劇作家の前川知大が率いる劇団「イキウメ」の人気舞台を、長澤まさみ、松田龍平、長谷川博己ら豪快キャストで映画化したオリジナル劇場版『散歩する侵略者』。そのスピンオフ作品として、WOWOWで放送された全5話のドラマ『予兆 散歩する侵略者』を、1本の劇場用映画として再編集したのが本作です。オリジナル劇場版のアナザーストーリーとして舞台もキャストも一新されていますが、両作とも黒沢清監督がメガホンを執り、同じスタッフが制作を手掛けています。興味深いのは、映画全体のトーンが両作ではまるで違うところ。本作は不穏な空気が漂うSFホラーに仕上がっていて、オリジナル劇場版よりもずっとダークな印象を受けます。それもそのはず、黒沢監督とともに脚本を担当したのは、“リング”シリーズなどを手掛けたJホラーブームの立役者、高橋洋。2人がタッグを組むのは1998年公開の『蛇の道』以来だそうですが、心理的にジリジリくるような恐怖はまさに両者の真骨頂と言えるでしょう。
物語は、侵略者に翻弄される夫を必死で守ろうとする主人公の悦子(夏帆)と、侵略者の手先となり苦悩する夫の辰雄(染谷将太)、そして侵略者(東出昌大)の3人を中心に描かれます。物語の緊張感を加速させていく3人の演技は必見ですが、特に東出が醸し出す得体の知れない不気味さは格別!妻への嫉妬心から常軌を逸していく夫を演じたTBSドラマ『あなたのことはそれほど』と撮影時期も被っていたそうで、どことなくキャラクタ—的にも通じています。本作だけを観ても充分に楽しめますが、オリジナル劇場版と見比べて違いを楽しむのもオススメです。
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ダークな映画ではありますが、オリジナル劇場版と共通しているのが、献身的な妻の深い愛情と夫婦愛を描く作品だということ。ホラー調のサスペンスとしても絶品ですので、ぜひ、デートでご覧になってください。ただ、辰雄をはじめ、出てくる男性キャラクタ—が全員かなりの“ヘタレ”だということが、女子的にはちょっぴり気になります(笑)。まあ、人間臭いといえばそうですし、母性本能をくすぐる系と思えないこともないし、かわいいっちゃかわいいんですけどね…(ブツブツ)。そんな人間の本性が描かれるところも含めて本作の魅力ではありますが、やはり男たるもの、もう少し男気を見せてむしろ守ってもらいたい!と思うのは筆者だけではないはず(笑)。ということで、そこのところを黒沢清監督にインタビューしてみましたので、関連記事リンクよりぜひお読みください。 |
キッズには“概念”を奪うという設定自体が少々難解かと思いますし、侵略者がどんな宇宙人なのかという部分の明確な説明もストーリーで描かれていないので、観るなら小学校高学年になってからが良いと思います。ただ、“家族”や“死の恐怖”という誰もが当たり前に感じている存在を、“概念”として改めて示されることで、普段は忘れている何かに気付くかも知れません。また日常が奪われるというストーリーを通して、平凡な毎日を送れていることの幸せを改めて感じることができると思います。 |