自分のことは自分がよく知っているようで、実は自分自身が一番よくわかっていないことって、あるような気がします。今回は、ひょんなことから、もう1人の自分に向き合うことになる人々の物語をご紹介します。
ツイートガール・オン・ザ・トレイン
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<酒のせいではない、本当の不幸の原因> |
自身の結婚はうまくいかず、離婚してしまったレイチェル。彼女の記憶のなかでは、美しい記憶だけが残っているようで、元夫との生活への未練からか、毎日通勤時に車窓から見える“理想の夫婦”への執着は異常に強くあります。ところが、ある日レイチェルは“理想の夫婦”の妻が不倫する現場を車窓から見てしまい、彼女が心の拠り所にしていた“理想の夫婦”もまやかしだったなんて許せず、真相を知ろうと彼らに近づきます。ここから先、レイチェルに襲いかかる出来事は映画をご覧頂ければと思いますが、諸悪の根源は、レイチェルが現実を見ていなかったこと。理想の夫婦像や、家庭像に縛られ、それがプレッシャーになってしまった彼女は、自分自身のコントロールを徐々に失っていきます。そして、自分を見失った彼女は、結末で自身がなくした記憶に隠された真相に気付くのですが、もっと早く現実や、本当の自分の幸せとは何かをよく考えていれば、こんなことにはならなかったかも知れません。でも、レイチェルは事件に巻き込まれたことで、皮肉にも自分を取り戻し、前に進んでいきます。 |
母の残像
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<似たくないところが似るのも親子> |
次男は母の死後引きこもりがちで、父に反抗的。父は次男を心配する気持ちでいっぱいながら、どう心を通わせればよいかわからず、手をこまねいています。結婚して子どもが生まれたばかりの長男は、著名な戦争写真家だった母の遺品を整理していて、息子としては知りたくなかった事実を知ることに。長男は、母の死後ギクシャクしながらも2人で暮らす父と弟を心配し、彼らの緩衝材になっていますが、母の知られざる一面を垣間見て、自身も不安定な状態に陥っていきます。 この家族は、父と次男、母と長男が、それぞれ似ていて、4人いたうちはうまくバランスを取っていました。父と次男のほうが人間的に不器用で人とのコミュニケーションも得意ではありませんが、人とうまくやっていけそうな母と長男のほうが、実は心のうちに悩みを抱えこむタイプです。母の死から3年後、彼らは改めて母の死に向き合うことで、一度崩壊して再生していきます。似たくないところが似てしまうのが親子ですが、それを自覚して受け入れられたら、自分が望む自分に成長できるのかも知れません。 |
こうありたい、こうあって欲しいという世界は、自分で築きあげるもの。現実に目をつむり、自分の想像のなかに逃げ込んでも、それは“創り上げる”ことはできるかも知れませんが、本当の世界を、こうあって欲しいという世界に変えるには、ちょっとした勇気が必要なのではないかと思います。その勇気を振り絞るには、まず自分の弱さと向き合うこと。弱さを自覚していなければ、知らず知らず深みにはまっていくだけです。
2016.11.14 TEXT by Myson