2017年7月8日より全国順次公開
アルバトロス・フィルム
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ナチスから「望ましくない作家」と疎まれながらも、ドイツで高い人気を博したハンス・ファラダの遺作小説「ベルリンに一人死す」(みすず書房刊)を、自身もドイツにルーツをもつヴァンサン・ペレーズ監督がオリジナル脚本で実写映画化した作品。ヒトラー政権下の1940年のベルリンを舞台に、死の間際まで体制に屈せず “自らの真実を生き抜いた”労働者階級の夫婦の姿を通して、人間として守るべき根源的な信念や、気高き “魂”を持ち続けることの尊さと難しさを訴えかけます。主人公のクヴァンゲル夫婦のモデルとなったのは、息子の戦死をきっかけに、“反ヒトラーのメッセージを記したポストカードを公共の建物に置く”というささやかな抵抗運動を繰り返した、実在のハンペル夫妻。全体的にセリフの少ない作品ですが、夫妻を演じたブレンダン・グリーソンとエマ・トンプソンの重厚な演技と巧みな心理描写に引き込まれ、説明的な言葉の少なさを感じさせません。また、ゲシュタポの一員として、自らの正義と仕事の責務のあいだで揺れ動くエッシャリヒ警部(ダニエル・ブリュール)の苦悩は、多くの観客の共感を呼ぶことでしょう。反ヒトラー、反ナチスという堅いテーマを扱った作品でありながら、夫婦の絆を描く愛の物語でもあり、自由と民主主義の抑圧のなか、恐怖に怯え、互いに疑心暗鬼になって暮らす市民の姿をサスペンスフルに描く作品として、劇映画の見どころもたっぷり詰まった作品です。なかでも、クヴァンゲル夫婦の住むアパートの住人達の人間模様をグランドホテル形式で描き出すアプローチは秀逸。ナチスに批判的な元判事、迫害を受けるユダヤ人の老婆、密告で生活費を稼ぐ男らの攻防戦は、当時の世界の縮図を見事に現しています。わかりやすく、観やすい作品ですので、どなたでも気負わずにご覧ください。 |
重いテーマを扱った作品ですので、デート向きとは言いがたいですが、信念によって結ばれた夫婦の固い絆が描かれおり、お子さんのいるご夫婦や長年連れ添ったカップルには、きっと刺さるものがあると思います。これから結婚を考えているカップルなら、夫婦で同じ信念や目的を持つことの強さも参考になると思います。 |
小さいキッズには難しいテーマを扱った作品ですが、小学校の高学年にもなれば充分に理解できる内容だと思います。どんなときでも自分の信念を貫くことができるか、世界を変えるためにどんな行動ができるか、「自分だったらどうするだろう?」という目線でぜひ観てください。実際のハンペル夫妻が書いたポストカードは、多くの人の目に触れることはなかったそうですが、2人の物語に感動した人々が後に小説を書いたり、映画を作ったりしているわけですから、決してムダだったとは思いません。どんな小さな声も、発していけばきっと何かを変えられるはずです! |
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2017.7.5 TEXT by min