学び・メンタルヘルス

心理学から観る映画51:“インサイド・ヘッド”シリーズを感情研究の理論にあてはめて考える

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『インサイド・ヘッド2』

「感情」はとらえ方が大変難しい概念です。専門家による感情に関する研究でも、さまざまな理論があります。そこで、今回は「感情」のとらえ方について代表的な理論を取り上げます。

「感情」をわかりやすく説明している映画といえば、“インサイド・ヘッド”シリーズがあります。人間が持つ感情を擬人化して、どの感情も重要であることを説いた1作目に続き、2作目では人の成長に合わせて感情がどのように変化していくかを描いています。

映画『インサイド・ヘッド2』

1作目の『インサイド・ヘッド』から登場するキャラクターは、ヨロコビ、ビビリ、イカリ、ムカムカ、カナシミの5つ、2作目では、シンパイ、イイナー、ハズカシ、ダリィ、ナツカシが登場します。とてもユニークな設定ですね。

映画『インサイド・ヘッド2』

では、感情研究の分野ではどのように考えられているのでしょうか。感情を表す言葉として、「英語という言語には500から2000の感情のカテゴリーがある」ものの、「カテゴリーへの所属は二者択一な問題というよりも程度の問題であ」り、「容易にカテゴリーに分類できない例も数多く存在」し、「感情のカテゴリーの境界は曖昧である」(ラッセル、2019、p.169)といわれています。

そして、研究者の間ではさまざまな意見があります。下記はその一部です。

【エクマンの基本感情説】
Ekman(1992)は、喜び、驚き、怒り、恐れ、嫌悪、悲しみの6つの感情を基本感情としてあげていました。後に、嫌悪の代わりに軽蔑をあげました。
【次元説】
行動主義の創始者ワトソンは、出生時に恐怖、怒り、愛の3つの感情があると主張しました。ミレンソンの感情強度3次元モデルは、この3つの基本的感情にベクトルの概念を取り入れました。
【シュロスバーグの円錐モデル】
シュロスバーグは、「快ー不快」と「注目ー拒否」の2次元に直交する「緊張ー睡眠」という軸を加えた円錐モデルを提唱しました。
【ラッセルの円環モデル】
ラッセルは「快ー不快」「覚醒ー眠気」の2次元で表される円環モデルを提唱しました。
【ブラナの感情空間】
ウィトブリートとブラナは、「快ー不快」「覚醒ー眠気」という次元に、「ネガティブ感情と、ポジティブ感情の枠組みをもつ感情空間」を取り入れました。

以上、濱治世・鈴木・濱保久(2001)より引用。

直交という言葉が使われたり、円環、円錐など形状を示す名前がついているとおり、分類だけではなく、方向性や次元があるという考えが出てきたことがわかります。ここでご紹介した以外にもさまざまな学説があり、発展していった学説もあれば、反論を受けて廃れていった学説もあるようです。ただ、正直なところ正解は誰にもわからないので、人ぞれぞれにどの考え方が受け入れやすいかという問題といえそうです。

感情の認知プロセスにおいても有名な論争があります。ジェームズ=ランゲ説は、「まず生理的変化が生じ、感情的経験が生じる」という考え方です。つまり、「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しい」と考えます。一方のキャノン=バード説は「末梢神経系の生理的変化に先立って、視床において対象の情報処理がなされる」という考え方です。これらに対して、「感情と認知は独立したものであり、刺激が認知されなくても、感情は生じる」と考えるザイアンスの説もあります(箱田・都築・川畑・萩原,2010,p.309-310)。

映画『インサイド・ヘッド2』

“インサイド・ヘッド”では、頭の中にいる感情達が信号を送って、ライリーの行動に反応として表れるという描写となっているので、キャノン=バード説に立っているといえそうです。また、さまざまな感情がせめぎ合っている様子から考えて、感情研究で唱えられているように、感情機能の複雑性を投影していると考えられます。

感情はとても複雑でつかみどころがない概念であると同時に追究したい大きな謎でもあります。正解がないとはいえ、さまざまな理論は、私達が感情とどう付き合うかを考える上で良いヒントになりますね。

<参考・引用文献>
Ekman, P.(1992)An Argument for Basic Emotions.Basic Emotions,6,169-200
箱田裕司・都築誉史・川畑秀明・萩原滋(2010)「認知心理学」有斐閣
濱治世・鈴木直人・濱保久(2001)「感情心理学への招待——感情・情緒へのアプローチ——」サイエンス社
ラッセル・J.A.(2019)第9章 感情をどのように呼ぶべきか.ロバート・プルチック, ホープ・R・コント(編著)橋本泰央, 小塩真司(訳)「円環モデルからみたパーソナリティと感情の心理学」福村出版 

映画『インサイド・ヘッド2』

『インサイド・ヘッド2』
2024年11月27日よりブルーレイ+DVDセット販売中
2024年12月11日デジタル配信開始(レンタル)/デジタル配信中(購入)
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
Amazonプライムビデオで観る Amazonでブルーレイ+DVDセットを購入する

『インサイド・ヘッド』
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定 監督来日記者会見
Amazonプライムビデオで観る AmazonでMovieNEXを購入する

©2024 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

本ページには一部アフィリエイト広告のリンクが含まれます。
情報は2024年12月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『BETTER MAN/ベター・マン』ジョノ・デイヴィス 社会的成功が本当の幸せをもたらすとはいえない事例【映画でSEL】

昨今、ウェルビーイングという概念が広まりつつあり、社会的な成功は必ずしも幸福をもたらすとは限らないという見方も出てきました。その背景を、「自己への気づき」(SELで向上させようとするスキルの一つ)に紐づけて考えてみます。

映画『片思い世界』広瀬すず/杉咲花/清原果耶 片思い世界【レビュー】

広瀬すず、杉咲花、清原果耶がトリプル主演を務める本作は、『花束みたいな恋をした』の脚本を手掛けた坂元裕二と、土井裕泰監督が再タッグを組んだ…

映画『神は銃弾』マイカ・モンロー マイカ・モンロー【ギャラリー/出演作一覧】

1993年5月29日生まれ。アメリカ出身。

映画『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』 ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース【レビュー】

“ハッピー”や“ゲット・ラッキー”をはじめとする大ヒット曲を多数生み出し、他のビッグ・アーティストへの楽曲提供やプロデュースでも並外れた偉業を成してきたファレル・ウィリアムスの人生が初めて映画化…

映画『ANORA アノーラ』ユーリー・ボリソフ ユーリー・ボリソフ【ギャラリー/出演作一覧】

1992年12月8日生まれ。ロシア出身。

映画『片思い世界』公開直前イベント、広瀬すず/杉咲花/清原果耶/土井裕泰監督 存在するということに対しての肯定を、ここまで実験的に描いた物語もなかなかない『片思い世界』公開イベントに広瀬すず、杉咲花、清原果耶が揃って登壇

劇場公開を目前に控え、本作でトリプル主演を務めた、広瀬すず、杉咲花、清原果耶と、土井裕泰監督が舞台挨拶に登壇しました。

映画『おいしくて泣くとき』長尾謙杜/當真あみ おいしくて泣くとき【レビュー】

タイトルを聞いただけで泣いちゃいそうな作品だと予想できるので、逆に泣かないぞと…

劇場版『トリリオンゲーム』今田美桜 今田美桜【ギャラリー/出演作一覧】

1997年3月5日生まれ。福岡県出身。

中国ドラマ『柳舟恋記(りゅうしゅうれんき)〜皇子とかりそめの花嫁〜』QUOカード 中国ドラマ『柳舟恋記(りゅうしゅうれんき)〜皇子とかりそめの花嫁〜』オリジナルQUOカード(500円分) 2名様プレゼント

中国ドラマ『このロマンスはフィクションだから』オリジナルQUOカード(500円分) 3名様プレゼント

映画『ベイビーガール』ニコール・キッドマン/ハリス・ディキンソン ベイビーガール【レビュー】

シンプルに娯楽として楽しむ方、真面目に観る方、両方…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『キングダム 大将軍の帰還』山﨑賢人/吉沢亮/橋本環奈/清野菜名/吉川晃司/小栗旬/大沢たかお 映画好きが選んだ2024邦画ベスト

正式部員の皆さんに2024年の邦画ベストを選んでいただきました。2024年の邦画ベストはどの作品になったのでしょうか?

映画『セトウツミ』池松壮亮/菅田将暉 映画好きが推すとっておきの映画を紹介【名作掘り起こし隊】Vol.4

このコーナーでは、映画業界を応援する活動として、埋もれた名作に再び光を当てるべく、正式部員の皆さんから寄せられた名作をご紹介していきます。

映画『オッペンハイマー』キリアン・マーフィー 映画好きが選んだ2024洋画ベスト

正式部員の皆さんに2024年の洋画ベストを選んでいただきました。2024年の洋画ベストに輝いたのはどの作品でしょうか!?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『BETTER MAN/ベター・マン』ジョノ・デイヴィス
  2. 【映画でSEL】森林の中で穏やかな表情で立つ女性
  3. 映画『風たちの学校』

REVIEW

  1. 映画『片思い世界』広瀬すず/杉咲花/清原果耶
  2. 映画『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』
  3. 映画『おいしくて泣くとき』長尾謙杜/當真あみ
  4. 映画『ベイビーガール』ニコール・キッドマン/ハリス・ディキンソン
  5. 映画『エミリア・ペレス』ゾーイ・サルダナ/カルラ・ソフィア・ガスコン

PRESENT

  1. 中国ドラマ『柳舟恋記(りゅうしゅうれんき)〜皇子とかりそめの花嫁〜』QUOカード
  2. 中国ドラマ『北月と紫晴〜流光に舞う偽りの王妃〜』オリジナルQUOカード
  3. 映画『ガール・ウィズ・ニードル』ヴィク・カーメン
PAGE TOP