心理学

心理学から観る映画9:人との距離が与える快・不快は何が原因?

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』ニコラス・ホルト

新型コロナウィルス感染症対策で、“社会的距離”という言葉を耳にすることが多くなりました。感染症対策で使われている意味合いでは、感染を防ぐための物理的な距離が強調されていますが、人との距離が私達の感情や生活にどんな影響を与えるのか考えてみます。

人との距離に影響する要因はたくさんある

対人距離について考える時、まずパーソナルスペースという言葉が思い浮かびます。R.ギフォード(2015)では、「パーソナルスペースは、人間の体のまわりをとりまく見えない境界を持つ他人に侵入されたくない領域のことである」というロバート・ソマーがかつて提唱したパーソナルスペースの単純な定義を取り上げつつ、パーソナルスペースは「状況に応じて伸び縮みする」「個人のものではなく対人的なものである」ということや、「この定義は距離を強調しすぎており、接近方向や視線といった、密接な関係を持つはずの社会的な相互関係が除外されている」「この定義はパーソナルスペースが二者択一現象(侵入されているか否か)であることを示唆しているが、侵入はある境界を境に感じられるというよりも、もっと段階的に感じられるものである」と指摘しています。

つまり、「私のパーソナルスペースは(自分を中心として)半径50cmです」といったように固定されたものではなく、さまざまな要因がパーソナルスペースに影響を与えているということであり、「ここが境目です!」という明確な距離があるわけではないと解釈できるでしょう。

さらにパーソナルスペースに影響を与える主な要因として、下記が挙げられています。

  • 個人的な影響:性別、年齢、パーソナリティ(人格、性格)、心理的障害と暴力、身体障害など
  • 社会的な影響:魅力、恐れと安全、協力と競争、力と地位
  • 物理的な影響:屋外か屋内か、周囲にいる人が何をしているかなど
  • 文化・民族・宗教・法律による違い

こういったさまざまな要因が働くなかで、パーソナルスペースは変容すると考えられていますが、快、不快、安心感、危機感などが関係していることがわかります。

そして外出自粛になっている今、友達や同僚と会えないという状況はどんな影響をもたらしているのでしょうか。堀洋ほか(2009)では、“近接性”について、「一般に近所に住んでいたり、席が近かったり、近くにいることが好感度を高める原因になる。(中略)この近接性の効果はつきあいはじめのころに特にみられる。(中略)この近接性の効果は単純接触効果によってある程度説明がつく。単純接触効果とは単に接触する回数が多ければ、それだけ好感をもつという心理的効果である」と記されています。

意地悪な見方をすれば、遠距離恋愛の途中で身近な人に心移りをしてしまうのには、こういった要因が働いてしまっているのかも知れませんね。例えば『デッドエンドの思い出』では、韓国に住む主人公は結婚間近でしたが、彼氏が日本で働くことになり遠距離恋愛をすることになります。でも、彼氏は日本で彼女を作ってしまいます。皆が皆そうなるわけではありませんが、環境が変わったばかりの心細い状況では、近接性の効果が余計に働いてしまうのかも知れません。

でも、接触の種類がどう影響するのかは判断が難しいところです。不器用な男子が恋に目覚める姿を描いた『風俗行ったら人生変わったwww』では、ネット上で繋がった友情が主人公を支えていますよね。オンライン上での友達のほうが仲良くなれるという人もこのご時世多いと思いますが、必ずしも物理的距離のお話だけではないとも考えられます。外出自粛で学校や会社の人との交流が減っていることで、多少心理的距離が開いている可能性は否めませんが、工夫のしようはありそうですね。

新型コロナウィルス感染症が流行する今、人との距離はいつもと変わってしまっていますが、前向きに考えると、応用力を付けられる時なのかも知れません。ニュースでは、いろいろと工夫しながら人々が交流されている様子が流れていますが、こういう時こそ人との繋がりの大切さを実感させられます。改めて人との距離について考えるこの機会を使って、人間関係構築力が磨ければ良いですね。

<参考・引用文献>
R.ギフォード/監訳:羽生和紀・槙 究・村松陸雄(2015)「環境心理学(上)ー原理と実践ー」北大路書房
堀洋道・吉田富二雄・松井豊・宮本聡介ほか(2009)「新編 社会心理学〔改訂版〕」福村出版

『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
ブルーレイ&DVDレンタル&発売中

REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

デリケートな性格で孤独を好んだサリンジャーは、人里離れたところでひっそりと過ごしていましたが、彼のパーソナルスペースは相当広かったのではと思います。一応家族は一緒に住んでいましたが、彼のこの感覚に合わせられる人はなかなかいないと思います。サリンジャーの苦悩も物語の中で語られていますが、奥さんも相当辛かったはず。

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー(字幕版)

© 2016 REBEL MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『デッドエンドの思い出』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
ブルーレイ&DVDレンタル&発売中

REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

失恋したことで、主人公と人との距離が一瞬グンと開いてしまったようでいて、彼を追いかけてやってきた日本での出会いで変わっていく姿に元気をもらえます。

デッドエンドの思い出

『風俗行ったら人生変わったwww』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
ブルーレイ&DVDレンタル&発売中

REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

2カ月間誰ともしゃべることがないという経験すらある主人公が、自分を変えたいと動き出します。突破口が突飛ではありますが、ピュアな彼をオンライン上での友達が応援し、遂には…。

風俗行ったら人生変わったwww

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『バイオハザード』ザック・クレッガー監督版:オースティン・エイブラムス ポッドキャスト【トーキョー女子映画部チャンネル】あの映画がおもしろいと思う本当の理由『DIGGER/ディガー』『バイオハザード』『わたしの知らない子どもたち』など

今回もなるべくネタバレせずにお話していますが、何も知らずに観たい方は映画をご覧になってからお聞きく…

映画『クレイフェイス』トム・リス・ハリス クレイフェイス【レビュー】

DCコミックスのヴィランを主人公とした、強烈な描写による本気のホラーです…

映画『ザ・ハウスメAIド 』ミーガン・フォックス ザ・ハウスメAIド <服従>【レビュー】

性能の高いフィジカルAIが続々と誕生している昨今、本作のストーリーは一層現実性を帯びてみえます…

映画『BOSS/ボス』チョ・ウジン/チョン・ギョンホ/パク・ジファン BOSS/ボス【レビュー】

ボスの座を争う話は数あれど、本作はどうしたらボスにならずに済むかというストーリーで…

映画『進行曲 マーチングボーイズ』ムー・セン(牧森) 進行曲 マーチングボーイズ【レビュー】

台湾屈指の進学校でマーチングバンド部に所属する男子高校生を主人公とした本作は、実話に基づいています…

映画『55 FIFTY FIVE/番号で呼ばれた少年』リズワーン・シェイク 『55 FIFTY FIVE/番号で呼ばれた少年』特別試写会 10名様ご招待

映画『55 FIFTY FIVE/番号で呼ばれた少年』特別試写会 10名様ご招待

映画『うるわしの宵の月』道枝駿佑/安斉星来 うるわしの宵の月【レビュー】

なんとも初々しく、キュンキュンさせられて、観ているだけで20歳くらい若返りました(笑)…

映画『ナギダイアリー』石橋静河 石橋静河【ギャラリー/出演作一覧】

1994年7月8日生まれ。東京都出身。

映画『真実と反逆 〜ナチスと闘った若きレジスタンス〜』ユアン・ホロックス 『真実と反逆 〜ナチスと闘った若きレジスタンス〜』【レビュー】

本作は、ナチス政権に言論の力で対抗した少年ヘルムス・ヒューベナーの実話を基にしています…

映画『ストリートファイター/ザ・ムービー』ノア・センティネオ/アンドリュー・小路 ストリートファイター/ザ・ムービー【レビュー】

原作のゲームに詳しくないとしても一度でもゲームをやったことがある方なら、本作を観れば懐かしさを感じられるでしょう…

【映画でSEL】にたどりつくまでの道

今のあなたに必要な非認知能力を伸ばす【映画でSEL】プログラムのご案内

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』トム・クルーズ/ブラッド・ピット あの名作をリメイクするとしたら、誰をキャスティングする?『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』

世界的な超トップスター、トム・クルーズとブラッド・ピットが共演した奇跡の作品『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のパッケージリリースを機に、当部恒例企画「勝手にキャスティング企画!」を実施。

【映画学ゼミSeason2】「思考力を鍛える映画鑑賞—その仕組みの探求(2)言葉とイメージの関係」参加者募集! 【映画学ゼミSeason2】「思考力を鍛える映画鑑賞—その仕組みの探求(2)言葉とイメージの関係」参加者募集!

Season2では、比喩的思考、批判的思考、論理的思考を軸として、「思考力を鍛える映画鑑賞の仕組み」を探求するスタンスで一連の流れを意識して構成しています。 とはいえ、毎回冒頭で前回までの振り返りを簡単にしますので、好きな回だけ単発で参加いただいてもOKです。映画に関する雑談も含めて一緒に楽しみましょう!

映画『プラダを着た悪魔』アン・ハサウェイ 映画好きが選んだアン・ハサウェイ人気作品ランキング

今回は、アン・ハサウェイ出演作品(日本劇場未公開作品と直近の劇場公開作品を除く)を対象に、正式部員…

学び・メンタルヘルス

  1. 【映画学ゼミSeason2】「思考力を鍛える映画鑑賞—その仕組みの探求(2)言葉とイメージの関係」参加者募集!
  2. 【映画学ゼミSeason2 第1回】「思考力を鍛える映画鑑賞—その仕組みの探求①オリエンテーション」参加者募集!
  3. 【映画学ゼミ第10回】「メタ認知が働く映画鑑賞、そうでない映画鑑賞、何が違う?」参加者募集!

REVIEW

  1. 映画『クレイフェイス』トム・リス・ハリス
  2. 映画『ザ・ハウスメAIド 』ミーガン・フォックス
  3. 映画『BOSS/ボス』チョ・ウジン/チョン・ギョンホ/パク・ジファン
  4. 映画『進行曲 マーチングボーイズ』ムー・セン(牧森)
  5. 映画『うるわしの宵の月』道枝駿佑/安斉星来

PRESENT

  1. 映画『55 FIFTY FIVE/番号で呼ばれた少年』リズワーン・シェイク
  2. 映画『ムクドリと人生とレモンパスタ』アルバ・ロルヴァケル/エリオ・ジェルマーノ
  3. 映画『君の話』北村匠海/出口夏希
PAGE TOP