2015年2月14日より全国公開/PG-12
ロングライド
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1996年1月26日、世界的な化学メーカー、デュポン社の創業者一族の御曹司がレスリングのオリンピック金メダリストを射殺した実在の事件を映画化した本作。特殊メイクを施したスティーヴ・カレルが、大富豪ジョン・デュポンを演じていますが、コメディアンの印象が強いスティーヴ・カレルとは言え、今回は全く笑いナシ。兄妹揃って金メダリストでありながら、資金に苦しむレスリング選手マークの救世主として現れた冒頭から、狂気に満ちた結末へと、ゾクゾクさせる演技と迫力で観る者を凍りつかせます。彼が演じたジョンと言う人間像は、一見、親切な御曹司でありながら掴みどころがなく、誰にも逆らわせないエゴイストの顔を覗かせたと思えば、道端に捨てられた子犬のような弱さも兼ね備えています。この極端な弱さと強さがあるからこそジョンは脅威であり、彼の救いになるはずだったマークとデイヴ兄弟との出会いが、3人を皮肉な運命に導いてしまいます。チャニング・テイタムが演じたレスリング選手のマークは、大富豪ジョンの孤独と気紛れから知らぬ間におもちゃとされてしまいます。それは、母に認められたくて認めてもらえないジョンのジレンマが、マークの兄デイヴに対するジレンマと重なり、一度2人の心は通じ合ったという錯覚が芽生えるからです。でも、この2人の感情は実際には似て非なるモノ。だからこそ、あんな結末になってしまったのだと私は思いました。物語の終盤にある、ジョン・デュポン氏の虚栄と、周囲の人間が実際に観ているジョン・デュポン氏の人間像のギャップを皮肉を込めて描いたシーンも印象的でしたが、ジョン・デュポン氏の人生がことごとく空虚だったことを象徴しています。愛を求めつつも受け取り方を知らない人間の不幸な姿にやるせなさでいっぱいになりつつも、同時に愛が人間に及ぼす影響は良くも悪くも大きいものだということを改めて感じさせられる作品です。兄デイヴ・シュルツ役を演じたマーク・ラファロ、今回はイケメンキャラではなく、歩き方からしゃべり方までレスリング選手らしい仕草を徹底し、心を病んでいくマーク・シュルツを演じたチャニング・テイタムの演技も必見ですよ。チャニング・テイタムは賞レースではあまり名前が出ていませんが、彼の演技もすごく良かったし、本作で演技の幅を広げたと思います。名優たちの競演ぶりと、名監督ベネット・ミラーの演出が織りなす秀作をぜひご覧ください。 |
終始シリアスなストーリーなので、デート向きとは言えませんが、ロマンチックなムードが盛り上がることを特に期待しないのであれば、とても見応えがあるので、映画鑑賞そのものを一緒に楽しみたいというカップルには良いでしょう。人間の心の闇を描いた作品ですが、それぞれのキャラクターについての見解を語り合うなど、哲学的な視点での話題は豊富です。そういう深い会話を好まない相手の場合は、やや物足りなさを感じるかも知れないので、相手は選んだ方が良いと思います。 |
キッズにはまだ理解が難しいと思うので、もう少し大きくなってから観ましょう。ティーンは、お金で何でも手に入れられそうな大富豪、スポーツで栄光を勝ち取りながらもどこか報われない人生を送っているレスリングのオリンピック金メダル選手という対照的な例を観て、人の幸せや不幸は見た目の成功や持ち物などでは測れないこと、やはり人間関係や愛情は重要であることなど、いろいろな視点で人間ウォッチングをしてみてください。実際の殺人事件を映画化したものですが、なぜジョン・デュポン氏は罪を犯したのか、人間の闇はどこから来るのか考えてみて欲しいと思います。 |
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2015.2.3 TEXT by Myson