『ダラス・バイヤーズクラブ』や『カフェ・ド・フロール』のジャン=マルク・ヴァレ監督作ということだけで映画ファンは観たくなりますよね。物語の舞台は1960年代のカナダ、ケベック。保守的な家庭に生まれたザックは、男ばかりの5人兄弟の4男として育てられますが、彼には家族にはいえないことがありました。本作は、主人公ザックの20年間の人生を通して、息子を男らしく育てたいと願う父親と、息子をありのままに受けとめようとする母親、個性豊かな兄弟に囲まれ、ザックがどんな選択をしていくのかが描かれていきます。
本作はザックや家族の日常を淡々を描いているように見えて、ザックの心が大きく揺れ動いているのがよくわかります。また、子どもの頃は両親との関係が彼の成長に大きく関わっている点が印象的に描かれていると共に、物語が展開するにつれて、兄弟の存在が彼の人生に大きく響いていて、ザックの物語としてはもちろん、家族の物語として味わい深いものになっています。
映画のキービジュアルがポップな点は、映画を彩る音楽や時代背景を象徴しているからだと思いますが、物語にはどこかファンタジックな要素もありつつ、悲しみや切なさ、優しさも漂うので、観る前の印象を良い意味で裏切ってくれるはずです。監督は異なりますが、『6才のボクが、大人になるまで。』のような映画が好きな方には特にオススメの作品です。
人間ドラマとして見応えがあり、観終わった後に自分が幼かった頃の話、思春期の話、家族の話をしたくなるので、もっとお互いのことを知りたいと思っているカップルはデートで観るのも良いでしょう。ただし、本命ではない相手(しかも相手は自分が本命だと思っている場合)と観ると、若干不穏な空気が漂うかもしれないので、本音を話せる相手と観ることをオススメします。
ティーンの皆さんが等身大で観られるストーリーです。大きくなってくると、家族に言えないことも出てきます。そして、言えたとしても関係を悪化させることがあるかもしれません。ザックと同じように誰にもいえずに抱えている悩みがある方は、シミュレーションになる部分があると思います。親や家族の理解を得るには忍耐が必要であることも伝わってきますが、希望ももらえる作品です。
『C.R.A.Z.Y.』
2022年7月29日より全国公開
PG-12
ファインフィルムズ
公式サイト
© 2005 PRODUCTIONS ZAC INC.
TEXT by Myson