映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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今回はエベレストに登る登山家たちの姿をリアルな映像で映し出した映画『エベレスト3D』に出演の森尚子さんにインタビューさせて頂きました。森さんは、現在ロンドンを拠点に活動をしている女優さんで、今回の出演については「大きなチャレンジが欲しいと願いごとをしたら、この役がきました。本当に大きなチャレンジでしたが、私の人生観が変わりました」と語っていました。そんな森さんに、撮影時の様子や、海外で女優活動をすることになった経緯について伺いました。
ツイートシャミ:
本作は自分も本当にエベレストに登っているのかと思うくらい迫力がある映像だったのですが、実際にどのように撮影が行われたのでしょうか?
森尚子さん:
ロンドンで台本の読み合わせを行い、撮影自体はネパールのルクラというエベレスト街道のスタート地点から始まりました。そこから役者も含め全員が自分の荷物を背負って何時間も歩いて、止まっては撮影するということを繰り返していました。そうやって少しずつ高度に順応しながら山を登ったのですが、ナムチェバザール(標高3440m)あたりからは、さすがに酸素不足になって、2〜3歩進むだけで息切れしたり、靴紐を結ぶだけでもクラクラするようになりました。それでもマイナス20度くらいのなかで撮影をして、その撮影が終わったら、次の現場までまた歩くという感じで、途中で恐ろしい橋を渡ったりもしました。そうやって皆で同じ経験をすることで仲良くなり、すぐにファミリーのような感覚になりました。私は唯一の女性キャストだったので、撮影当初はできるだけ女性らしくいようと思っていましたが、2〜3日経ったらそんな余裕は全くなくなりましたね(笑)。私達はエベレストの頂上までは行くことはできなかったのですが、今回こういう経験をして改めて登山家の方はすごいなと思いましたし、私自身も本当に得難い体験をさせて頂きました。
シャミ:
現在に至るまでの経緯をお伺いしたいと思います。森さんが14歳のとき、ご両親がロンドンから帰国され、女優を目指すためにお一人でロンドンに残ったということですが、女優を目指す上で何かきっかけがあったのでしょうか?
森尚子さん:
知らないうちにやりたいと思っていたんです。最初は学校で歌のレッスンをやったり、演劇クラブに入っていて、趣味程度の感覚だったのですが、それが14歳のときに、「私はやっぱり演劇の方向に行きたいな」と自然に思えました。私はそれまでにいろいろな国に行って、文化に触れ、多くの人達と出会ってきました。そういう経験もあって人に対してすごく興味があるんですよね。例えば、殺人をした人と出会ったとします。確かに悪い人なのですが、その人にも必ずストーリーがあるんです。“history(=歴史)”という言葉がありますが、“his story(=その人のお話)”とも読めるんですよね。そういう“his story”の部分を知ることが、私は当時からすごく好きなんです。だから役者としていろいろな役を演じることがおもしろいんだと思います。
シャミ:
幼少期の経験がしっかり今のお仕事で活かされているんですね。では、なぜ日本ではなくロンドンで女優をやろうと思ったのでしょうか?
森尚子さん:
父から聞いたのですが、当時私がロンドンでの生活をすごく自由に楽しんでいるように見えたらしいんです。それに、日本に帰ったら受験勉強なども出てきて演劇をやっている場合ではなくなるということで、そのままロンドンに残すことを決めたそうです。父は私に自立して欲しいと思っていたらしく、ロンドンに残ることが決まった後も学校の寮に入れてくれるのかと思ったら、「自分でアパートを探しなさい。予算を決めて全部自分でやりなさい」と言い、銀行の通帳を渡されたという感じだったんです(笑)。
シャミ:
えー!!14歳で自立とはすごいですね!
森尚子さん:
もちろん父も見守ってくれていましたが、ロンドンに残してくれたおかげで自分の力でやっていく能力が身に付きました。当時は、高校を卒業した時点で日本に戻る予定だったのですが、大学受験と同時に『ミス・サイゴン』の出演が決まり、結局知らぬ間に何十年も経っていました(笑)。
シャミ:
本当に若い時からすごい経験をされているんですね。では、海外で女優活動をされているなかで、日本人やアジア人俳優に対して、どんな要求をされることが一番多いですか?
森尚子さん:
実は、私自身があまり意識していないんですよ。もちろん日本人ですし、日本人のアイデンティティを忘れたくありません。でも海外にいると、私が外国人なんですよ。私は昔から「国境をなくしたい」ということを目標に掲げているのですが、それは人種差別的な見方をなくしたいということなんです。今回の映画のキャラクターは、難波康子さんという日本人の役でしたが、それ以外にも何人か日本人の役をやったことがあるくらいで、ほかの役はすべてアジア人の役ではないんです。やっぱりアジア人を普通に受け入れて欲しいからこそ、敢えてそういう役の選び方をしていて、私自身が日本人女優であるというラベルをなくして活動をしていきたいと考えています。なのでいかにもステレオタイプな日本人の役などが来た場合は「ありがとうございます。でも今回はお断りさせて頂きます」ということもあるんです。
シャミ:
なるほど〜。森さんがそうしてくださることによって、これから海外で活躍される方が、人種に関係なく見てもらうことができそうですよね。
森尚子さん:
そうだと嬉しいですね。人種差別の問題だけではなくて、誰にでも先入観というものがあると思うんです。でも皆違うのが当たり前なので、なるべくそういった先入観がなくなったら良いなと思います。
2015年9月30日取材&TEXT by Shamy
2015年11月6日より全国公開
監督:バルタザール・コルマウクル
出演:ジェイソン・クラーク/ジョシュ・ブローリン/ジョン・ホークス/ロビン・ライト/エミリー・ワトソン/キーラ・ナイトレイ/サム・ワーシントン/ジェイク・ギレンホール/ナオコ・モリ(森尚子)
配給:東宝東和
世界最高峰エベレスト登頂ツアーの参加者たちは、数々の山を踏破してきたベテランばかりだった。しかし迎えた頂上アタックの日、ロープの不備や参加者の体調不良などでスケジュールが大幅に狂い、下山が遅れてしまう。さらに天候まで悪化し、最悪の状況に陥る。人間が生存できないとされる死の領域“デス・ゾーン”でバラバラになってしまった登山家たちが、過酷な状況下で試されるものとは…?
© Universal Pictures