映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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山と人間のさまざまな関係をありのままに収めたドキュメンタリー映画『クレイジー・フォー・マウンテン』の監督、ジェニファー・ピードンさんにインタビューをさせて頂きました。迫力満点の映像はどのようにして撮影されたのかなど、お話をお聞きしました。本当に圧巻の映像が観られる作品です!
<PROFILE>
ジェニファー・ピードン
『ソロ ロスト・アット・シー 冒険家アンドリュー・マッコリーの軌跡』は、第21回アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭や第15回シェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭など、主要なドキュメンタリー映画祭の公式セレクションで上映され、オーストラリア映画協会のドキュメンタリー映画賞をはじめ数々の賞を受賞。『Sherpa』は第62回シドニー映画祭の公式コンペティション部門で唯一選ばれたドキュメンタリー作品となり、その後も第42回テルライド映画祭、第40回トロント国際映画祭などで上映され、好評を得た。また、第69回英国アカデミー賞のドキュメンタリー賞にノミネートされ、第59回ロンドン映画祭では、グリアソン・アワードのドキュメンタリー長編賞を受賞。オーストラリアのドキュメンタリー映画としてはこの年の1位、史上3位の興行収入を記録した。
マイソン:
正直なところ、私自身はあまり山登りが好きではないので、登山シーンがメインのドキュメンタリー映画だったら、どこまで楽しめるのかなと思っていたのですが、山がそこにあるだけなのに、人間側の思想や文化の変化で、山の存在が変化していくという解釈がとてもおもしろかったです。監督ご自身は山のどういう点に魅力を感じていらっしゃいますか?
ジェニファー・ピードン監督:
おっしゃる通りで、やはりもともと人間が崇拝していて、畏敬、畏怖の念を抱いていた山々が、今やその山から飛び降りたりするような人達がいるくらい、人の山に対する思いや考え方、捉え方が、革命的に変わってきたという変遷がなかなかおもしろいと思い、映画で描きたかったんです。私自身もともとアウトドアが好きな、非常にアクティブな家族で育ったんですけれども、最初にヒマラヤに行った時には本当に感動しました。ものすごく山が壮大で、その中にいる自分がなんてちっぽけな存在なんだ、取るに足らない存在なんだって感じました。けれども、同時にすごく平和な気分になった、その感覚が忘れられなくて、すごく魅力を感じるんです。
マイソン:
山をテーマにしたドキュメンタリーについて私が持っていたイメージとは違って、本作はとても観やすかったのですが、本作を制作するにあたり、どういう点に一番こだわったのでしょうか?
ジェニファー・ピードン監督:
どういう作品を描きたいかと考えた時に、人間と山との関係を描きたいと思いました。それって本当にいろいろな形がありますが、そのすべてを網羅したいと思ったんです。今でもすごく尊敬の念、敬意を持って山に接して、その中で限界にチャレンジしていく人達もいますが、一方で、ちょっと限度を超えて、敬意を見失っているんじゃないか、山の持つ偉大さや威厳を忘れているんじゃないかと思うところもあります。例えば劇中では、エベレストに登るために、ものすごい行列ができている様子とか、無謀な行動に出ている人の様子も映しています。でも、そういったことをそこでジャッジするのではなく、これだけいろいろな人が山と関わりを持っているという様子として、すべて描きたかったんです。
マイソン:
なるほど。どうやって撮影したんだろうと思うシーンや、登山された方はもちろん、カメラを持ちながら登っている方が一番危険なんじゃないかと、ハラハラするシーンもありました。撮影する上で難関だったシーンはどこでしょうか?
ジェニファー・ピードン監督:
私自身もエベレストなどに登った時は、カメラクルーとして登りながら撮影するという仕事をやりました。今回、レナン・オズターク氏に撮影監督をお願いしたのも、彼に山を撮らせたら一番っていうくらい、カメラマンとして優れているのと同時に、登山家としても“ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)”がスポンサーにつくほど立派なアスリートだからなんですね。なので、彼が撮ったものがすごく多いわけですが、「この人しか撮れない」というようなレアなシーンもたくさん入っています。あとはテクノロジーの進化によって、撮影方法も進化してきています。GoPro(ゴープロ)というカメラはヘルメットみたいに自分の頭に装着して撮ることもできるので、それをクライマーの方達に付けてもらえば、彼らの視点で撮ることもできます。あと空中撮影ではドローンを使うことが多く、例えば、オープニングシーンのアレックス・オノルドさんが崖っぷちにいるシーンは、レナンが実際に自分もロープで崖からぶら下がって撮っているものと、外から俯瞰してドローンで撮っているものを組み合わせています。
マイソン:
そうやって撮ってるんですね!でも、技術の進歩で撮りやすくなったとは言いつつ、やはり撮影が危険なシーンもあると思うのですが、「撮りたい衝動」と「安全性保持をする」というところで、判断を迫られる時はどうしているんですか?
ジェニファー・ピードン監督:
それもあって、すべてを撮りおろしたわけではなく、実際にそういった映像を既に持っている方から集めることもしています。なので、レナンがいろいろな既存の映像を何百時間分も集めてきて、今回お借りして使用したというのもあります。でも前作でエベレストの撮影時に雪崩がきて、死者が出てしまったということもあったので、危険は伴います。今回ここに収められているのは、本物のアスリートによる本物の映像なんですよ。
マイソン:
すごい映像ばかりだったので、今のお話で納得しました。その登山家の方々の繋がりも素晴らしいですね。
ジェニファー・ピードン監督:
そうですね。レナン自身が登山家のあいだでリスペクトされているカメラマンで、彼が「友達のジェ二ファーっていう『Sherpa』を撮った監督の作品なんだけど」って言ったら、ほとんどの人が『Sherpa』を観てくれているので、「あの監督だったらどうぞ使ってください」と快く提供してくれました。
マイソン:
素晴らしい。映像をいろいろな方から提供頂いている部分はありつつ、危険な撮影を伴う作品ということで、製作上、資金集めで苦労はありませんでしたか?
ジェニファー・ピードン監督:
この作品はこれまでにない、これまでで最高の山を捉えた映像作品にしたいという高い目標がありました。でも、本当に危険なことをやっている人をありのまま撮りたいと思って全部撮りおろしていたら、恐らく何億というお金がかかるだろうし、撮影期間も10年くらいかかっていたでしょう。そういった理由もあって、一部既存の素材を集めて作るという判断をしたんですね。こういう作品の資金を集めるのは、なかなかおもしろいもので、最初オーストラリアの室内管弦楽団から「コラボレーションしないか」ということで、彼等からの資金提供もありました。ただ、それはあくまでも彼等のツアーに伴う映像作品を作るということだったので、そこから独立した映画を作りたいとなった時に、もっとお金が必要になってきたんです。けれど、前の作品『Sherpa』がいろいろな国際映画祭に出展され上映されたり、劇場公開の興行収入がすごく良かったっていう実績があったので、すごく助かりました。あと、オーストラリア政府が、こういった映像作品に支援する仕組みがあって、そういった体制にも助けられました。
マイソン:
あと今回ウィレム・デフォーさんがナレーションを担当されていますが、担当された経緯を教えてください。
ジェニファー・ピードン監督:
まず、音楽と映像のコラボレーションということで、楽器と溶け込むような特別な声を持っている人でなければいけませんでした。すべてをありのままさらけ出している映画なので、人として表現者として、いろいろなリスクを冒す覚悟ができている、「山にいそうだな」っていう声、説得力のある声でなければいけないっていうのもありました。出演映画の選び方にしても、何かおもしろみのある映画にすごくたくさん出ていらっしゃる方なので、私達のやろうとしているユニークなコラボレーションの意図を、彼は理解してくれるんじゃないかなと思ってお願いしたら、承諾してくれたんです。
マイソン:
そういう経緯だったんですね。では、最後の質問で、監督にとって、一番の冒険はどんなことですか?
ジェニファー・ピードン監督:
生きることそのもの、全部(笑)。性格的に、「ノー」と言えないんですよね。すべて経験したいという思いがあるので、良いことも悪いこともその間のこともすべて経験することで、そこから何かを学びたい。試練というものを結構楽しめるので、山を登るのもそうですし、映画監督、特に女性映画監督っていうところも、2人の子どもを抱えた親っていうところもすべて学べる冒険だと思っています。
マイソン:
素敵です!ありがとうございました。
2018年5月29日取材&TEXT by Myson
2018年7月21日より新宿武蔵野館・シネクイントほか全国順次公開
監督・製作:ジェニファー・ピードン
ナレーション:ウィレム・デフォー
配給:アンプラグド
五大陸の難関峰への登頂、エクストリーム・スポーツとしてのロック・クライミング、スキー、ウィングスーツでの滑空、マウンテンバイクでの無謀な縦走登山など、山を愛してやまない人間達の限界を超えたクレイジーな冒険を、ありのままに収めたドキュメンタリー。
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