今回は映画『罪の余白』の主演、内野聖陽さんと吉本実憂さんのお二人にインタビューさせて頂きました。劇中では、娘を失った父親と人の心を操るキレモノ女子高生として対峙するお二人ですが、実際にお会いするとすごく和やかな雰囲気だったので安心しました。インタビューでは本作の魅力と共に、子どもの世界の難しさ、大人がどこまで子どもの問題に介入するかなどをお話し頂きました。
PROFILE
内野聖陽
1968年9月16日、神奈川県生まれ。1992年、早稲田大学在学中に文学座研究所に入所。1993年にドラマ『街角』でデビュー。1996年に出演したNHK連続テレビ小説『ふたりっ子』でその名を広く知られるようになる。同年に映画『(ハル)』で、映画デビューを果たす。1997年〜2011年は文学座の座員として活動し、演技派俳優として映画やテレビドラマ、舞台など幅広い場で活躍。そのほか映画出演作に『あかね空』『悪夢のエレベーター』『家路』などがあり、またNHK大河ドラマ『風林火山』、ドラマ『臨場』シリーズでは主人公を演じた。『罪の余白』では主演を飾り、娘を失った繊細な父親役を好演。今後の公開待機作には『海難1890』がある。
吉本実憂 1996年12月28日、福岡県生まれ。2012年、「第13回全日本国民的美少女コンテスト」にてグランプリを受賞。「オレオ」「エアリアル」などのCMに出演。2014年には、『獣医さん、事件ですよ』でテレビドラマデビューし、その後「軍師官兵衛」で時代劇および大河ドラマ初出演を果たす。また同年に公開された映画『ゆめはるか』では、映画初出演にして初主演を飾る。2015年4月からは『東北発☆未来塾』で初のナレーションを担当し、さらにドラマ『アイムホーム』『表参道高校合唱部!』に出演し話題沸騰中。そして、10月12日スタートのドラマCX系『5→9〜私に恋したお坊さん〜』(月曜21時〜)に足利香織役にて出演する。映画『罪の余白』では、相手の心理をまどわす女子高生役として出演。
シャミ:
それぞれとても濃いキャラクターを演じていましたが、最初に本作の台本を読んだときはどんな印象を受けましたか?
内野聖陽さん:
最初に台本を読んだときは、娘の死の真相を探求していく父親が悪魔のような女子高生と対峙していく構図がおもしろいと感じ、父親がどんどんその女子高生に翻弄されていくという物語に興味をそそられました。安藤のキャラクターに関しては、僕が今までやったことがない非常に繊細なタイプの人物だったので、これはチャレンジのしがいがあると思い、ぜひ演じてみたいと思いました。
吉本実憂さん:
私が初めて台本を読んだときは、実はまだ役が決まっていない状態だったんです。その後監督と1時間半くらい面接をして、いろいろなお話をさせて頂いて今回の木場咲役に決まりました。役が決まって改めて台本を読んだときは、本当にこの役と向き合えるのかすごく不安でした。
シャミ:
咲は相手の心理をまどわす女子高生という、かなり手強いキャラクターでしたが、吉本さんは彼女について理解できる部分はありましたか?
吉本実憂さん:
彼女にとって夢が夢ではなく目標というところだけは、唯一理解できました。でもそのほかの部分は、理解するのは難しかったです(苦笑)。内野さんが演じる安藤に「勝手に死ねば」と言うセリフもありましたが、そういう言葉を私自身は言ったことがありませんし、どういう感情で言っているのかわかりませんでした。でも木場咲という役は、私が今までにやったことがないキャラクターだったので難しいと思う反面、楽しみな気持ちで臨みました。
シャミ:
安藤は行動心理学者という仕事をしているにも関わらず、娘の異変に気づくことができなかったのですが、内野さんご自身は安藤と娘の親子関係についてどう捉えていましたか?
内野聖陽さん:
僕自身は、安藤が仕事ばかりに集中して娘を放っておいたお父さんだったとは捉えていなくて、むしろ普通の親子以上にコミュニケーションがあったんじゃないかと解釈していました。映画のなかで親子関係の部分はあまり描かれていませんでしたが、どんなに仲が良い親子でもわからない部分が絶対にあるっていうジレンマを大事にして演じたいと思いました。
シャミ:
なるほど〜。確かに映画を観ていても特別仲が悪い親子関係には見えなかったのですが、じゃあどうしたらこのお父さんは娘を失わずに済んだのだろうというのが疑問でした。
内野聖陽さん:
子供を持つ親にとっては不安にさせられる投げかけですよね。でも、一つ思ったのは、子どもは子どもの世界のなかで必死に生きていて、大人からしたら「そんなに気にすることないんじゃない?」って思うことでも子どもは子どもの世界の中ですごく真剣に考えていることもあるし、大人が思う以上に子どもと大人の間にはいろんな落差があるんだと思います。その見えないギャップに気づいていますか?という投げかけのように感じて、僕自身はドキリとしましたね。
シャミ:
この映画はサスペンスとして楽しめますが、他人事に思ってはいけない大人の課題についていろいろ考えさせられる部分があるように感じました。
内野聖陽さん:
そうですよね。何か大人にできることがなかったのかっていろいろ考えさせられますよね。でもそういう余韻を残すところがこの映画の良いところでもあると思います(笑)。
シャミ:
では吉本さんにお伺いしたいのですが、もし咲のような女の子が吉本さんの周りにいたらどうしますか?
吉本実憂さん:
できれば関わりたくないですね(苦笑)。でも咲はクラスメイトからすると本当に憧れの存在なので、もし咲がクラスにいたら私もカッコ良いなって憧れるかも知れません。でももし咲が仲の良いグループの一人だったら、怖くてグループを離れるわけにもいかないし、居場所を失いたくないっていう理由で彼女に付いていくかも知れません。咲は頭がすごく切れるので、もし一緒にいたら身動きできなくなりそうな気がします。
シャミ:
女子の世界だとグループがあるし、やっぱり咲と純粋に友達になるのは難しそうですね(苦笑)。
内野聖陽さん:
でも咲はもしかしたら本当は“悪”ではなかったのかも知れませんよ。確かに“悪”っていうレッテルが貼られていますが、そこがこの映画のおもしろいところで、“被害者”“加害者”とか、レッテルを貼ることによって見えなくなるものがすごくたくさんあるってことも投げかけていると思うんです。だから咲もこちらからはモンスターに見えるし、実際に人よりも少し心に欠落や飢えがあるんでしょうけど、本当は純粋に女優という夢を追い求める普通の女子高生っていう部分もあるんですよね。
シャミ:
そう考えるとレッテルって本当に怖いですね。そういうレッテルを外して本作を観たら別の結末も見えてきそうですね。
2015年9月17日取材&TEXT by Shamy
2015年10月3日より全国公開
監督・脚本:大塚祐吉
出演:内野聖陽/吉本実憂/谷村美月/葵わかな/宇野愛海/吉田美佳子/堀部圭亮/利重剛/加藤雅也
配給:ファントム・フィルム
行動心理学者の安藤は、学校で一人娘が転落死したと知らされる。しかし事件の真相が自殺か事件かわからず、娘の異変に気づかなかった自分を責めていた。そんな時、娘のクラスメイト咲が安藤の前に現れる。娘の死に涙する彼女だったが、実は教師、生徒、警察の心を操り、スクールカーストの頂点に君臨する悪魔のような少女だった。娘の遺した日記からそのことを悟った安藤は、咲に復讐を誓い真相を追い始める。しかし手強い咲に安藤自身が追い詰められていき…。
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