ももいろクローバーZ主演、本広克行監督という要素だけだったら、私は正直それほど興味を持たなかったかも知れません。でも、日本の演劇界を引っ張る劇作家、演出家である平田オリザの小説を原作にした映画だということで、すごく興味が湧きました。なぜなら、平田オリザが書いたストーリーを映画化するならば、ただのアイドル映画で終わるはずがないと思ったからです。そして期待通り、この映画はアイドル映画ではなく、アイドルがちゃんと女優として演じている青春映画になっていました。映画公式サイトにある平田オリザ自身のコメントにも、ももクロが主演と聞いて期待と不安が半々だったとありますが、平田オリザの戯曲や、彼が演出した舞台を観たことがある人なら、彼が書いた物語を演技の経験が浅いアイドルが演じるのは難しいのではないかと思うはず。私も実際にそうでした。でも、観てみると、物語のなかで本気で演劇に打ち込む女子高生たちのキャラクターは、今回本気の演技に挑んだももクロたちの境遇とも重なる部分が感じられ、週末ヒロインとしてキャリアをスタートさせた彼女たちの良い意味でのフツーっぽさや、誰にも負けない元気良さというももクロの本来の持ち味がイメージにピッタリきていて、すごくリアリティに溢れた作品に仕上がっていました。個人的にもいろいろな部分で自分のルーツや、体験したことのある感情とリンクする部分があり、いろいろ込み上げて何度もウルウルきちゃいました。
そして、さすが平田オリザが書いただけあって、セリフが良いんですよね。さらに宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』で描かれる世界観、宇宙的概念を巧みに絡めて、奥深い哲学が語られている場面も印象的でした。特に心を打たれたのは、演劇を始めた頃と、黒木華が演じる新任の先生がきて稽古に励み大会での勝利を目指すようになった今を比べて、ずいぶん遠くに来たけれど、本当はどこでもないどこかにしか行けなくて、結局どこにも行き着かない、でも、自分たちは今ここにいることを許されているんだと語る場面です。希望と不安が混在していて、でも実はそれは宇宙的に見たら取るに足らないことで、行き着く先は結局どこでもないところなんだという不条理が語られていると私は解釈しましたが、とにかく「今ここにいる、それだけで幸せではないか。そこでできることを今やるしかないんだ」と投げかけられているような気がして、すごく勇気づけられました。これは女子高生たちのストーリーですが、何歳であろうと、どんな夢を追いかけていようと関係なく、心に響く物語です。大好きなことを見つけてそれに通じる道を歩んでいる人にも、大好きなことを見つけたのに道を逸れてしまった人にも、両方に観て欲しい作品です。あと、黒木華の実力もすごくよくわかります。演劇好きの方にもオススメです。
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ラブストーリーではないので、逆にどんなカップルでも観やすい内容です。そして、とても前向きでピュアな気持ちになれる物語なので、ロマンチックなムードでなくとも、心地よい爽やかなムードになれます。どちらかが何かうまくいかないことがあって悩んでいるときに観に行くのにも良いでしょう。安易なサクセスストーリーというのでもなく、未来に不安と希望を抱えた少女たちの等身大の姿が描かれているので、気負うことなく、シンプルに元気と勇気をもらえます。アイドル映画だという先入観は捨てて、ももクロのファンかどうかは関係なく、良作な邦画として選択肢の一つに入れてください。 |
まだこういう体験は先になるかも知れませんが、キッズでも高学年ならちゃんと感情移入して観られると思います。入口はももクロのファンだからというのでもかまいません。キッズはとにかく感じるままに観てみるというので良いと思います。ティーンの皆さんには特に観て欲しい一作です。皆さんはまだまだ若いから可能性がいっぱいあると言われると思いますが、逆に先が見えない部分も多くて不安もありますよね。本作はその複雑な感情をとてもリアルに描いていて、同じような思いを抱える主人公たちがどういう選択をするのか、とても参考になると思います。自分の将来は自分で決める、でもそれは自分の未来に責任を持つということでもあります。これから大人になっていく皆さんに良い刺激になると思いますよ。
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