心理学

心理学から観る映画14:いじめっ子がいじめをする本当の理由とは?

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映画『許された子どもたち』ワークショップ:いじめのロールプレイ

新学期が始まって約3ヶ月が経ちました。今年は新型コロナウィルス感染症の影響で通学ができなくなり、6月に入って段階的に通学が始まりましたが、子ども達のストレスも相当溜まっていると思います。日常でストレスの多い状況下では、いじめの増加も懸念されます。そこで今回はいじめについて考えます。

いじめが起きる理由は無数にある

日本では1980年頃からいじめが社会問題として強く意識されるようになったようですが、時代の変化と実際のいじめの被害者の証言などにより、文部科学省のいじめの定義も変化しました。「文部科学省初等中等教育局児童生徒課 平成30年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」における、いじめの定義は以下の通りです。

「いじめ」とは,「児童生徒に対して,当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係のある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって,当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの。」とする。なお,起こった場所は学校の内外を問わない。

そして、いじめの認知件数について平成30年度の上記同調査では、小学校で約42万6000件、中学校で約9万8千件、高校で約18000件、合計約54万4千件という数字になっていて、平成26年から現在にかけて大幅にいじめの認知件数が増えているグラフも示されています。この背景の一つには、いじめによる自殺が報道され、社会的に意識が高まり報告が増えたことも影響していると考えられています。

ただ、実際には端から見てどこからがいじめかがわかりにくいこともあり、いじめられている本人も誰かに相談することでさらにいじめがエスカレートしてしまうことなどを恐れて黙って我慢するということも大いにあります。なので、認知件数よりももっと多くの人達が苦しんでいる可能性は高いでしょう。
では、いじめはどうして起こるのでしょうか。もちろん原因は一つではなく、それぞれのケースによって背景は異なりますが、いじめっ子だけでなく、周囲で傍観している人、はやし立てる人の影響、いじめっ子の家庭問題など、要因として考えられることは無数にあります。

例えば、いじめっ子について、家庭で暴力を受けていたり、周囲から認めてもらえなかったり、自分に自信がなかったりする状況下で、そのストレスを誰かをいじめることで発散している場合もあります。また、いじめの対象がグループ結束のためのスケープゴート(いけにえ)になってしまっているケースもあります(下山ほか 2009)。そして、同級生をからかっていたら周りにウケて、からかっていた子はその注目や賞賛が快感になり、いじめにエスカレートしてしまうケースもあります。その場合、直接的に行動や言動を起こしていない観衆、傍観者もいじめに影響していると言えます。こういったさまざまな背景やいじめが起こるメカニズムを考えると、いじめのターゲットが次々に変わることや、いじめ問題を解決しようとする際、いじめられっ子といじめっ子だけではなく、周囲の児童や家庭など、広い視野をもって介入する必要があることをご理解頂けるのではないでしょうか。

映画『許された子どもたち』撮影前ワークショップ:いじめのロールプレイ 動画はこちら

映画『許された子どもたち』では、撮影前にいじめの本質を考察するための〈いじめのロールプレイ〉が行われました。その時の模様が公開されていますので、ぜひご覧になってください。この映像の最後に、本作でいじめっ子を演じた上村侑くんがロールプレイで感じたことを語っていますが、まさにいじめの背景にあるリアルな感情などに触れていて、とても参考になります。
また『許された子どもたち』は加害者とその親にフォーカスした物語になっている点にも注目して頂きたいと思いますが、いじめをする子も普通の子で優しい一面を持っていたり、いじめられた経験があったりします。またいじめている側にはいじめをしている意識がなかったり、いじめっ子の親が事実を認められないということも、いじめ問題の解決を難しくしている要因となっているのがわかります。

映画『許された子どもたち』撮影前ワークショップ:いじめのロールプレイ 動画はこちら

このようにいじめを撲滅するにはたくさんの課題があり、さまざまな対処の仕方がありますが、とにかくいじめは未然に防げるのが1番です。上記のロールプレイのような教育も未然にいじめを防ぐ手立ての1つとなりますが、こういった教育が児童や保護者、指導者などに向けて広く活発におこなわれることも期待します。

<参考・引用文献>
文部科学省初等中等教育局児童生徒課 平成30年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
下山晴彦ほか(2009)「やわらかアカデミズム・<わかる>シリーズ よくわかる臨床心理学[改定新版]」ミネルヴァ書房

映画『許された子どもたち』上村侑

『許された子どもたち』
2020年6月1日より全国順次公開
PG-12

REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
内藤瑛亮監督インタビュー

いじめによって1人の少年が命を落とし、その後加害者の中心的存在となった少年とその親がどんな日々を送ったのかを軸に物語が展開していきます。劇中では1件のいじめだけでなく、偽の正義感から起こるいじめや、グループ保持のために1人をスケープゴートにしたいじめなど、さまざまなパターンを客観視することができます。

©2020「許された子どもたち」製作委員会

『BULLY ブリー』
DVDレンタル・発売中

7人の少年少女がいじめっ子を殺害したという、実際にアメリカで起きたボビー・ケント殺害事件をもとに映画化。幼馴染みで親友のはずの2人の少年の関係に、他の人が加わることで、思わぬ展開に…。

BULLY / ブリー [DVD]

『ソロモンの偽証 前篇・事件』『ソロモンの偽証 後篇・裁判』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
ブルーレイ&DVDレンタル・発売中

REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定『ソロモンの偽証 前篇・事件』
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定『ソロモンの偽証 後篇・裁判』

同級生の1人が亡くなり、警察や学校は自殺として処理しようとするなか、他殺だという告発状がある生徒と校長のもとに届きます。大人達は早く騒動を終わらせようとしますが、子ども達は真相を究明すべく立ち上がります。生徒達がいかに皆に見えないところでさまざまな問題を抱えているかがわかるストーリーです。

ソロモンの偽証 前篇・事件

ソロモンの偽証 後篇・裁判

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

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