イタリアのアカデミー賞とも言われるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で、監督賞、主演女優賞など11部門にノミネートされ、2014年、本国イタリアでナンバーワン大ヒットを飛ばした本作。今回は本作の監督、原案、脚本を務めたフェルザン・オズペテク監督にインタビュー!監督が見る女性という生き物についての分析、なるほどと思えるお話で目から鱗でした(笑)。
PROFILE
1959年2月3日トルコ、イスタンブール生まれ。姉は女優のゼイネプ・アクス。1977年にイタリアへ移住し、ローマのローマ・ラ・サピエンチァ大学に入学後、シルヴィオ・ダミーコ国立演劇アカデミーの演出コースで学ぶ。80年代から助監督として、マッシモ・トロイージ、マウリツィオ・ポンツィ、ランベルト・バーヴァ、リッキー・トニャッツィ、マルコ・リージなどの監督作品に参加。1997年、監督デビュー作“Hamam”『私の愛したイスタンブール』(TV放送)がカンヌ国際映画祭監督週間正式出品となり、高い評価を得て世界の多くの国々で公開される。その後の作品でも世界中の数々の映画賞を受賞している。監督自身、ゲイであることをオープンにしており、監督の映画には必ずゲイが登場する(本インタビュー時、監督自身の談)。
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マイソン:
雨が降りしきるなか、人で混み合うバス停のシーンで始まるオープニングがとても印象的でした。このシーンにはこれから主人公に起きる物語に繋がる大事な要素があったように思いますが、何を表現しようとしましたか?
フェルザン・オズペテク監督:
もし雨が降らなかったら出会わなかったかも知れない2人が会ってしまったということを表現したかったんです。
マイソン:
特に前半のラブシーンに関して、激しいベッドシーンよりも、エレナとアントニオが触れるか触れないかの距離で接近しているシーンがとてもセクシーでした。監督のなかで“セクシー”の定義は何ですか?
フェルザン・オズペテク監督:
その質問をして頂いてすごく嬉しいです。実はあのシーンは最初、脚本では2人がかなり激しく絡む性描写があったのですが、私は本当にお互いが惹かれた場合、最初からセックスをするというのではないと思い、あの2人に、惹かれ合う2匹の動物がお互いに匂いを嗅ぎ合うように、見つめあうように、探るように表現してくれと言いました。あのシーンはすごく官能的に出来たと思います。私は完全にさらけ出した胸より、ちょっと隠れた胸の方がセンシュアル(官能的)ではないかと思います。必ずしも全部出せばセクシーというわけではないですよね。
マイソン:
個人差はあるにしても、日本人の国民性と比べて、イタリア人の国民性として情熱的で恋愛体質な方が多いイメージなのですが、監督の感覚ではどうですか?また、本作には「恋愛に情熱は必要だ」というようなメッセージを感じましたが、どうでしょうか?
フェルザン・オズペテク監督:
文化的な要因があって、イタリアだけでなくスペイン、フランス、トルコもそうだと思うんですけど、地中海系の情熱的な愛のかたちはあるかも知れません。日本は、それに比べると表現の仕方などからして控えめだっていうことはあります。ただどういう形で情熱を出すかというのは別として、やっぱり情熱というのは死ぬ運命にあって、続かない。ある人間に対して10年間続けて同じような情熱を持って求め続けられる人がいたら、かえってその人はマニアックでおかしいんじゃないかと(笑)。やっぱりそのパッションは時と共に形を変えていくものだと思います。
マイソン:
日本では最近女性の社会進出が増え、主人公のエレナのように強い女性が増えたという感覚がありますが、イタリア社会での男女の関係性はどうでしょうか?
フェルザン・オズペテク監督:
女性が非常に強くて、経済的に力を付けているという傾向はあります。男性に比べて女性の方が、身体的に器官を一つ余計に持っているというか、感覚的に見方が広いんじゃないかと私は思います。一般的に女性の方が現実的で、機転が利いて頭が良いんじゃないかと思うんですが、それは女性が成長するなかで、もしかしたら男性よりも困難を克服しなければいけない状況にあり、そのなかで身につけてきたものなのかも知れません。まだ基本的にどこの国でも男性優位の社会が多いと思うので、そのなかで女性のほうが何か一つ器官、感覚というものを必要とせざるを得ないため、女性はそれを身につけているんじゃないかと思います。仲の良いトルコ人の喜劇役者が言っていたことなんですが、14歳の男の子は夜出かけるときに「お母さん、出かけてくるよ」で済むのに、女の子が夜出かけようとしたら「これからエレナのところに行って宿題をやって…」みたいに話を作らないといけない。だからそういうところで知性が鍛えられていくんじゃないかと思います。
マイソン:
なるほど!納得です(笑)。
2015年5月1日取材&TEXT by Myson
2015年9月19日より全国順次公開
監督・原案・脚本:フェルザン・オズペテク監督
出演:カシア・スムトゥニアク/フランチェスコ・アルカ/フィリッポ・シッキターノ/カロリーナ・クレシェンティーニ
配給:ザジフィルムズ
南イタリアの美しい街レッチェにあるカフェで働くエレナは、ある雨の日のバス停で、自分とは性格も生き方も全く違うアントニオと出会うが、彼は友人の恋人であることが発覚。それでもお互いに何か強く惹かれあうモノを感じていた2人は、周囲に波乱を起こしながらもやがて結ばれる。その13年後、エレナはアントニオとの間に2人の子どもを授かり、ゲイの親友ファビオと共に開業したカフェは成功、充実した毎日を送っていたが、突然病が発覚し…。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定 イイ男セレクション/フィリッポ・シッキターノ
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