実写版『花とアリス』から10年が経ち、その前日譚をアニメーションとして描いた『花とアリス殺人事件』。今回は、そんな本作で原作・脚本・監督を務めた岩井俊二監督にインタビュー!「今も10年前も青少年に大きな違いは感じませんが、最近は大学の入学式に祖父母まで来ることには驚きました」と語る監督に、アニメーションと実写の違い&中学生を主人公にして表現したかったことをお話し頂きました。
PROFILE
1963年、宮城県生まれ。1988年に、ミュージックビデオとケーブルTV番組の監督としてキャリアをスタート。その後、TVドラマ、ビデオクリップ、CMの監督・脚本を多数手がけ、“岩井美学”として広く知られる独自の映像スタイルを確立。1995年には、『Love Letter』で劇場用長編監督デビューを果たす。以降、『スワロウテイル』『四月物語』を手がけ、『リリイ・シュシュのすべて』では国際的な賞賛を集める。また、庵野秀明監督の映画『式日 SHIKI-JITSU』では、撮影と主演を務めた。そのほか監督作に『花とアリス』『Jam Films』『ARITA』『市川崑物語』などがあり、『ニューヨーク、アイラブユー』では、挿話をオーランド・ブルームとクリスティーナ・リッチ主演で監督し、2008年サンダンス映画祭で審査員を務めるなど国内外問わず活躍。『花とアリス殺人事件』では、初のアニメーション映画製作に取り組んだ。
シャミ:
前作『花とアリス』から10年が経ちますが、今回はなぜ続編ではなく前日譚を描いたのでしょうか?
岩井俊二監督:
この企画自体を考えたのは、実は前作が公開されたすぐ後で、スピンオフとしてアニメーションで何かやれないかという考えから、二人が出会ったときの話を作ることになりました。そのときすでに台本も書いていたのですが、残念ながら当時は実現することができませんでした。その後、たまたま“スティーブンスティーブン”という会社と話をしたときに、僕が「こんなアニメの企画があったんだけど」と話したら、上手くコラボできないかということになり、今回のプロジェクトが動き出しました。
シャミ:
なるほど〜。では最初から実写ではなく、アニメーションにしようという考えだったんですか?
岩井俊二監督:
最初は小学校の設定にしていたので、蒼井優さんと鈴木杏さんが実演するのは無理だというのが理由の一つでした。
シャミ:
設定が違ったんですね。最終的に中学生の設定になったことには、どんな経緯があったのでしょうか?
岩井俊二監督:
もし小学生でやるとなると制服じゃなくて私服になりますよね。それをアニメーションで描くとなると、モデルをたくさん作らないといけなくなるので、コスト的に不可能だということになりました。それでなんとか制服にできないかということになり、よく考えたらこの話は中学生でも成立する話だなって思ったので、最終的には中学生になりました。でも今考えると、もし最初の段階で設定を中学生にしていたら、実写でも撮れたなって思いますね(笑)。
シャミ:
確かにそうですが、もしそのまま実写だったらアニメーションの本作を観ることができませんでしたよね(笑)。では、改めて吹き替えのキャストとして、蒼井優さんと鈴木杏さんとお仕事をされていかがでしたか?
岩井俊二監督:
撮影現場って不思議なもので、10年ぶりに再会しても前の流れから繋がっている感じがして、あまり久しぶりだとは思いませんでした。
シャミ:
声を録っていたときは、お二人とも自然と花とアリスに返るような感じだったんですか?
岩井俊二監督:
そうですね。でも今回は、前作にはなかった花とアリスの向き合い方を描いているんですよね。2人が関わっているときは、電話だけの会話が続いたりとか、2人だけでみっちり話すシーンが多いんです。前作だと意外とそういうシーンがなくて、友達のわりに一緒にいる場面があまりなかったんです。だから、蒼井さんも鈴木さんも2人のまた違う関係性を理解して吹き替えに臨んでくれました。前作で描きたかったのが、親友が親友じゃなくなるデリケートな部分でしたが、今回はもうちょっと活劇風で、サスペンスとアクションをアニメーションで描くことが狙いだったので、デリケートな部分よりも観ていておもしろくしたいと思っていました。
シャミ:
サスペンスやアクションは、確かに前の作品にはなかったところですよね。その辺りは監督ご自身で何かイメージしていたものがあったのでしょうか?
岩井俊二監督:
そうですね。僕のなかでは、小学校高学年向けの児童文学みたいなイメージがありました。僕自身、子ども時代にそういう読み物で楽しませてもらった記憶がありますが、大人になればなるほどそういった本に出会わなくなって、内容がどんどんどぎついものを手に取るようになりましたが、実は子どもの頃ってそういうどぎつさ抜きでも十分楽しかったよなとか、血湧き肉躍る感じがあったよなって思い返しました。だから脚本を書いていたときは、活字が大きいハードカバーの児童文学をイメージしてストーリーを考えていましたね。
シャミ:
じゃあご自身の経験も踏まえて書かれたということなんですね。本作は、実写版ともリンクするシーンもたくさんありましたが、アニメーションだからこそ意図的に入れた部分はありますか?
岩井俊二監督:
細かいところですが、アニメの方が実写よりもあっさりエモーショナルな部分を表現しやすいんですよ。絵画的表現がすごくしやすくて、実写で撮ったら生々しくなってしまうところも、アニメだからこそ都合が良いところもありました。全体的に引いた絵が多いのですが、登場人物の顔にあまり寄らなくても、十分シーンが成立するんです。同じことを実写で表現しようと思っても、そう簡単にはいきません。アニメの場合は、シーンのなかでキャラクターをただ動かしているだけなのですが、なぜか観ている側に入ってきやすくて、感情に寄り添いやすいんです。でも、逆に実写だとすごく簡単なことが、アニメだとすごく難しくなってしまう部分もありました、例えばアリスと花が2人で並んで歩くシーンや、アリスがタクシーに乗っていて外に運転手が出ていくシーンとか、実写だとただ撮れば良いので何も難しくないのですが、アニメだと難易度がすごく高いことがわかりました。でも難易度が高いことを知った上で、アニメだとないアングルだと思ったので敢えて入れました(笑)。結果としてすごく上手くいったのでホッとしています。
シャミ:
では、今後もアニメーションを制作していきたいとお考えですか?
岩井俊二監督:
やりたいですね。やっと作り方がわかったような状態で、今回は実写のモデルがいたからこそできた部分もあるので、自分の技量だけでは無理ですが、アニメーションの醍醐味は、やっぱり1コマずつ書いて動かすことなんですよね。実写の監督だからといって、その部分をアニメの制作者たちにお任せして、自分はコンポジット的なところだけを演出するんだったら、実写を作るのと変わらないと思うんです。でも実際に絵を描くっていうところに踏み込んでこそアニメーションはおもしろいんだと思います。もちろんかなり大変な作業ですけどね(笑)。
シャミ:
では最後に、これから本作をご覧になる方に向けてオススメコメントをお願いします。
岩井俊二監督:
実はアニメってずっと完成することがないんですよ。本当に完成させようと思ったらあと何年も必要なのかも知れません。でもひとまずここで終止符を打とうかっていうところまでやって、今回はブルーレイにしました。劇場公開が2月でしたが、そこからもずっと止まらずに直し続けていたので、そういう意味では劇場版とブルーレイは違うんです。だから劇場で観た方も改めてブルーレイ版を観ると「あれ?」って思うところがあるかも知れません。ブルーレイの場合は、止めたり戻したりもできるという嫌な機能があるので(笑)、一応その機能も想定した上でスタッフ共々頑張って、ギリギリ完成しました。
シャミ:
アニメーションって、すごく細かくて果てしない作業が必要なんですね。
岩井俊二監督:
本当に果てしないです(笑)。ネットで全国から集めた絵が大好きな子たちも含めると、総勢200人くらいの方が参加してくれた作品で、実は未だに直接会ったことがないスタッフもたくさんいます。本当に果てしない作業の結果がこの作品なので、1コマずつずっと描いてくれた人たちの苦労がたくさん詰まっています。一時停止をして観ても綺麗な絵がたくさんあるので、ぜひ気に入った場面があったら止めて観て頂いても良いと思います。そういった技術面や作業面のことも想像しながら観て頂けたら、スタッフも作った甲斐があると思います。
2015年6月3日取材&TEXT by Shamy
2015年8月12日ブルーレイ&DVDリリース
原作・脚本・監督:岩井俊二
声の出演:蒼井優/鈴木杏/勝地涼/黒木華/木村多江/今泉成/相田翔子/郭智博/キムラ緑子
ポニーキャニオン
石ノ森学園中学校に転校してきた中学三年生の有栖川徹子(=アリス)は、1年前に3年1組で、「ある少年が、4人のユダに殺された」という噂と、アリスの隣の家が“花屋敷”と呼ばれ怖れられていることを聞く。その事件に興味を持ったアリスは、花屋敷の隣人から事件の真相を聞くため、花屋敷に潜入する。しかしそこで待ち構えていたのは、引きこもりのクラスメイト荒井花で…。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
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©花とアリス殺人事件製作委員会