TOP > 映画批評TOP > 映画批評カ行 > HERE

喜望峰の風に乗せて

2019年1月11日より全国公開
キノフィルムズ、木下グループ
公式サイト

こういった実話を基にした作品はサクセスストーリーが多いので、本作はとても意外な内容で衝撃的でした。命が危険にさらされた時、その人が何を一番に優先するのかは本当に人それぞれなんだなと思いました。夫として、父として、経営者として一生に1度と言える挑戦に踏み出した主人公。そこから周囲の協力を得ていく展開では、何度も反対にあい、その度に葛藤するのですが、それが観ていてとても危ういんですよね。そんな大博打を打って良いのかとも思えるし、それくらい大胆でないといけないとも思えるし、何が正しいのかがわからなくなってきて、もう引き戻せない状況に困惑しながら、やったことのないことに挑戦する、主人公の気持ちをそのままに体感できます。特に経営者目線で観ると本当にリアルで、ヒントをくれる部分もありますが、まさに同じような状況の渦中にいて本作を観ると、迷いが深まるかも知れません（苦笑）。でもとにかく、大切なものを守るやり方っていろいろあって、それが正しいのかどうかは、当事者でないとわからないなと実感しました。結末は賛否両論出てくると思いますが、「あなたならどうしますか？」という問いを投げかけてくるストーリーで、良い意味でいろいろな覚悟をもたらしてくれる作品です。

だいぶ複雑な心境になるストーリーなので、ワクワクを楽しみたい時期のデートには不向きでしょう。ただ夫婦愛、家族愛が描かれている点で、夫婦で観るといろいろ考えさせられる内容です。また、こういう人だとわかっていて一緒になったという気持ちを改めて想起させてくれる展開があるので、ベテランカップルも共感できそうです。

難しいわけではありませんが、大人向けの内容なので、中学生以上向けかなと思います。主人公が持つ悩みとは種類が違ったとしても、人生に行き詰まったことのある人ならとても共感できると思います。前に進む勇気と恐怖のせめぎ合いに主人公は勝てるのかどうか、そして自己犠牲とはどういうものなのか、考えるきっかけになると思います。