本作は実在した画家、熊谷守一(通称モリ)のエピソードをもとにオリジナル・ストーリーで描かれています。なので、史実をそのまま描いているというのではなく、ちょっとファンタジックな部分もあり、よりモリの世界観を楽しめる作風になっています。熊谷守一という画家をよく知りませんでしたが、本作を観て興味が沸きました。本作では彼は既に94歳で、30年間ものあいだ自宅の敷地からほとんど出ることはなく、家の庭で“探検”していたというから驚き。自分の庭でも大きすぎるというセリフがありましたが、昆虫を観察したり、身近にあるいろいろな世界に目を向けていた彼だからこその感覚は、私達自身も目の前にありながら見えていないものがたくさんあるのかも知れないと思わせてくれます。また、子どもの絵を見せられたモリが、その絵を下手だと言った後、「上手は先が見えてしまう。下手も絵のうちです」と言ったセリフも印象的でした。彼自身の謙虚さも感じられつつ、ありのままのものをありのままに捉える美学は、徹底しているんですね。質素な日常のなかにも、彼のそういった生き様が感じられて、静かに心に染み渡ります。そんなモリ夫婦ですが、家にこもっているわけではなく、人の出入りが意外に激しいのも意外でした。アドリブなのかなと思える樹木希林のセリフでクスッと笑えるシーンもあり、あらゆるキャラクターと絡むエピソードには、ドタバタ喜劇的な活気もあります。山蕪wと樹木希林が演じる夫婦がとても絵になっていて、癒しも与えてくれますよ。モリという画家を知らなくても楽しめるので、フラットな気持ちで観てください。 |
主人公の世代を考えると、高い世代の夫婦やカップル向けに思えますが、仲睦まじい老夫婦の生活は、観ていて癒やしを与えてくれるし、こういう夫婦って素敵だなと思うはずなので、結婚を視野に入れている若いカップルが観るのもアリでしょう。お茶の間で家族ドラマを観ているようなアットホームな作品なので、緊張してしまいそうなデートの時に選ぶのも良いかも知れません。観終わった後は、モリの作品を展示している美術館など探してみるのも良さそうですね。 |
淡々と日常を描いている作品なので、キッズやティーンには少々取っつきにくいと思います。でも、昆虫をひたすら観察するモリは、少年のようでもあるので、大人の視点と違う部分で楽しさが見つけられる可能性もあります。中学生以上で美術に興味がある人は、本作を観つつ、モリがどんな絵を描いていたのか調べてみると、良い刺激をもらえるかも知れません。 |