映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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今回は自らが脚本と監督を手掛けた『夢売るふたり』の西川美和監督にインタビューさせて頂きました。さまざまな女性キャラクターが登場する本作についてのお話や、自身が監督になったルーツや女性感についてのお話も聞かせて頂きました。
PROFILE
1974年生まれ、広島県出身。大学在学中に是枝裕和監督作『ワンダフルライフ』(99)にスタッフとして参加。その後、多くの監督のもとで助監督などを経験。 02年、『蛇イチゴ』でオリジナル脚本・監督デビューを果たし、第58回毎日映画コンクール脚本賞ほか数々の国内映画賞の新人賞を獲得。05年には、オムニバス映画『female』にて「女神のかかと」を発表。06年、長編第2作となる『ゆれる』で、第61回毎日映画コンクール日本映画大賞、第49回ブルーリボン賞監督賞受賞。09年、長編第3作目となる『ディア・ドクター』では、第33回モントリオール世界映画祭コンペティション部門正式出品、第83回キネマ旬報ベスト・テン作品賞(日本映画第1位)、第33回日本アカデミー 賞最優秀脚本賞を受賞。国内外で絶賛され、名実ともに日本映画界を代表する監督の一人となる。また、小説作品として「ゆれる」「きのうの神さま」「その日東京駅五時二十五分初」などを発表。本作『夢売るふたり』は4作目の長編映画となる。
マイソン:
監督はどういうきっかけで映画監督の仕事に興味を持ったのでしょうか?
西川監督:
私は、子どもの頃から映画が好きで、自分が一番好きな映画に携わって生きていけたら良いなと思っていました。なので、監督というよりはとにかく映画の仕事に就きたかったんです。そのきっかけを作ってくれたのが是枝裕和監督で、私をご自身の作品の助監督に就かせてくださいました。助監督というポジションは、常に監督の傍にいるので、映画を作る仕事の一番中核を見ることができて、とても嬉しい体験でした。ですが監督を目指す人が助監督をやっているというのが普通なので、どうしても「当然、君は監督になるんだよね」とレールに乗せられるんですよね。私にとって、監督のポジションはもともとあまりに遠いし高いところにある存在で、むしろ夢見たことすらありませんでしたし、傍で見れば見るほど、あこがれを強めるよりもその仕事の大変さに怖じ気づくようになり、いわばそのレールから外れるために現場を離れて脚本を書き始めたんです。昔から文章を書くことが好きだったので、シナリオを書く仕事であれば私にもできるかも知れないと思って。ですが、「そのシナリオをせっかくなら自分で撮ってみては?」と周りに言って頂いたのがきっかけで、監督をすることになりました。
マイソン:
実際に監督になってみて、映画業界に入る前のイメージと違っていたことはありますか?
西川監督:
本来監督というものはもっとカリスマ性のある存在だと思っていました。映画監督は、総合芸術であらゆることをジャッジしてクリエイトしていく神様に近い存在だと思っていました。今でもそうあるべきだと思っていますが、思い描いていた監督像と私自身が全然違うんです。それでも監督をやらせてもらえていることに、ある意味驚いています。以前に、黒澤和子さん(黒澤明監督の長女で映画衣装デザイナー)と仕事をさせてもらったことがあり、あの黒澤監督でさえすごく細かいことでナーバスになっていらしていたとか、ご自分の作品は随分お歳を召されるまでは見直そうとはされなかったというお話を聞き、大きな存在で欠点がないように思えるような監督でも小さな悩みを重ねながらものを作っていたのかも知れないと思いました。私自身、チームに支えてもらっているからこそ監督ができるんだと思いますが、もしかすると私が考えていた監督像は単に思い込みだったのかなと今は思ったり、監督それぞれにやり方があるのかも知れないと思います。
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マイソン:
本作の女性キャラクターたちがとてもリアルでした。今作で女性をメインに描いてみて、監督が女性だからこそ上手くいった点と逆に難しかった点はありましたか?
西川監督:
私は、あまり自分が女性に生まれて良かったと思えないタイプなんですが、唯一良かったと思うことは、女性に気を許してもらえるという点ですかね。男性に言えないことを私には言ってくれるとか、そういう意味では取材対象者が女性である場合に、割と警戒心なく話をしてもらえたのは良かったと思う点です。つまり端的に言うと、女の人とフラットに関係性も作れるから女性で良かったと。難しいと思った点は、私が女性だからといって「女性が理解できるか」といったらそうではないと思うんです。なので、私が描いている女性が本当に女性なのかというところは逆にわかりませんでした。あくまで自分が見てきた女性像なので、「こんなんじゃないわよ」とほかの女性たちには思われるかも知れないという不安はありました。
マイソン:
息子がいるシングルマザーが出てきたときの急展開にすごく驚き、ある意味残酷だなとも思いました。そういう毒気や皮肉は意図的に入れたんでしょうか?
西川監督:
残酷ですよね〜、でも現実って残酷じゃないですか(笑)。子どもがいないということは、女性を狂うほど苦しめるファクターで、それを私は周りを見ていて何となく感じていました。なので、今回は子どもがいる人の苦しさといない人の苦しさ、それぞれ背負わないといけない残酷さを描くことがテーマでした。
マイソン:
タイトル『夢売るふたり』の【夢売る】の部分がいろいろ解釈できておもしろいと思いました。監督はこの【夢売る】という言葉にどういう意味を込められたのでしょうか?
西川監督:
このタイトルは、いろんな意味に解釈できてすごくロマンチックで多幸感のある雰囲気でありつつ、だんだんこの【売る】という文字が生々しく浮かびあがってきますよね。【夢】という言葉もすごく良い言葉だし、人間が生きていく上ではなくてはならない大切なものだと思います。「夢をみよう」「夢を持とう」と言いますし、それは正しいことだと思います。ですが、その夢と共に生きていくということは、【夢】がもう夢ではなくなるということであり、現実にしてしまった後に、もう見る夢は残っていません。それが夢の代償だとも思います。私自身も一番好きなものを仕事にした人間なので、現実と化してしまった夢を背負うことはよく実感しているつもりです。夢見ていたような綺麗なものばかりではありませんし、その夢の残骸処理だけにならないように、夢を夢として生涯大事にしていくにはどうしたら良いのかということが、大人になってからの課題だと思っています。そういった大人になることはどういうことなのか、大人として生きていくことはどういうことなのかというのが今回の作品のなかで、私がやりたかったことの一つかも知れませんね。
マイソン:
では最後に、トーキョー女子映画部の夢を持つ女性たちに一言お願いします。
西川監督:
夢を持てるって良いことですよね。自分が良いなって思えるものがほんの少しでもあって、それを叶えたいと思えること自体が素晴らしいことだと思います。その感覚というのは人工的には作れないものなので、まず夢を持っているということを大事にしていくべきだと思います。夢と共に生きていくことは、ときに失望することもありますし大変なことだと思います。私もいつも一つ作品が終わると、初心に戻って自分が何で映画が好きだと思ったのかという気持ちを取り戻したくて、いろんな人の作品を観たりします。そうすると、同世代の監督が良い作品を撮っていたりしてすごく勇気づけられますし、やはり映画は自分が一番好きだったものなんだなと思い出して、また頑張ろうという気持ちになります。なので、皆さんも常に初心に戻りながらまた前を向いていけると良いですね。
2013年1月15日取材
2013年3月6日ブルーレイ& DVDリリース(レンタル同時)
監督・原案・脚本:西川美和
出演:松たか子/阿部サダヲ/田中麗奈/鈴木砂羽/安藤玉恵/江原由夏/木村多江/やべ きょうすけ/大堀こういち/倉科カナ/伊勢谷友介/古舘寛治 小林勝也/香川照之/笑福亭鶴瓶
発売元:バンダイビジュアル
東京の片隅で小料理屋を営んでいた夫婦、貫也と里子は火事ですべてを失ってしまう。“自分たちの店を持つ”という夢を諦めきれないふたりには、金が必要だった。再出発のために二人が選んだのは結婚詐欺!里子が女たちの心の隙間を見つけて計画し、貫也が巧みに女の懐に入り込んで騙していく。孤独を抱えた男女の人生が交錯し、やがて歯車は狂い出していく…。
©2012「夢売るふたり」製作委員会
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