映画に隠された恋愛哲学とヒント集29

女は家庭に入り、何事も夫に従うのが当たり前だった時代。画家になることを夢見ながら主婦をしていたマーガレットは、夫と離婚し、娘を連れて家を出ます。でも、離婚も女性が働くこともまだ珍しい世の中で、彼女は娘の親権を奪われそうになりピンチに。そんなとき、ウォルターと知り合い、2人はすぐに恋に落ちるのですが…。

絵を愛し、裕福な生活を送っているかのように見えるウォルターは、マーガレットにとっては最高の相手。ましてや、娘の親権を奪われそうになったマーガレットに、ウォルターは結婚を申し出て、親子を救済してくれます。さらに、彼女の作品“ビッグ・アイズ”を何とか売ろうとアイデアを出し、行動してくれます。こんなに理想的な夫はいませんよね。でも、皮肉なことに“ビッグ・アイズ”が大ヒットすることで、夫婦の関係はおかしくなっていきます。
彼は宣伝、セールスに関しては天才と言っても良いでしょう。もし彼に妙な虚栄心が芽生えることがなければ、マーガレットの人生はシンデレラ・ストーリーになっていたかも知れません。でも、彼のもともとの性格、そして時代のせいもあってか、彼は妻の作品を自分の作品だと偽って、見せかけの名誉を得てしまいます。アート界にこれまでなかったアイデアでどんどん稼いでいくウォルター。彼のアイデアがうまくいけばいくほど、彼はどんどん調子にのり、自分の身を守ろうと必死になっていきます。そしてマーガレットが作者としての権利を主張しようとしても、“夫婦だろ”という言葉が彼の武器となり、妻は反論できなくなるのです。スタート地点で、ウォルターに大いに救われ、娘との生活を守る必要があるマーガレットは、なおさら恩を仇で返すことはできません。これぞ悪夢。才能のある夫を支える妻という構図はうまくいくのに、逆の場合は難しい。本作の舞台となる1960年代は今よりもっと女性が生きづらい時代ですが、現代になっても、同じ状況はあるでしょう。そもそも男性は競う本能がある分、虚栄心は強いはず。自分の才能で成功したい女性は、男の虚栄心とうまく向き合えないなら、一生共に過ごすのは難しいかも知れません。