ニューヨークMoMA“NewJapanese Photography”展(1974)で絶賛を浴びた伝説の写真家、深瀬昌久の78年に渡る波瀾万丈の人生を、実話とフィクションを織り交ぜて描いた映画『レイブンズ』。今回は本作で、深瀬昌久の最愛の妻であり被写体でもあった洋子役を演じた瀧内公美さんにインタビューさせていただきました。
<PROFILE>
瀧内公美(たきうち くみ):洋子 役
1989年10月21日生まれ。富山県出身。内田英治監督『グレイトフルデッド』(2014)で映画初主演を飾る。2019年、主演作『火口のふたり』で、第41回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、第93回キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞を受賞。2021年、主演作『由宇子の天秤』で、第31回日本映画批評家大賞主演女優賞、第31回日本映画プロフェッショナル大賞主演女優賞など、国内外で多くの賞を受賞。近年の主な出演作に、NHK大河ドラマ『光る君へ』(2024)、Netflixシリーズ『阿修羅のごとく』(2025)、TBSドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』(2025)、映画『敵』、主演映画『奇麗な、悪』などがある。
出会うべくして出会った二人だと感じます

シャミ:
伝説の写真家、深瀬昌久とその妻で被写体の洋子の物語が描かれていました。最初に本作の台本を読んだ時に物語や洋子というキャラクターにどんな印象を持ちましたか?
瀧内公美さん:
私は深瀬昌久さんを知らなかったので、この時代に、寡黙だけれど破天荒な写真家がいらっしゃったんだな、と初めて知りました。本作ではそんな彼の人生が、父親との確執などもあるなか、洋子さんと過ごしていく時間に焦点を当てて描かれていました。最初に読んだ脚本には、彼の内面を象徴するカラスが登場していなかったので、深瀬と洋子の物語として描かれていました。一見風変わりな夫婦なのですが、二人にとっては純心そのもので、ピュアなラブストーリーだと感じました。それを浅野忠信さんとやらせていただけるなんてすごく光栄だと思いました。
洋子は、保守的な面もあれば、先進的な顔も持っている、非常に魅力的な女性です。すごく愛情が深くて、こういうキャラクターをやらせてもらえることがすごく嬉しかったです。ただ、今の自分にそれを演じられるのかという不安もありました。やはり長い年月の洋子を演じる必要があり、これまでに一人の女性の長い年月を演じた経験がなかったので、果たして私にこの役ができるのか、この時代性を打ち出せるのかと。本当に挑戦がいっぱいあるなか、合作の魅力と、私がお芝居を始めてずっと憧れ続けてきた浅野さんとご一緒できるということから、どうしてもやりたいという想いが強くなり二つ返事でした。

シャミ:
本当に洋子の描写が見事でした。カラスの登場部分は後から足されたんですね。カラスのシーンはファンタジックなパートでしたが、台本の内容も大きな変更があったのでしょうか?
瀧内公美さん:
そんなに大きく変わったわけではありません。ただ、今おっしゃってくださったようにカラスのシーンはファンタジックで、そのパートが加わったことで深瀬昌久の人生に、より奥行きが出たように思います。
シャミ:
確かに深瀬の内面が垣間見える重要なシーンでしたね。深瀬と洋子の関係は、最初は上手くいきつつも、だんだんと形が変化していきました。瀧内さんご自身はこの二人の関係をどのように捉えて演じていましたか?

瀧内公美さん:
二人には切っても切れない縁がありますよね。出会うべくして出会った二人だと感じます。
シャミ:
婚姻関係の有無に関係なく、不思議な縁で繋がっている二人でしたね。
瀧内公美さん:
どこか離れられないんでしょうね。例えば形としては離れていたとしても、身体の一部は侵食されているというか。そういう二人なんだろうなと思います。
シャミ:
今回、海外合作作品には初めての参加だったそうですが、日本の現場との違いや何か発見されたことはありますか?

瀧内公美さん:
仕事がしっかり分業されていることが1番の違いでしょうか。プロとはこういうものというのが明確にあると思いました。日本にもいろいろな形があるので一概にはいえませんが、プロかアマチュアかわからない状態でも仕事ができるというか、それが日本の良さでもあるなと思います。海外だと契約書もしっかりしていますし、本当に一つひとつがシビアなんです。
シャミ:
俳優として改めて発見した部分もありましたか?
瀧内公美さん:
そうですね。システムの違いを感じましたね。

シャミ:
マーク・ギル監督とは物語やキャラクターについて何か話し合いましたか?
瀧内公美さん:
作品に入る前にディスカッションをする時間を設けていただき、お話しました。ただ、今振り返ると、あの時間は監督にとって苦痛な時間だったかもしれません。それは経験した後だからこそ言えることなのですが、「あなたにお任せしている。それがプロの仕事である」ということ、「あなたが思う洋子なんだから」ということを現場で感じたんです。それまで監督といろいろなディスカッションをしながら作っていく体制をとり、キャラクターの相談をしていましたけど、そういうことではないとよくわかりました。でも、マーク監督は本当に優しいんですよ。彼の優しさと明るさと、受け入れてくれる器の大きさと、ユーモアのあるジョークにいつも助けられていました。彼だったからこそ私は今こうしてポスターにも載っているんだと思います。そのくらい本当に監督の懐の深さに助けられました。
シャミ:
深瀬を演じた浅野忠信さんは元々憧れの方だったということですが、実際に共演されてみていかがでしたか?

瀧内公美さん:
この映画でご一緒するまでは、ずっと見続けてきた先輩で憧れていたので、ああいう存在感のある俳優になれたらいいなと思い、何か盗めるものがあったら盗みたいとか、そういうやましいことばかり考えていました(笑)。でも、現場に立った時に、そういうことではないんだと思いました。一朝一夕でいくものではありませんし、浅はかだったと思ったので、必死に食らいついてやっていかないと、ちょっと余裕を持って学ぼうなんて思っている隙はないと思いました。深瀬がどこか殺気のあるキャラクターだったこともあり、浅野さん自身すごく感覚的でソリッドな方なんだろうなと思いながら現場に入りました。でも、実際は真逆で、腰が低くてものすごく優しい方でした。私が質問したことには必ず答えてくださいますし、それが非常に論理的で、イメージしていたのとは真逆でした。
シャミ:
そうだったんですね。撮影裏でお話される時間などもあったのでしょうか?
瀧内公美さん:
浅野さんに聞きたいことばかりだったので、私から話しかけていました。私も海外作品に興味があるので、エージェントの話を聞かせていただいたり、どうやって作品を選ばれてきたのかなど、たくさん質問させていただきました。もしかしたらそんなに自分のことを話したくないかもしれないと思いましたが、私にとっては二度とないチャンスかもしれないので、とにかく聞きたいことを聞かせていただきました。でも、全部こと細かく教えてくださり、本当に優しくて愛情深い方でした。

シャミ:
とても優しい方なんですね。
瀧内公美さん:
そうなんです。でも、自分のお芝居とか、違うなと思ったことにはちゃんとノーと言ってくださるので、全幅の信頼を置いていました。
シャミ:
ウエディングドレス姿をはじめ、洋子のオシャレなファッションが気になり、特に服がどんどん変わるシーンが印象に残っています。たくさんの衣装を着られたなかで特にお気に入りだったものはありますか?
瀧内公美さん:
MoMAのニューヨークの写真展に行った時のお着物です。

シャミ:
素敵でしたね!
瀧内公美さん:
インパクトが強すぎて、最初はあの着物はやめようかという話があったんです。でも、やっぱりあれぐらいインパクトがあるほうがいいんじゃないかとなり、着させていただくことになりました。普段ああいう大柄でド派手な着物を着る機会はほとんどないですよね。あれはやっぱり洋子じゃないと着られないと思います。
シャミ:
見事に着こなしていらしてすごくカッコ良かったです。
瀧内公美さん:
良かったです!
私にできることは、一つひとつのいただいたお仕事を丁寧にやること

シャミ:
ここからは瀧内さんご自身について聞かせてください。最初に俳優のお仕事に興味を持ったのはいつ頃でしょうか?
瀧内公美さん:
中学生から高校生にかけてです。スクリーンの中にいる女優さんを観て、映画女優ってカッコ良いなと憧れていました。極めつけは、降旗康男監督の映画『赤い月』に出ていた常盤貴子さん。それから海外でいうと、『プラダを着た悪魔』のメリル・ストリープに憧れていました。
それに、『プラダを着た悪魔』のアン・ハサウェイはものすごく可愛くて。先ほどお話にあった、洋子の衣装が変わるシーンは、『プラダを着た悪魔』のアン・ハサウェイだなと思って、イメージしやすかったです。スタイリストの宮本茉莉さんが探し抜いて持ってきてくださり、中には作ってくださったものもあり、本当に気分が乗りやすい、良い衣装でした。
シャミ:
確かに洋子の衣装が変わるシーンは『プラダを着た悪魔』を彷彿とさせますね!その後、実際に俳優になったのはどういった経緯だったのでしょうか?

瀧内公美さん:
大学生の時に教育実習に行ったのですが、その通学路で映画の撮影をやっていたんです。その時におそらく制作部の方が通行人の誘導をされていて、その方のポケットに台本が見えたんです。そしたらその作品は、私が中学生の時に観ていた漫画の実写化作品だったことがわかったんです。私はその漫画がすごく好きで、この世界観にぜひ入ってみたいと思い、その場でエキストラの募集をしているか尋ねました。そしたら募集しているということだったので、すぐに応募してエキストラとして参加しました。
シャミ:
すごい行動力ですね!
瀧内公美さん:
どうしてもやってみたかったんでしょうね(笑)。
シャミ:
その興味が今にも繋がっているんですね。今年は、『敵』 『ゆきてかへらぬ』『奇麗な、悪』(主演作)、『レイブンズ』と出演作が立て続けに公開となり、さらにドラマ出演もされており、大活躍されています。出演作を選ぶ上で特に注目される点や、決め手となる点は何かありますか?

瀧内公美さん:
基本的にはお話をいただいた順で受けていますが、もちろんスケジュール的に難しい時もあります。ですので、あまり選ぶという感覚ではありません。正直私にできることって、一つひとつのいただいたお仕事を丁寧にやるということぐらいかなと。
シャミ:
本当にどんな役も自然に馴染んでいて素晴らしいなと感じています。
瀧内公美さん:
すごく嬉しいです!ありがとうございます。
シャミ:
では最後の質問です。これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。

瀧内公美さん:
本当にたくさんあります。日本映画なら青山真治監督の『ユリイカ』の台詞で、「生きろとはいわん。死なんでくれ」という台詞がすごく好きです。あとは、大学生の時に観たアキ・カウリスマキの『マッチ工場の少女』です。そして、ずっと追い続けている女優さんは、20代の頃は若尾文子さん。30代になってからは、マーゴット・ロビーと、キム・ミニです。それと、最近注目していていいなと思っているのがフローレンス・ピューです。そして、エマ・ストーンが携わっている作品にも影響を受けていますね。
シャミ:
本日はありがとうございました!
2025年2月14日取材 Photo& TEXT by Shamy

『レイブンズ』
2025年3月28日より全国公開
PG-12
監督・脚本:マーク・ギル
出演:浅野忠信/瀧内公美/ホセ・ルイス・フェラー/古舘寛治/池松壮亮/高岡早紀
配給:アークエンタテインメント
父の写真館を継ぐことを拒み、北海道から上京した深瀬は、洋子と出会う。洋子は深瀬の写真の主題となり、二人はパーソナルでありながら革新的な作品を作り出していった。家族愛に憧れていた深瀬は、洋子の夢を応援するため懸命に働くが、ついに洋子の信頼を裏切り彼女の夢までも打ち砕いてしまい…。
公式サイト
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© Vestapol, Ark Entertainment, Minded Factory, Katsize Films, The Y House Films
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情報は2025年3月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。

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