映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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運命的に再会し、激しい恋に落ちた男と女の10年間を官能的でドラマティックに描く『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』。カンヌ映画祭に正式出品され、主演のエマニュエル・ベルコに女優賞をもたらしたほか、セザール賞の作品賞、監督賞にふたたびノミネートされた本作のマイウェン監督にインタビューしました。盲目的な恋に溺れる女性に、マイウェン監督が贈るアドバイスとは…?
Photo:MITSUHIRO YOSHIDA/Hair&Make:Mariko Kubo
ツイートミン:
トニーにとってジョルジオは自分を幸せにしてくれる相手ではありませんが、相手に執着して客観性を失っている彼女は、周りが何を言っても聞きません。もし、マイウェン監督がトニーの親友という立場だったら、何かアドバイスをしますか?
マイウェン監督:
もちろん、本心では「彼はあなたには合わない」と言いたいわ。でも、それを言ってしまうと女同士の友情が壊れてしまうと思うの。人って、自分ではわかっていても人から言われたくないことってあるでしょう?ただ、彼女に1つだけアドバイスをするなら、「努力をし過ぎて、かえってダメにしちゃうこともある」ってことね。こと恋愛に関しては、やり過ぎることが悪循環を生み出すことは多々あるものよ。
ミン:
日本にも、「花に水をやり過ぎると枯れる」という言葉があります。
マイウェン監督:
ははは(笑)。深い言葉ね。激しい恋の最中は、単純に情熱という言葉では片付けられない、強迫観念的な感情に捉われることもあるわ。トニーだって、ジョルジオに出会ったときから、うまくいかないことは何となく感じていたはずよ。それでも、この恋に火花のようなものを感じて、引き寄せられずにはいられなかった。長年連れ添っている夫婦だって、うまくいっていないのに、その関係にしがみついていることも珍しくないわ。理性よりも強迫観念が上回って、その構造から抜け出せないでいるの。
ミン:
たしかに、そういうご夫婦やカップルも多いと思いますし、自分もそうなりかねないと思います…。
マイウェン監督:
そう。だから、私はいつも言っているの。“愛はもっとも危険なドラッグよ”って。もちろん、私はドラッグはやらないけれど、愛が欠乏してくるとね、愛し合っていたときの、あの至福の快感をまた味わいたくて、繰り返してしまうものなのよ。
ミン:
言い得て妙ですね。マイウェン監督の周囲の方からは、本作を観てどんな感想をもらいましたか?
マイウェン監督:
もちろん、ここまで情熱的な愛が普通だとは言わないし、ジョルジオみたいな男性ばかりじゃないわ。でも、共感してくれる人がたくさんいて、このストーリーが私の独りよがりで作ったものじゃないとわかって、すごく嬉しかった。アーティストとして、周りの評価を怖れずに、自分が感じたことを基に映画を作っても良いと思えた。それを自伝的だとか私的な作品だとか批判するのは間違っていると思うの。普遍的な物語だって、すべては個人的な体験によるものよ。
ミン:
恋愛をしたことのある人ならば、本作を観て「これは、自分の物語だ」と感じる部分がきっとあると思いますよ。
マイウェン監督:
そう感じてくれるということは、私が伝えたかったことがうまく伝わったということね。それが一番大切なことだと思うの。今の世の中では“実話を基にした”とか、“ノンフィクションを映画化した”とかという宣伝文句が溢れているけど、だからといって誰もが実話のラブストーリーを観たいわけじゃない。“自分に感じるものを伝えてほしい”と思っているんじゃないかしら。
ミン:
おっしゃる通りだと思います。最後に、これから本作を観る、日本の観客にメッセージをお願いします。
マイウェン監督:
その質問は好きじゃないわ!なぜなら、私は、この作品を観客自身に真っ白な気持ちで観てほしいの。その上で、この作品が観た人の人生に何かしらの影響を及ぼすのなら、それはそれで嬉しいことだと思うわ。
2017年3月8日取材&TEXT by min
2017年3月25日より全国順次公開
監督・脚本:マイウェン
出演:エマニュエル・ベルコ/ヴァンサン・カッセル/ルイ・ガレル/イジルド・ル・ベスコ
配給:アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル
弁護士のトニーはスキー事故で大けがを負い、リハビリを続けるなかで波乱に満ちた過去の愛を振り返る。10年前、トニーはかつて憧れていたレストラン経営者のジョルジオとクラブで再会し、激しい恋に落ちて結婚。念願の子どもを授かるが、その結婚生活はトニーにとって苦しみの連続だった。不毛な愛とわかりながらも、ジョルジオへの執着が断ち切れないトニー。心が限界に達したとき、彼女が選んだ結論とは…。