映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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今回はモデル、女優、そしてムック本の編集長を務めるなど幅広い場で活躍している菊池亜希子さんにインタビューしました!映画『よだかのほし』の撮影時のお話からこの業界に入ったきっかけなど、さまざまなお話を聞かせて頂きました。本作は宮澤賢治の童話【よだかの星】をモチーフとした作品で、劇中で菊池亜希子さんは主人公のトワを演じています。映画のなかも実際もとてもかわいらしい印象の菊池亜希子さんですが、内に秘めている思いの熱さとこだわりにはとても驚きました!
『探偵同盟』『東京の嘘』『ぐるりのこと。』『森崎書店の日々』中編映画『ファの豆腐』『わが母の記』『よだかのほし』『ROUTE42』『豆大福ものがたり』
1982年、岐阜県生まれ。主にカジュアルファッション誌等で人気を誇るモデルで女優。2008年に『ぐるりのこと。』、2012年に『わが母の記』など話題作に出演。2010年『森崎書店の日々』、2012年『よだかのほし』では主演を演じた。またイラストと文章を全て自身で手がけた【みちくさ】シリーズや、構成、イラスト、モデル、文章などを手がけた編集長として作り出した【菊池亜希子ムック マッシュ】を出版するなど幅広いジャンルで活躍中。
シャミ:
本作のお話を頂いたときの印象を教えてください。
菊池亜希子さん:
私はもともと宮澤賢治さんの作品が好きだったので、この映画のタイトルを見た瞬間からこの映画が好きになる気がしていました。宮澤賢治さんの作品のなかでも特に【よだかの星】は好きなお話で、それを題材にした女の子の話を今回制作すると聞きすごく嬉しく思いました。実際に脚本を読むと当たり前のように体にスッと入ってきたのでこれはやるべきだと感じました。
シャミ:
トワに共感したところはありましたか?
菊池亜希子さん:
斉藤監督が私をイメージして脚本を書いてくださったようで、トワは本当に私自身に近いところがたくさんあるキャラクターでした。そのおかげでセリフや動作を覚えようとしなくても自然に出てきて、全く違和感なく演じることができました。トワは今立っているところで頑張っているんだけど、本当はすぐにでも泣き出しそうな状態です。私自身この作品の撮影に入るまであまり自覚していなかったのですが、私自身もトワと同じような状態だったということを気づかされました。トワが自分と似ている分、気持ち的に重くてそれが体調に現れてしまうこともありました。当時は30歳前で、本当に弱い部分が今までと違うところに出始めて、そういう自分自身の変化は興味深かったです。
シャミ:
印象に残っているシーンや思い出深いシーンはありますか?
菊池亜希子さん:
一番はやはり“花巻まつり”のシーンですね。お祭りがクライマックスに向かうに連れて町の人たちの興奮が最高潮になっていって、そういうなかで私たちは全くセッティングなしでゲリラ的に撮影をしました。そんな状況だったからこそ良い臨場感を出すことができました。たくさんの人の熱気のなかにいるのに心はなぜか静かになっていくという気持ちを身をもって感じることができ、それを自然と演技で表現することができたシーンでした。監督や周りのスタッフさんもそのシーンは「すごく“撮れた”感じがする」と言っていて、普段の撮影現場では“撮れた”という言葉はなかなか出ないので、お祭りのシーンは本当に奇跡的な瞬間だったと思います。単純に芝居が上手くできたということではなく、役者の気持ちがしっかりと映し出されてそれがフィルムに刻まれたという感触を全員が感じることができました。
シャミ:
トワと両親の関係がそれぞれ違ったと思うのですが、そういう関係性を何か意識されて演じていましたか?
菊池亜希子さん:
私自身、父親も母親もとても大切な人に変わりないのですが2人との距離感はそれぞれ違います。トワの場合はお父さんが亡くなっていますが、離れて暮らすお母さんがちゃんとトワのことを思っているということに気づけたことがラッキーだったと思います。私の場合は身近なところで手を差し伸べてくれる人や、いつも必要なタイミングで連絡をくれる人がいます。人間関係は実際の距離ではなくて、自分を支えてくれている人の存在に気づけるかどうかが大切なんだと思います。それに気づけてやっと大人になれるんでしょうね。
シャミ:
始めにこの業界に入ったのはどういうきっかけだったのでしょうか?
菊池亜希子さん:
私は中学生のときから身長が高いのがすごくコンプレックスで、当時好きだった人が自分より背が低くて、それが原因で失恋したなんてこともありました。だけど高校に入って、友だちが私の身長が高いところに目をつけて「絶対にモデルになれるよ!」って言ってくれたんです。そう言われたときに自分にそういう可能性もあるんだということを初めて知りました。それから勢いでモデルの募集に応募したのがきっかけで今に至ります。
シャミ:
いろいろな仕事をしていくなかで大変だなと思うときはどういうときですか?
菊池亜希子さん:
一番大変なのは本の製作で、裏の裏まで一連の流れを見ているので、表面的に編集長をやっているのではなくて全部自分の言葉で書くべきところは書き、文字を校正するところまでやっています。何かを作っているときはいろんな素材がそろったときが一番わくわくします。だけど、その良い素材をちゃんと良い場所に良いカタチで配置していかないと良さが半減してしまうので、配置を決めているときが実は一番プレッシャーを感じます(笑)。いろんなクリエイターの方から預かったものという気持ちがありますし、自分だけの作品を作っているのではなく、自分のやりたいことをいろんな人の手を借りていろんな人の作品にしているという責任があります。責任編集なだけに(笑)!私はとにかく自分で最後までやらないと気が済まない性格で、最後に出来上がったものを見たときに納得がいかないといつまでも気になってしまうんです。だから最後の詰めまで大切なことだと思って本気で取り組んでいます。
シャミ:
本を今は最初から最後まで作られていますが、映画の現場で作り手側をやってみたいと思うことはありますか?
菊池亜希子さん:
実はこの間、本の企画で短編映画を撮ったんです。それは私が舞台をやっていたときの演出家の前田司郎さんとの何気ない会話から始まり、前田さんの同級生だった沖田修一監督とともに短編映画を作ることになりました。この企画は人も予算も最小限で、映画製作の一番ミニマムな形でつくられたので、みんなのやる気と愛で出来上がったといっても過言ではないです(笑)。この企画で、いろんな人を結び付けられたことがすごく嬉しかったです。
シャミ:
いろんな仕事をされていますが、切り替えはどうやってされているのでしょうか?
菊池亜希子さん:
今はちゃんと切り替えができるようにスケジュールを組んでもらっていますが、どうしてもそうはいかないときもあります。でも本の作業が煮詰まっているときに、他の仕事をすると今の状況を一歩引いたところから見ることができて突破口が開いたように思えることがあるんです。でもあまりにも大変で物理的に無理なくらいに達すると、ランナーズハイのような状態になって家で踊ったりしていることもあります(笑)。
シャミ:
今後新たにやってみたい仕事はありますか?
菊池亜希子さん:
お芝居に関しては具体的にこういう役をやりたいというのはありませんが、そのときに自分が最大限にできる役を頂いているような気がします。『よだかのほし』に参加してから2年経ちますが、撮影当時と今とでは内面的に変わっていて、今はあの役はできないような気がします。成長したというより、一歩踏み出したという感じです。次にどんな役に出会えるのか楽しみです。
シャミ:
本作を鑑賞する方に向けて一言お願いします。
菊池亜希子さん:
なるべく真っさらな気持ちで観て欲しいと思います。余計なことを考えたり、自分の状況を無理に重ね合わせたりしないで観てもらうと何かスッと心が軽くなると思います。私自身、何回もこの作品を観ていますが、普段は気になる自分の芝居もあまり気にならず、この作品そのものの空気のなかに観ている自分がすっと入っていけます。トワと状況や仕事との向き合い方が違っても、年齢に対する不安とか今いる場所とこれから行く場所をふと考えてしまうこととか、女性なら一度は経験があるのではないかなと思います。この作品を観ると形にならない気持ちや、心の中で渦巻いているものが取り出せて、自分で何か気付いてあげることができるんじゃないかと思います。
2013年8月30日取材
2013年10月16日(水)DVDリリース
(レンタル同時)
よだかのほし [DVD]
監督:斉藤玲子
出演:菊池亜希子/眞島秀和/北上奈緒/深水元基/今村祈履/いせゆみこ/大宮千莉/佐藤誓
発売元:アン・エンタテインメント
販売元:TCエンタテインメント
都会で暮らす本郷トワは同郷のおばあちゃんと偶然出会い、おばあちゃんとの約束を果たすために故郷の花巻に帰ることになった。トワにとって故郷は父と死別した場所であり、母とはわだかまりができてしまった辛い場所となっていた。しかし実際に帰り、友だちや祭りの活気、そして大切な思い出に触れ次第にトワの気持ちが動き…。
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