本作は『告白』『北のカナリアたち』など多くの作品が映画化されているベストセラー作家、湊かなえの『白ゆき姫殺人事件』を映画化。今回は、本作を含め「映像化は難しい」とされてきたベストセラーを多く手掛けてきた中村義洋監督にお話をお伺いしました。
大学に在学中、「ぴあフィルムフェスティバル」で準グランプリを受賞。崔洋一監督、伊丹十三監督らのもとで助監督を務め、1999年に『ローカルニュース』で劇場映画監督デビューを果たし、2007年『アヒルと鴨のコインロッカー』の大ヒットで注目を浴びる。監督作は『チーム・バチスタの栄光』『ジャージの二人』『フィッシュストーリー』『ジェネラル・ルージュの凱旋』『ゴールデンスランバー』『ちょんまげぷりん』『映画 怪物くん』『ポテチ』『みなさん、さようなら』『奇跡のりんご』など。脚本担当では『仄暗い水の底から』(中田秀夫監督作)、『刑務所の中』『クイール』(崔洋一監督作)などがある。
2014年3月29日より全国公開
監督:中村義洋
出演:井上真央/綾野剛/蓮佛美沙子/菜々緒/貫地谷しほり/金子ノブアキ
配給:松竹
人里離れた国定公園で、美人OLの惨殺体が発見された。この殺人事件の真相をそれぞれに憶測する声がツイッターでささやかれるなか、被害者を知る人物の発言がワイドショーに取り上げられ、ますます噂の拡大は加速。そして、被害者の同僚の一人、城野美姫に疑惑の目が向けられ…。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定 プレミア舞台挨拶
女の怖さは女が一番知っている!?アンケート結果発表
©2014「白ゆき姫殺人事件」製作委員会 ©湊かなえ/集英社
マイソン:
監督は数々のベストセラーを映画化されていますが、原作に忠実に撮るのか、映画オリジナルの構成にするのかというところは、どうやって決めていくのでしょうか?
中村監督:
まず仕事を引き受けるかどうかの時点で、本当に言いたいこととか伝えたいこと、オチとか、いろんなものをひっくるめて共感できるかどうかを重視しています。どんなにおもしろくても、映画的であっても、共感できなかったらやらないし、今までやった作品は共感できたから引き受けました。原作ファンのなかでは「自分ほどこの作品を好きな人は他にいない」って思っている人が多いと思いますが、僕も同じで、プロデューサーや、時にはその小説の担当編集者と「僕の方が好きだよ」ってくだらない競い合いをしたりします(笑)。だから大好きな小説を映画化する特権があるっていうか、「皆と同じこの原作のファンですが、羨ましいでしょ」みたいな。だから、原作に忠実にするかどうかというよりも、「僕ならこう映画化しました」という感じですね。原作から映画化するために変える必要があれば迷わず変えるけど、原作者が言いたいことだけは絶対に変えません。逆に言うと、そこを変える必要がある作品は引き受けないですね。
マイソン:
本作で変えた部分はありますか?
中村監督:
映画のワイドショーの部分は、原作だと週刊誌なんです。まだ映画化権が取れていない時点でこのことを企画書に書いたら映画化自体がどうなるかわからなくなるという姑息な危惧もしましたが、実際に湊さんとお会いしたら「そうですよね。その方がおもしろいですよね」って言ってくれて。ラストシーンは全く原作にはないので、脚本を読んで「あのラストはすごくおもしろい」って言ってくださいました。映画は映画、小説は小説という土俵のなかで、そのジャンルのなかで最大におもしろいことをやるというスタンスをわかってくれる作家さんでした。
マイソン:
美姫は前半と後半のイメージが全然違っていて、同じできごとの回想シーンなのに全然別人に見えました。どうやって演出されたんですか?
中村監督:
井上真央ちゃんが考えて演じ分けているんです。現場で真央ちゃんが「こうじゃないですか?」って言って、僕が「そうだね。僕が間違えてたね」って言う方が圧倒的に多かったです(笑)。誰が回想しているシーンなのかが一番のポイントなんですよ。同じ向きで3パターンをまとめて撮るときもありましたが、真央ちゃんは「次は誰の回想ですか?」って聞いてくるんです。「みっちゃんだよ」って言うとみっちゃんが思う美姫のイメージを演じるという具合に、全員分のイメージを作ってきていました。おもしろいのは城野美姫自身の回想も本当かどうかわからないんですよね。あと車のハンドルの持ち方まで変えたりしておもしろかったです。
マイソン:
えー!気づかなかったです。
中村監督:
そうそう。俺も気づかなくて。役者って誉めてもらいたい人が多くて、真央ちゃんは全然そういうタイプじゃないんだけど、さすがに細か過ぎるんで「ハンドルの持ち方、こう変えますよ」なんて自己申告して、いろいろとやってくれました(笑)。
マイソン:
すごいですね!
中村監督:
プランと準備を完璧にしていながら、現場では良い意味でそれを忘れてちゃんとリアクションしてお芝居してくれるから最高ですね。
マイソン:
男性目線でお聞きしたいのですが、本作で描かれているような女性同士のやり取りはどう見えるのでしょうか?監督がおもしろいなって思ってらっしゃるのか、女って怖いなって思っていたのかが気になりました。
中村監督:
湊さんの小説を読んでいても「女の人って怖いな」という描写はいっぱい出てくるのですが、観る人に向けては作れないんですよね。自分がお客さんだったらってことでしか作れない。編集をやっている途中に、原作も脚本も読んだことがないっていう知り合いを呼んで観てもらって、この人だったらどう考えるのかなっていうのは参考にしましたけどね。あとは今回は女性のプロデューサーもいたので女性スタッフにも意見を聞けたのは助かりました。
マイソン:
なるほど〜。個人的には、谷村美月さんが演じていた、みのり役が一番怖かったのですが…。
中村監督:
そうそう!僕もあれが一番怖いかも知れない。あのキャラクターのシーンは内装と装飾もこだわっているんですよ。スタッフに「この役でそこまでやるんですか?普通の部屋で良いじゃないですか」って言われたんですけど、僕は「この人は全てがエセ、つまりイミテーションの人なんだよ」って言って。古民家好きだったり植物をいろいろ育てたり、無農薬の買い物をしてるけど、本質は何にもわかっていないってタイプみたいな。あのキャラクターにはなんだか変に思い入れがありました(笑)。
マイソン:
あのキャラは、他にもたくさん登場人物がいるなかで強烈に印象に残っています(笑)。では最後に女子に一言本作の見どころをお願いします。
中村監督:
どのキャラクターも自分かもしくは友だちの誰かには当てはまると思います。役者はほぼ全員観たことがない顔を見せています。綾野剛君にいたってはここまでバカな役は初めてだったんじゃないですかね(笑)。
マイソン:
結構いつもモテ系の役が多いですもんね。
中村監督:
そうそう、大人しくてクールな感じですよね。それと、女の人の怖さは共感してもらえるんじゃないかな〜。ぜひ観て、犯人は言わずにつぶやいてください(笑)!
本作は女子の噂話が殺人事件の真相をも歪めていくというストーリーですが、そういう社会の恐ろしさを描きつつ、そんな社会を作ってしまっている人たち自身が翻弄されている滑稽さも描かれています。第三者として観る分には笑ってられるけれど、自分の環境に置きかえるとゾッとしてしまうストーリー。中村監督はそんな世界観を見事に演出されています。女子としてはよりリアルに感じて楽しめるし、観終わった後は気が引き締まりますよ(笑)。
2014.1.24 取材&TEXT by Myson