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海よりもまだ深く

2016年5月21日より全国公開
ギャガ
公式サイト　

うだつの上がらない人生に悶々としながらも、それを大きく変える行動に出るわけでもなく、自分をごまかしながら生きている主人公の良多。阿部寛の演技がすごくリアルで、彼を観ていると本当にイライラしました。そしてカッコ良いはずの阿部寛が演じていても、良多がダサダサに見えるという点で、いかに役になりきっているかが実感できました。
家族に苦労ばかりかけていた自分の父親みたいにはなりたくないと思っていた良多が、結局父親に似てしまっているという現実を受け入れられず、子どもの前だけで格好を付ける姿が淡々と描き出されていくのですが、皮肉にも息子も彼に似てきているのが皮肉なところ。でも、皮肉だけで終わらないのが是枝監督作品の好きなところで、やはり本作でも、家族の在り方に少し希望を見せてくれます。息子の姿を観て成長する父親は『そして父になる』でも描かれていましたが、本作はまた違ったアプローチで父と息子を描いています。父と良多、良多と息子の関係を並べて描くことで、本当の意味で父になる一歩を踏み出した良多の変化をこんな風に描くとはさすがですね。
樹木希林、小林聡美、リリー・フランキー、真木よう子、池松壮亮と、他キャストも名演でしたが、今作は特にセリフの妙も印象に残りました。名言がたくさん詰まっていますので、その辺りにもご注目ください。

文句ばかり言って行動を起こさない彼や夫に嫌気が差している人は、大切なものを失ってから気付いてもがく主人公の姿をぜひ見せてあげてください。デートを盛り上げるようなロマンチックな作品ではありませんが、今後真剣な交際を続けていきたいと思っているカップルなら、一緒に観てお互いの家族や、自身の家族観について語り合うきっかけにすると良いと思います。

一見起伏が少ないストーリー展開で、日常を切り取ったたんたんとした物語なので、子ども向けとは言えませんが、子ども目線で親たちを観る視点も描かれているので、子どもなりの観方もできる作品だと思います。子どものために体裁を繕う大人達の姿を観て、大人なりの悩みがどんなものか想像してみてください。大人は大人で大変です（笑）。少しその苦労を理解してあげられると、今よりもっと家族に優しくなれるかも知れません。

2016.5.09　TEXT byMyson