TOP > 映画批評TOP > 映画批評カ行 > HERE

靴職人と魔法のミシン

2015年6月5日より全国公開
ロングライド
公式サイト　　　

アダム・サンドラーのおバカ系コメディよりも、こういう良いお話タイプの作品のほうが好きです。思った以上にファンタジックで、ベースは人間ドラマ、ほど良くコメディ要素もあり、ほっこりするお話です。よ～く観ていると謎も散りばめられているので、怪しいなと思う要素があったら注目して真相を予測しながら観てもらうと、サスペンスとしても楽しめます。出演者も豪華で、ダスティン・ホフマン、スティーヴ・ブシェミ、エレン・バーキン、メロニー・ディアスらが出ていますが、特におもしろかったのはダン・スティーヴンスのキャラクターです。ネタバレするので詳しくは言いませんが、ダン・スティーヴンスのこういう使い方、アリですね（笑）！
本作は魔法のミシンで縫った靴を履くと、その持ち主に変身できるという設定。お金もなく、恋人もおらず、代々受け継がれる靴修理店を細々と営み、変化のない毎日を過ごしていた主人公が、ある日古いミシンを引っ張り出しその魔法に気付いたことで、あらゆる人物の靴を履きいろいろな人生を疑似体験し、その影響で自分の人生も少しずつ変えていくストーリーです。人になるべく関わらずに生きていた主人公が、徐々に自分を変えることで人との関わりも持ち始める姿は、人の人生に関わりを持つことの難しさと同時に、その意義深さも語っています。

失踪したお父さん、そのせいか人生を諦めている息子（主人公）というキャラクター設定ですが、彼氏や旦那が父親と不仲でも、リアルに自分の境遇とリンクするほど重すぎる展開にはならないので、あまり気にしなくても大丈夫でしょう。わかりやすいストーリーで、ファンタジーと人間ドラマ、コメディ、そしてちょっぴりラブストーリーが融合していて、どんなカップルでもデートで観やすい作品です。

魔法のミシンで縫った靴を履くと、いろいろな人物に変身できるという様子は、キッズが観ても楽しいと思います。鑑賞後に、「誰の靴を履いてみたい？」なんて、家族や友達同士で語るのも楽しいでしょう。ティーンは少し大人目線で観るとして、うだつの上がらない毎日からなかなか抜け出せない主人公の様子を客観視してみましょう。大人はいろいろなことを経験してきたからこそ、いろいろなことに臆病になります。そして不幸にもそれを避けて生きていく器用さも得てしまうので、新しい人生に一歩を踏み出すのがとても大変になっていきます。若い皆さんはそんな不要な努力を将来しなくて済むには、今何をすべきか考えるきっかけにしてもらえると嬉しいです。

2015.6.2　TEXT by Myson