心理学

心理学から観る映画4-2:人間の行動は統制できるのか?【双生児研究】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『ジェミニマン』ウィル・スミス

前回は、ワトソンの行動主義についてご紹介しました。現在、一部の精神疾患に行動療法が施されることがあるように、人の行動はある程度制御できることがわかっていますが、当然ながら効果には個人差があります。環境的要因はもちろん、遺伝的要因も個人差に繋がると考えられますが、そういった要因による影響を調べる方法の一つに“双生児研究”があります。今回は双生児研究についてご紹介します。

<参考・引用文献>
無藤隆・森敏昭・遠藤由美・玉瀬耕治(2018)「心理学」有斐閣
鹿取廣人・渡邊正孝・鳥居修晃ほか(2015)「心理学 第5版」東京大学出版会
下記は、上記で語られている内容から一部引用しまとめた上で、映画に関するところは本記事筆者の考察を掲載しています。

遺伝子が全く同じ場合、行動特性や性格はどこまで似るのか

例えば、映画『ジェミニマン』では、主人公のクローンが登場し、互角の戦いを見せますが、遺伝子が全く同じである場合、特性にどれくらい相関関係があるのか気になりますよね。

双生児研究では、遺伝子が同じ一卵性双生児と、遺伝子的には兄弟、姉妹の関係と同程度の二卵性双生児を比較し、その差に着目します。安藤寿康氏の研究では、知能、学業成績、外向性、職業興味、神経質、宗教性、創造性について、一卵性双生児と二卵性双生児の類似性が比較されています。その研究結果によると、前述の特性の全項目で一卵性双生児のほうが類似性が高く、知能は特に類似性が高い結果が出ています。そして、一卵性双生児と二卵性双生児で差が大きく見られるのは、外向性、職業興味、神経質といった項目です。

また、アイゼンクによる、同じ親のもとで2人とも育てられた場合、それぞれ別々の環境で育った場合の双生児の知能の相関を調べた研究では、同じ親に育てられた一卵性双生児の相関は0.87(1に近いほど相関が高い)、別々の環境で育てられた一卵性双生児の相関は、0.75と低くなったとされています。これはやはり環境が知能の発達の差に影響を与えることを裏付けています。

同じ環境に育っても、相関が1とならないのは、子宮内環境や育て方の違い(双子でもそれぞれ兄、弟として育てられるなど)、日常におけるそれぞれの経験の違いによるものと考えられていますが、ご想像の通り、遺伝子は同じでも、同じ人間に成長することはあり得ません。

映画『ジェミニマン』ウィル・スミス

では、また『ジェミニマン』に話を戻してみると、同じ指導者から同じ戦闘訓練を受ければ、極似する人間が作られる可能性はあると考えられます。戦闘スキルや思考パターンが似ていて、互角の戦いをする点では、リアルな設定と言えるのではないでしょうか。

ただ最後は情感の部分が物語の鍵を握っています。映画ではどんな結果になるのか、それは観てのお楽しみということにしますが、前述にあるように100%同じ人間は作れないという点で、人間が神秘的である所以ではないかと思います。そういう視点で『ジェミニマン』をご覧頂くと、より一層ドラマチックに感じられるのではないでしょうか。

ジェミニマン (字幕版)

『ジェミニマン』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
2020年3月4日よりDVDレンタル開始&発売 
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

自分を狙うのは、自分!昔の自分に瓜二つの男はどこまで自分と同じなのか…。

© 2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

悪童日記(字幕版)

『悪童日記』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
DVDレンタル&発売中 
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

第二次世界大戦末期、ハンガリーの小さな町で、親から離れ、祖母のもとに預けられた双子の少年。過酷な生活を送るなか、2人が生き抜くために選んだ手段とは…。大人に養育されずに、自らの力だけで生きていこうとした場合、双子という特性はどう活かされるのか。

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『ケナは韓国が嫌いで』コ・アソン ケナは韓国が嫌いで【レビュー】

自分の現状に違和感を持っていても、打破しようと行動を起こすのは…

映画『ミッキー17』ロバート・パティンソン 『ミッキー17』ポン・ジュノ監督登壇!ジャパンプレミア試写会 5組10名様ご招待

映画『ミッキー17』ポン・ジュノ監督登壇!ジャパンプレミア試写会 5組10名様ご招待

映画『35年目のラブレター』笑福亭鶴瓶/原田知世 35年目のラブレター【レビュー】

戦時中に生まれ、家庭の事情から小学校を卒業できないまま大人になった主人公と、彼を支えた妻の物語を描いた本作は、実在する西畑保氏…

映画『敵』長塚京三 長塚京三【ギャラリー/出演作一覧】

1945年7月6日生まれ。東京都生まれ。

映画『デビルズ・ゲーム』チャン・ドンユン/オ・デファン ポッドキャスト【だからワタシ達は映画が好き29】2025年3月前半「気になる映画とオススメ映画」

今回は、第97回アカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞、編集賞の5部門を受賞した『ANORA アノーラ』の話題からスタート。その他、ソダーバーグ監督のホラー、ニコラス・ケイジ最新作など、さまざまな作品を取り上げました。

映画『Playground/校庭』マヤ・ヴァンダービーク/ガンター・デュレ Playground/校庭【レビュー】

子ども達はいつも戦っていて、大人の世界とは異なる過酷な毎日を過ごしている…

映画『ワンダー 君は太陽』ジュリア・ロバーツ/ジェイコブ・トレンブレイ 学びが詰まった映画『ワンダー 君は太陽』【映画でSEL】

前記事で、商業映画とSEL(社会性と情動の学習)は相性がバッチリだと書きました。今回はこれぞ学べる映画と感じた作品を取り上げます。

映画『プレゼンス 存在』ルーシー・リュー プレゼンス 存在【レビュー】

スティーヴン・ソダーバーグが撮ったホラー映画ってどんな作品なのか…

【映画でSEL】複数子ども手を繋ぐ後ろ姿 SEL(社会性と情動の学習)における映画鑑賞のススメ【映画でSEL】

なぜ本サイトでSELを紹介するのか、少し私の話を書きます…

映画『ゆきてかへらぬ』広瀬すず/木戸大聖/岡田将生 映画レビュー&ドラマレビュー総合アクセスランキング【2025年2月】

映画レビュー&ドラマレビュー【2025年2月】のアクセスランキングを発表!

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『セトウツミ』池松壮亮/菅田将暉 映画好きが推すとっておきの映画を紹介【名作掘り起こし隊】Vol.4

このコーナーでは、映画業界を応援する活動として、埋もれた名作に再び光を当てるべく、正式部員の皆さんから寄せられた名作をご紹介していきます。

映画『オッペンハイマー』キリアン・マーフィー 映画好きが選んだ2024洋画ベスト

正式部員の皆さんに2024年の洋画ベストを選んでいただきました。2024年の洋画ベストに輝いたのはどの作品でしょうか!?

映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』トム・ホランド/ゼンデイヤ 映画好きが選ぶマーベル映画ランキング

2025年もマーベルシリーズ最新作が公開されます。そこでこれまでのマーベルシリーズも合わせて盛り上げたいということで、ランキングを実施しました。

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『ワンダー 君は太陽』ジュリア・ロバーツ/ジェイコブ・トレンブレイ
  2. 【映画でSEL】複数子ども手を繋ぐ後ろ姿
  3. 映画『インサイド・ヘッド2』

REVIEW

  1. 映画『ケナは韓国が嫌いで』コ・アソン
  2. 映画『35年目のラブレター』笑福亭鶴瓶/原田知世
  3. 映画『Playground/校庭』マヤ・ヴァンダービーク/ガンター・デュレ
  4. 映画『プレゼンス 存在』ルーシー・リュー
  5. 映画『ゆきてかへらぬ』広瀬すず/木戸大聖/岡田将生

PRESENT

  1. 映画『ミッキー17』ロバート・パティンソン
  2. 映画『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』
  3. 「第6回大島渚賞」
PAGE TOP