映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
TOP > 映画界で働く女TOP > 映画界で働く女性にインタビュー&取材ラインナップ > HERE
今回は声優、俳優として活躍されている朴ロ美さんにインタビューさせて頂きました。長寿海外ドラマ『グレイズ・アナトミー』(アメリア・シェパードの声をご担当)をずっと観てきた私としては、感動もひとしお。インタビューの最後には、夢を追う若者に向けて熱いお言葉も頂きました。
<PROFILE>
朴ロ美(ぱく ろみ)
1月22日生まれ、東京都出身。桐朋学園芸術短期大学演劇科卒業。演劇集団円を経て、2017年11月にLALを設立し、舞台、アニメ、吹き替え、ナレーション、プロデュースなど幅広く活躍中。声優としては、“東京国際アニメフェア2004”にて声優賞を受賞し、“第1回声優アワード”では、『NANA』の大崎ナナ役で主演女優賞を受賞した。その他のアニメの代表作に、『鋼の錬金術師』エドワード・エルリック役、『∀ガンダム』ロラン・セアック役、『進撃の巨人』ハンジ・ゾエ役、『BLEACH』日番谷冬獅郎役などがあり、洋画では、ヘレナ・ボナム=カーター、エヴァ・グリーン、レディ・ガガなど、多くのハリウッド女優の作品を吹き替えている。また、自身が主宰するボイススクール“studio Cambria”では、後進する人材を育成。女優としては、第25回東京国際映画祭出展作品『あかぼし』では実写初主演を飾った。
マイソン:
今回、SF作品で非現実的な世界のキャラクターを演じてらっしゃいますが、日常を演じられるのと、非現実を演じられるのとでは、どちらが難しいんでしょうか?それぞれ難しいとは思うのですが。
朴ロ美さん:
日常のほうが難しいっちゃ難しいですし、非現実も理解するのに時間がかかりますし、どっちもどっちで違う難しさがありますね。この『ドクター・フー』はSFですけど、(タイトルだけだと)私は最初SFだと思っていなかったんですよ。てっきり刑事ものとか、医療ものかと勘違いを(笑)。まさかSFだと思っていなかったので、すごくビックリしちゃいました。でもSFの世界観だからこそ、今の現代に伝えたいメッセージがより明確に打ち出せている作品なんだなって、すごく感じたので、楽しみながらやらせて頂いています。
マイソン:
声優さんがキャラクターの声を吹き替えることで、ユーザーと作者の橋渡しみたいな役割を果たしていたり、お国柄というか作られた国の文化の違いなどを伝える役割も担ってらっしゃるのかなと思うんですけど、解釈に困る事柄にぶつかった時はどう対処されていますか?
朴ロ美さん:
今のところまだそんなにズレていないかなと思うんですけど、この作品は、“国としての過ち”みたいなのにもすごく目を向けていて、それにメスを入れた話があったり、単純にイギリスって国はすごいなって。ちゃんと自分達の戒めというものをきっちり打ち出しているのがすごいと思うし、イギリスではどの年代の方がメインの視聴者なのかわからないですけど、子どもでもこういうのを観て育ったら、押しつけがましく言われるより、なるほどってすごく感じちゃうところがあるんじゃないかなと思います。
マイソン:
海ドラは大人が観るものっていうイメージですが、本作は子どもでも観られそうですね。
朴ロ美さん:
全然観られると思うし、逆にこういうものから入って、歴史に興味を持てたりするんじゃないかなって思います。大人は大人で「あの頃ね」みたいな感じで楽しめると思うし、すごくおもしろいと思います。
マイソン:
そうですね。これまでいろいろな作品で声優を担当されていますが、この作品はこの声っていう風にできるのが本当にすごいと思います。自然に今日はこの役だ、この声だっていう風に出てくるものなんですか?
朴ロ美さん:
役作りとして、絶対にこの音を使おうというのがあるわけじゃないんですけど、私の場合、すごく落ち着いたトーンの人の時にはこのくらい抑えて喋るトーンのほうが聞きやすいしとか、でもこういうドクターみたいな声の時は、行っちゃうところまで行っちゃうみたいな、“顔面解放!”みたいな感じでやったり(笑)、あんまり細かく気にしてないですね。
ー声優のお仕事と、自分の体を使う俳優のお仕事の違いー
朴ロ美さん:
声だけの表現ってやっぱり難しいんですよね。体を使う時より、一層イメージしないといけないし、隣りの人に言う、下に、上に言う、真っ直ぐ言うって、その距離感で芝居が全部変わるんです。だからそれを瞬時に使える感覚を持っていないと、このお仕事って本当に難しいんです。でも、なりで喋っちゃったらやれてるようにも見えちゃうから、すごく怖いお仕事なんですよね。だけど舞台での演技では、相手の目を見て、相手の体に触れたりすると、マインドが当たり前のごとく動いて、変化するじゃないですか。自分自身が相手をものすごく感じたり、それありきでセリフが出てくる。私はすごく不器用な人間なので、やっぱりそういうこともやりつつ、そこで培った感覚とかを声のお仕事に生かしつつ、だから両方ないと自分はちょっとダメというか。声優だけをやっていて、その感覚を使える人は本当にすごいと思うんですよね。どんな想像力を持っているのかなって思います。
マイソン:
私自身普段「あれ?声がカッコ良い人だ!」って、ふいにイケボイスに反応してしまう時があるんですけど、朴さんのように声が綺麗だと得することってありますか?
朴ロ美さん:
こんなに濁声な私に何を言っているんですか(笑)。ちょっと驚きです。
マイソン:
いつも朴さんの声を聞くと、カッコ良いなって思います。
朴ロ美さん:
低音がね(笑)。でもタクシーで運転手さんに思い切りタメ口をきかれることがあるんですよ。絶対に私より年下なんです。なので、そういう時は思いっきり低音で答えると、対外黙ってくれます(笑)。そういう時に低音はめちゃくちゃ使います。
マイソン:
それ良いですね(笑)!では最後の質問で、今声優さんになりたい若者が多いと思うんですけど、声優さんって元々持って生まれた声が結構重要だと思うんです。でも、もし特徴のある声とかではなく、結構普通な声だった場合、どんなことを頑張れば良いかアドバイスがあったらお願いします。
朴ロ美さん:
自分がなりたいものと、自分が持っているものって往々にして違うじゃないですか。それなのに無理して自分がなりたいものに突き進む必要はないと思ったりするんですよね。すごく語弊がある言い方かも知れないですけど、自分に合ったものを見つけていくことってすごく大事なんじゃないかなって。だって私みたいなのがいくら萌えキャラやりたいですって言ったところで、できないし無理だし(笑)。でも若い子は、例えば萌えキャラをなぜやりたいのかっていうことを突き詰めて考えていくと、「可愛がられたい」って理由の子も少なくないと思うんです。じゃあ、その欲求は違うやり方でも満たせるはずだし、違う方法で「可愛くある」こともできる。決して一つの道じゃなきゃいけないってことはないと思うんですよね。じゃなかったら、自分で新たな萌えを作るとかすれば、自分のオリジナリティが出てくるじゃないですか。寂しいとか可愛がられたいとか素直に自分の欲求に従ってみて、それを満たしてくれるものが一体何なのかを見つけていくほうが絶対に良いと思う。それに普通の声なら、いわゆる何でも役ができるってことじゃないですか。聞き馴染みの良い声ってことじゃないですか。それはそれですごい武器なんだから、だったらいろんなことがやれるようになるとか、誰よりも聞き馴染みの良い、何かそよ風のような喋りをしてみせるとか、いろいろやり方はあると思います。そうやって楽しんでいけたら良いんじゃないかなって。ああしなきゃいけない、こうしなきゃいけないって全部否定から入っちゃうから行き詰まるけど、そうじゃなくてこういう風にやったら楽しいとかっていうやり方を見つけていけたら良いですよね。
マイソン:
声優を目指しているかどうかに関わらず、とても心に刺さりました。本日はありがとうございました!
Huluにて独占配信中
出演:ジョディ・ウィテカー/トシン・コール/マンディップ・ギル/ブラッドリー・ウォルシュ
声の出演:朴ロ美/佐々木拓真/濱口綾乃/宮崎敦吉
Hulu
1963年にBBCで放送が始まり、現在まで愛され続けているイギリスの国民的長寿SFドラマのシリーズ11。残虐な異星人ダーレクとの全面戦争をただ一人生き延びたドクターは、惑星ギャリフレイからやってきた人間の姿をしたエイリアンで、2つの心臓を持ち、死に瀕すると別の体へと再生できる能力を持つ。次に地球にやってきたドクターは、人類の危機を救えるのか。