映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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名前のない犬たちと、その犬たちを救おうとする人々の姿を描いた映画『犬に名前をつける日』。今回は、取材者の久野かなみ役として出演された小林聡美さんにお話を伺いました。本作はドキュメンタリー作品であり、映画のなかで語られていることはすべてが事実です。そんな本作に一人の取材者役として参加した感想、またこれから動物達と人間がどんな関係を持つべきかなど聞いてみました。
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衣装:Sally△Scott(サリー・スコット)、CASUCA(カスカ)/スタイリスト:安野ともこ(コラソン)
シャミ:
本作への出演の決め手はどんなところだったのでしょうか?
小林聡美さん:
私自身も動物と暮らしていますが、そんな動物達は人間の都合で人間と一緒に暮らすことを決められています。だから一度その命を預かったら最後まで責任を持つべきだと思っていました。そんな考えがこの映画にもすごく通じると感じ、無責任に動物を飼う人達を少しでも減らすためのお手伝いができたらと思い出演を決めました。
シャミ:
実際に本作に出演する前と後とで、小林さんのなかで一番変わった部分はどんなところですか?
小林聡美さん:
今までは直接、動物の保護活動に関わることはありませんでしたが、私も自分のできる範囲で何かしたいと強く思うようになりました。例えば里親を探している人達のお手伝いをしたり、自分が飼っている動物に対しても、毎日気持ち良く過ごせているかどうかを前にも増して気にかけるようになりました。
シャミ:
本作では取材者役としていろいろな場所を訪問されていましたが、一番印象に残っているところはどこですか?
小林聡美さん:
撮影の初日に千葉の動物保護センターに行ったのですが、すごく衝撃でした。今まで動物保護センターに対して、すごく怖い場所というイメージがあって、あまり近寄りたくないと思っていたのですが、実際に中に入ってみると、ただ怖い場所なのではなく、動物たちの命を救おうとしている人達もいる、希望の場所でもあることがわかりました。
シャミ:
今回の経験も踏まえて、小林さんは今後動物と人間の関係がどのように変化していって欲しいとお考えですか?
小林聡美さん:
急にというのは難しいかもしれませんが、やっぱり動物と一緒に暮らしている人達や、これから暮らそうと思っている人達の意識がちょっとずつ変化していってくれればいいなと思います。今は動物をペットショップで購入される方が多いですが、(ビジネス的に裏で非人道的な繁殖をする)劣悪なブリーダーを根絶するためにも、シェルターや保護団体から引き取るという選択肢を考えて欲しいです。どこで動物たちと縁を組むのかはとても重要な問題だと思います。
シャミ:
そうですよね〜。今の日本だと“ペットを飼う=ペットショップで購入”というイメージがかなり強くて、ほかで縁を組む方法を知らない方が多いですよね。
小林聡美さん:
やっぱり姿が見えて可愛いし、金額が表示されているので、購入しやすいんでしょうね。それに保護センターから引き取るとなると、場所が地方だったり、手続きが面倒くさそうと思ったりして、どうしても身近なペットショップで購入という考えになってしまうのかも知れません。でもそういう人達の意識が少しでも変わってくれたら、今の状況は変わると思います。
シャミ:
やっぱりまだまだ知識が浅いのかも知れませんね。この作品を観る方のなかには、既にペットショップで購入した動物と暮らしている人もいると思うのですが、びっくりするかも知れませんよね。でもそういう人達にも、今預かっている命には責任を持って大事にして欲しいと思います。
小林聡美さん:
本当にそうですよね。監督も最初に飼っていた犬がゴールデンレトリーバーで、当時は犬種にもすごくこだわってイギリスから取り寄せたそうです。そのときはこんなに選択肢があることに気が付かなったそうで、今となってはものすごく反省していました(苦笑)。皆さんにも、もっといろいろな選択肢に目を向けてもらえたらと思います。今は動物保護団体も多くて、そこで生まれる子犬や子猫達もいて、歳をとった動物を飼うという選択肢もあります。こんな風に私自身、今回気付かされたことがたくさんありましたが、皆さんにもこの映画を通してそういったことを少しでも知って頂けたらと思います。
シャミ:
本作で語られていることはすべて真実で、そのなかで取材者役として出演してみていかがでしたか?他の作品で役を演じるのとでは違ったと思うのですが役を演じるという意識は小林さんのなかではどのくらいあったのでしょうか?
小林聡美さん:
今回は、普通の映画やドラマのようにセリフや物語の結末があるわけではありませんでしたが、その分現場で何が起きるのか、また、それをどのように受け止めるのかということに緊張していました。役を演じるという意識よりも、その場の状況をきちんと感じ取ってその場にいられたらと思って臨みました。でも実際にその場に入ると、目の前に起こっていることすべてに圧倒されて、いろいろ考える間もなくその場所に引き込まれていきました。共演した保護センターや保護団体の方には、私が小林聡美ではなく、久野かなみ(役名)であるということをお伝えしてあったので、皆さんも「小林さん」って呼ばないように気をつかってくださったと思います。
シャミ:
では女優というお仕事について伺いたいのですが、このお仕事の一番の魅力はどんなところだと思いますか?
小林聡美さん:
一つの作品ごとに新しい物語、新しい顔ぶれで仕事ができることでしょうか。毎回新鮮で、緊張感があります。撮影期間中は、私なりにいろいろなことを考えながら過ごしているので、撮影が終わったときは、「明日から何も考えなくて良いんだ、やった〜!」という開放感があります(笑)。
シャミ:
役者さんのお仕事って、ただセリフを覚えて言うだけじゃなくて、そこに気持ちをのせたり、作品の世界観に入らないといけないと思うのですが、小林さんの場合はどのような感覚でそれぞれの役を作っているのでしょうか?
小林聡美さん:
現場には、その作品の世界観を作り上げようという思いの人達が集まるので、自然にスッとその作品の世界が出来上がる気がします。どの作品も皆で作り上げるものなので、誰か一人でも欠けると台無しになってしまいます。そういう意味では、現場の緊張感やチームワークがすごく重要だと感じます。
シャミ:
では最後に本作の見どころと、これから観る方に向けてオススメコメントをお願いします。
小林聡美さん:
一番観て欲しいのは、健気な動物達の目でしょうか。そこから自分達にできることは何なのか、いろいろなことを感じて頂けたらと思います。そして、人間達の都合でどれだけの動物の命が捨てられているのかという現実と、それを助けようとする人達がいるという事実を知って頂くだけでも何か響く部分があると思います。いろいろなドラマが詰まった迫力のあるドキュメンタリーになっているので、ぜひご覧ください。
2015年10月13日取材&TEXT by Shamy
2015年10月31日より全国順次公開
監督・脚本・プロデューサー:山田あかね
出演:小林聡美/渋谷昶子/ちばわん/犬猫みなしご救援隊/上川隆也
配給:スールキートス
テレビディレクターの久野かなみは、愛犬のゴールデンレトリーバーを重い病気で亡くし、何をしようにも気力が湧かなかった。しかしそんなとき、大先輩の映画監督に勧められ犬の命をテーマにした映画を撮り始める。そして動物保護センターや福島の原発20キロ圏内から救われた犬達のシェルターに行く。ショックを受けながらも、実はそこには一匹でも多くの命を救おうと保護活動をしている人達がいることを知る。そしてかなみの心はだんだんと動かされ…。
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