人々が愛と孤独に揺れる心を描き続けてきたロウ・イエ監督。本作は、中国の大手コミュニティサイトにて投稿された夫の浮気に苦しむ女性の話をヒントに作られ、第65回カンヌ国際映画祭ある視点部門のオープニング作品に正式招待された作品です。メロドラマのようなドロドロした展開とミステリーが重なったストーリーにドキドキしてしまうのですが、そんな本作を監督はどんな思いを込めて作ったのか聞いてみました。
PROFILE
1965年、上海に生まれ。1983年に上海華山美術学校アニメーション学科卒業後、上海アニメーションフィルムスタジオにてアニメーターとして働く。1985年、北京電影学院映画学科監督科入学。2000年に製作した映画『ふたりの人魚』は、中国国内で上映を禁止されながらも、2000年のロッテルダム国際映画祭と東京フィルメックスでグランプリを獲得。続く『パープル・バタフライ』は、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品された。1989年の天安門事件にまつわる出来事を扱った『天安門、恋人たち』は、カンヌ国際映画祭で上映され、その結果5年間の映画製作・上映禁止処分となる。禁止処分の最中も『スプリング・フィーバー』と『パリ、ただよう花』を製作し、2011年に禁令が解け、中国本土に戻り『二重生活』を製作。本作は、第65回カンヌ国際映画祭ある視点部門に正式招待され、第7回アジア映画大賞で最優秀作品賞ほか3部門を受賞。
2015年1月24日より全国順次公開
監督・脚本:ロウ・イエ
出演:ハオ・レイ/チン・ハオ/チー・シー/ズー・フォン/ジョウ・イエワン/チャン・ファンユアン/チュー・イン
配給:アップリンク
優しい夫と可愛い娘がいて、夫婦で共同経営する会社も好調、何不自由のない満ち足りた生活を送るルージエ。一方、愛人として息子と慎ましく生活しながらも、いつかは本妻になりたいと願うサンチー。そして、流されるままに二人の女性とそれぞれの家庭を作り、二つの家庭で生活をする男ヨンチャオ。いびつながらも平穏に見えたそれぞれの日常は、ほんの少しの出来事でいとも簡単に崩壊してしまい、ある事件が起こる。
シャミ:
今回の作品は中国での5年間の映画製作、上映禁止を経ての作品になるのですが、本作を作る上でその5年間に影響した事柄やきっかけになったことはありましたか?
ロウ・イエ監督:
そうですね、その5年の間に2つの作品を撮りました。1本目は『スプリング・フィーバー』で、この作品は僕が初めてデジタルのホームビデオで撮った映画です。そして『パリ、ただよう花』は、初めての外国語映画でこれはパリで撮影しました。この2作を撮った経験は今回の作品のなかでも生きていると思います。
シャミ:
本作では、ルージエとサンチーという2人の女性を通して、愛情深さ、独占欲、復讐心など、女性のいろいろな面を観ることができたんですが、監督がこの2人の女性キャラクターを描く上でこだわった点はどんなところでしょうか?
ロウ・イエ監督:
まずルージエは、すごくデキる女で、ヨンチャオと一緒に会社を起こしたんです。その会社が成功して上手くいっているので、ヨンチャオに経営を任せて、自分は主婦になったのですが、実はこのような女性像は、今の中国でルージエと同じくらいの年代の人に多いんです。ところがサンチーは、貧しい境遇にいるわけです。サンチーの家のある辺りは、武漢のなかでも貧しい人たちが住んでいる地域なんです。でも心の問題から見ると、ルージエは既に愛に疲れていて、一方サンチーの方は一人の男をずっと独占したいと思ってもできなかったので、愛に対してまだ情熱を感じているんです。このような女性像は、今の中国で普遍的に見られる女性のイメージなんです。ただその2人に共通して言えるのは、“行動を起こした”ということですね。自分のやりたいことをやってしまったということです。クランクイン前のスタッフ会議でも話したのですが、この映画の登場人物たちは、全員が必死に自分を守ろうとしているんです。自分を守ろうっていうことは、本来正統な行為であるわけですが、その行為をするときに、この人物たちは他人を犠牲にしていくわけです。すべてを他人の犠牲のもとに自分を守ろうとした結末がこの物語としてできました。
シャミ:
ありがとうございます。本作は、冒頭が事故のシーンで始まるなど、時間軸を変えた場面の切り替えが多くあり、だからこそミステリー作品に見えたように思います。もし時間軸通りにストーリーが進んでいたとしたら、見え方が違ったと思うんですが、ミステリーとして見せたことに意識したところはどんなところだったのでしょうか?
ロウ・イエ監督:
物語を語る上ではミステリータッチになっていますけど、いわゆるミステリーというジャンルの語り口では、現代中国社会のこういった物語を描くにはふさわしくないと思いました。また、普通のミステリーであれば明確な加害者が出現するわけですけど、この映画の場合はそうではありません。だから最初で終わっていた物語をまた戻したり、時間軸をズラしたり、フラッシュバック対応することによって語り口を変え、普通のミステリーとは違った物語にしていきました。本当なら最初のシーンで物語は終わっていたし、この映画が終わった時点で、実は物語はまだ始まっていないと言えますね。
映画ではハラハラドキドキしてしまう展開が続いたのですが、ロウ・イエ監督自身はとても穏やかで優しい笑顔がとても印象的な方でした。ほかにも監督は、中国の中産階級が本作のヨンチャオとルージエ夫妻と同じような生活レベルであることや、実際に本作のキャラクターたちと同じような心境で日常を過ごす中国人が多いことも明かしていました。女のドロドロした部分、事件性のあるミステリーの部分と両方が楽しめる作品です。どうやって物語が繋がっていくのか、ぜひご覧ください。
2015.1.26 取材&TEXT by Shamy