今回は、『翔んで埼玉』の原作者、魔夜峰央さんにインタビューをさせて頂きました。子どもの頃に魔夜さんの作品『パタリロ!』のアニメが大好きだったので、そこに通じる部分を多く感じる本作を観た時には、おもしろいだけではない、感慨深さがありました。そんな先生に大人になってお会いできるとは、何とも光栄な時間でした。
<PROFILE>
魔夜峰央(まや みねお)
新潟県出身。1973年に、「デラックスマーガレット」(集英社)に掲載された「見知らぬ訪問者」で漫画家デビュー。初期は妖怪漫画、怪奇漫画を描いていたが、「ラシャーヌ!」「パタリロ!」を機にギャグ漫画を軸に活躍。「翔んで埼玉」は、1982年に描かれ、30年以上の時を経て、実写映画化。2018年11月には、花とゆめコミックスの「パタリロ!」が100巻に達した。
マイソン:
原作は全3話で未完のままになっており、映画はその後ろを膨らませて作られたそうですが、その結末を観てどうでしたか?
魔夜峰央さん:
私はよく途中で切っちゃうことが多いんです。これからどうなるんだろうってところで切ってる作品がたくさんあって、これもその1つなんです。それを上手く膨らませてまとめてくれたなと思います。原作では、埼玉デュークというメインキャラが出てくるぞ、ってところで止まっているんですよ。
マイソン:
そうでしたね。
魔夜峰央さん:
埼玉デュークの“デューク”は、“ゴルゴ13”のデューク東郷からとったので、ゴルゴみたいな顔を想像していたんです。でも、映画では京本政樹さんという本当に素晴らしい方に演じて頂き、イイ男が出てきたので、もしこの原作の続きを書けって言われたら、逆に京本さんに引っ張られてしまうだろうなと思います。
マイソン:
京本さん、すごくインパクトがあったので納得です!では、映画オリジナルのシーンで、ここはすごくおもしろかったというところはありますか?
魔夜峰央さん:
川を挟んだ合戦のシーンは一番おもしろかったですね。監督から聞いた話では、まずあのシーンを思い浮かべて、そこから逆算して他のシーンを作っていったそうで、なるほどな〜と思いました。そういう作り方をする人っているんですよ。漫画家でもいて、あるシーンが描きたいからそこに至るまでを作っていく、逆算していくっていう。私はもう何も考えずただ積み重ねていくだけっていうやり方なので全然違うんですけどね。でも、やり方は違っても、映画を観ると監督がすごく私の感性に似ているなって。私が作ってもこうなるだろうなっていう映画なんです。
マイソン:
なるほど。たくさんのシーンで笑わさせて頂きましたが、子どもの頃にすごく好きで観ていたアニメの『パタリロ!』と世界観が通じる部分を感じて、懐かしく感じました。
魔夜峰央さん:
すごく似てると思いますよ。全体の雰囲気というか、まあこう言っちゃなんですけど、“魔夜ワールド!”みたいな部分が完璧に表現されていると思います。だからこの監督で映画化したのは非常に当たりですよね。
マイソン:
たしかに!魔夜さんは、距離を取っておもしろがるようなスタンスでこの物語を作られたんですか?
魔夜峰央さん:
うーん、たぶん何も考えてないですよ。何となく埼玉の人って東京に住みたいんじゃないかなっていうところから発想していると思うんですけどね。
マイソン:
漫画の連載当時からだいぶ年月が経ってからの映画化となりましたが、時代を経ての変化は感じますか?
魔夜峰央さん:
たぶん昔よりは、こういう作品を実写化して許されるようになったとは思います。だから監督も思いきってやったんだろうし。これを描いたのは30数年前ですけど、その時点だったらまず映画化はなかったでしょうね。それこそバッシングもされたんじゃないかなと思います。笑うより先に「良いのかこれで?」っていうツッコまれ方をしたと思うんですけど、世の中が落ち着いてきたのか、こういうものを受け入れてくれるようになってきているんじゃないかなって思います。
マイソン:
あと、子どもの頃に『パタリロ!』を観て、男性同士の関係にちょっと驚きつつ、「こういう恋愛もあるんだな」って自然に受け入れていたような気がするんですが、今は社会がちょっとそういう表現に逆に敏感になっている部分もあるように感じます。
魔夜峰央さん:
これまで本当の自分を隠してきた人達が市民権を得つつあると思うんですけど、それに対して反発する人も増えてきている。これはちょっと納得できないんですけどね。人間が人間を愛する愛の形なんてのは、いくらでもあって良いわけで、それがいかんということはあり得ないわけです。それに対して何か言う人達が増えてきているってのは、逆に悲しいですよね。
マイソン:
こういう状況になっている主な要因って何でしょうか?
魔夜峰央さん:
う〜ん、良く言えば自分の意見を言いやすくなっている、それがために自分と違う人は悪いんだっていう意見も出しやすくなっている。SNSなんかを使えば全世界に発信できるわけで、個人の意見ですからどんどん発信して良いんですけど、それがために傷つくような人がいたら、それは悪です。そこをわからない人が多いんじゃないかなって気がします。
マイソン:
そうですね。簡単に発信できるからこそ慎重にならないといけないですね。ところで、本作にはすごく美しい男性がたくさん登場しますが、先生にとって美しい男性の条件ってありますか?
魔夜峰央さん:
容姿の美醜はともかくとして、自分をしっかり持ってしっかり生きている男ってやっぱりカッコ良いだろうし、例えば、どんなに肉体的には劣っていてもその中から出てくるものが絶対その人を輝かせていると思います。それがなかったら、外見がどんなに綺麗でもダメですよね。
マイソン:
では今回出てくるキャラクターの中で個人的に一番好きなキャラクターっていますか?
魔夜峰央さん:
やっぱりGACKT(麻実麗)ですか。
マイソン:
カッコ良い役でしたよね!
魔夜峰央さん:
最初に飛行機から降りてくるGACKTを観た時に「この人しかこの役をできる人はいない!」っていう感じでした。
マイソン:
確かにそうですよね。他に候補はいらっしゃらなかったんでしょうか?
魔夜峰央さん:
いません。監督と初めてお会いした時、「この映画を本気でやるんですか?」っていうところから始まって、「本当にいいんですね。ただし私は責任取りませんよ」って(笑)。それから「キャスティングはどうしますか?」って聞いて、GACKTっていう名前が出てきた時にはビックリしましたけど、次の瞬間にはGACKTが引き受けてくれたらこの映画は成功するだろうなって思いました。監督もGACKTと二階堂ふみっていう名前しか用意してなかったんです。この2人に断られたらどうしようって言っていましたけど、受けてもらえて良かったです。監督もそれまでいろいろなイケメン俳優の候補の名前を聞いたそうですが、全然ピンとこなかったそうで、GACKTって聞いた瞬間に「それだ!!」ってなったそうです。何の根拠もなく直感でしかないんです。二階堂ふみの芝居が上手いのはわかっていたけど、「GACKTは役者としては未知数だから」と後から言っていたんですよ。でもその彼を抜擢したわけです(笑)。それで撮影の初日に麗と百美のキスシーンを撮ったんですって。その時に監督は「これでいける!GACKTでオーケーだった」と確信したんだそうです。だから直感で生きていくっていうのは私と全く同じなんです。
マイソン:
いろいろな点で、いろいろな条件がそろって、この作品はできあがったんですね。
魔夜峰央さん:
そうですね。いろいろなことが上手い具合に積み重なって、はまるべきところにピースがピッタリはまってできあがったんです。
マイソン:
映画を観ていてGACKTさんが出てきた時にすっごくハマっているなと思いました。私も彼以外で誰がこの役をやれるのか、ちょっと想像できませんでした。
魔夜峰央さん:
いないでしょう。要するにこの作品自体が壮大な嘘なんです。その主役をやるのは、やっぱり巨大な虚構みたいな人物でないと無理だろうと。GACKT自体が生きている人間というかCGみたいでしょ(笑)。だから良いんですよ。
マイソン:
たしかに同じ人間とは思えない雰囲気があります(笑)。
魔夜峰央さん:
うん、現実離れしていますからね(笑)。
マイソン:
ハハハハ(笑)。本日はありがとうございました!
2019年1月16日取材&TEXT by Myson
「このマンガがすごい!comics 翔んで埼玉」
原作コミック好評発売中!
©魔夜峰央『このマンガがすごい!comics 翔んで埼玉』/宝島社
『翔んで埼玉』
2019年2月22日より全国公開
監督:武内英樹
原作:魔夜峰央
出演:二階堂ふみ/GACKT/伊勢谷友介/ブラザートム/麻生久美子/島崎遥香/成田凌(友情出演)/中尾彬/間宮祥太朗/加藤諒/益若つばさ/武田久美子/麿赤兒/竹中直人/京本政樹
配給:東映
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© 2019映画「翔んで埼玉」製作委員会