールなど、異様な光景が広がる。
© GIFT GIRL LIMITED / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2016
TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)