深津絵里&浅野忠信が夫婦役を演じた映画『岸辺の旅』の黒沢清監督にインタビュー。本作で監督は、第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞を受賞し、「日本でも海外でも映画の観られ方はほとんど変わらないので、特別意識して作ることはありませんが、海外にも僕の作品をおもしろいと言ってくれる人がいることは心の支えになっています」と話していました。そんな監督に本作の女同士のバトルシーン裏話や、生死の境界線に関するディープな質問で直撃しました!
PROFILE
1955年7月19日兵庫県生まれ。1997年の『CURE』で多くの海外映画祭に招待され、国際的に名が知られる。2000年『回路』では、第54回カンヌ国際映画祭批評家連盟賞を受賞。2002年『アカルイミライ』は、第56回カンヌ国際映画祭「コンペティション部門」に正式招待され、2006年『叫』では、初めてヴェネツィア国際映画祭に招待された。2008年には日本、オランダ、香港の合作『トウキョウソナタ』で、第61回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」審査員賞、第3回アジア・フィルム・アワード作品賞を受賞。また、連続テレビドラマ『贖罪』では、第69回ヴェネツィア国際映画祭「アウト・オブ・コンペティション部門」で、テレビドラマとして異例の出品を果たし、トロント国際映画祭や釜山国際映画祭など多くの国際映画祭で上映された。2012年『リアル〜完全なる首長竜の日〜』は、ロカルノ国際映画祭「コンペティション部門」を始め、多くの国際映画祭に出品され、2013年『Seventh Code』では、第8回ローマ国際映画祭最優秀監督賞を受賞。そのほか代表作に『ドッペルゲンガー』な『LOFT ロフト』などがあり、公開待機作に『クリーピー 偽りの隣人』『ダゲレオタイプの女』がある。本作『岸辺の旅』では第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞を受賞した。
シャミ:
原作を読んだときに映画化したいと思った一番の決め手はどんなところだったのでしょうか?
黒沢清監督:
普通夫婦の話というと日常の2人の葛藤が物語の中心になることが多いと思うのですが、夫婦のうち1人が死んでいるという大胆な設定が入ることにより、日常から切り離された本当に純粋な人間同士の関係として夫婦を描けると思いました。
シャミ:
冒頭で旦那さんの優介(浅野忠信)が出てきたとき、幽霊なのは台詞でわかったのですが、普通に触れることもできるし見えていて、生きている人と変わらないことにすごくビックリしました。
黒沢清監督:
僕も原作を読んだときにビックリしました。貞子みたいにぬ〜っと出てきたら「幽霊だ!」って思うんですけど(笑)、優介の場合は「俺、死んだよ」と言っていても、幽霊っぽさがないんですよね。映画の冒頭は、優介が怖くも何ともないただひょっこりいる幽霊で、しかも瑞希(深津絵里)も多少驚きながらもすぐにそのことを受け入れるというシーンにしたかったんです。物語はそこからすべて始まるのですが、本当に奇想天外なことですから、観る方にその設定がきちんと伝わるのかという不安もありました。でもわかって頂けた方が多かったようなので良かったです。
シャミ:
監督自身ホラー映画も撮られていますが、本作において“幽霊=恐怖”にならないように気を付けた点はありますか?
黒沢清監督:
俳優が普通に演じていればそれで大丈夫だと思ったので、何も気にせず撮りました。ホラー映画として怖くするには、いろいろなテクニックや気遣いが必要なのですが、この作品の場合はそういった気遣いを一切しないというところがポイントでした。逆に怖くする方が大変なので、今回は俳優さん達にとにかく普通の人間と同じように演じて頂きました。
シャミ:
なるほど〜。本作には夫婦の愛が旅と共に美しく描かれていましたが、途中夫の浮気が発覚するシーンで急に現実が見えました。そのシーンで監督が意図したことはありますか?
黒沢清監督:
あのシーンは原作だと回想形式で語られていたのですが、映画では回想シーンにしたくなかったので、現在形で瑞希が愛人と会うという展開にしました。且つ、旅の映画ではありますが、あのときだけ瑞希は東京に戻ってしまうんですよね。だからちょうど映画が後半に差し掛かったあの辺りで、半分夢のような旅をしている2人の現実はどうなっているのかという部分を見せたいと思いました。いざ東京に戻ると、家の植物は枯れ、2人が出ていったときの状態で物が放置されていて、嫌でも現実の数週間という時間の流れが実感できます。そして、その現実を見た瑞希がそのまま東京に残るのか、死者である夫との旅を続けるのか選択するところを見せたかったんです。だからあのシーンの後の方がより2人の関係が抽出されたというか、現実ではいろいろあったけど、その日常から完全に離れて2人だけの時間を過ごしていくという瑞希の決意を表現したいと思いました。
シャミ:
東京に戻るシーンがあったからこそより2人に感情移入しやすくなった気がしました。でも瑞希と夫の愛人が対面して話すシーンはピリッとした空気でちょっと怖かったです(笑)。
黒沢清監督:
あそこまで強烈になるとは思っていませんでした(笑)。あれはやはり深津さんと蒼井さんのお芝居によってできたシーンです。もちろん脚本にもその狙いは書いてありましたが、お二人のおかげで撮影は至って簡単でした。
シャミ:
じゃあ監督が何かお二人に特別に指示されたというわけではないんですか?
黒沢清監督:
お二人ともこのシーンの狙いを脚本で理解してくれていました。なので僕が話したのは、「二人が座って台詞が始まると、まずここでゴングがなります。その後に蒼井さんがジャブ、そして深津さんが反撃、さらに二人で攻撃し合って、最後は蒼井さんの完全勝利で、深津さんはノックアウトされますから、その流れでよろしくお願いします」ということだけです(笑)。そしたらお二人とも「わかりました」と言って撮影に入り、あのシーンが完成しました。
シャミ:
そんな裏話があったとは!確かに聞こえないはずのゴングが聞こえたように思いました(笑)。
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2016年4月20日ブルーレイ&DVD発売、レンタル開始
監督:黒沢清
脚本:宇治田隆史/黒沢清
出演:深津絵里/浅野忠信/蒼井優/小松政夫/村岡希美/奥貫薫/赤堀雅秋/千葉哲也/首藤康之/柄本明
発売元:ポニーキャニオン、アミューズ
販売元:ポニーキャニオン
妻の瑞希のもとに、3年前に失踪した夫、優介が幽霊となって突然帰ってくる。姿形は生きているのと変わらない優介に誘われるまま、瑞希は2人で旅に出ることを決意。それは夫が失踪して自宅に戻ってくるまでの3年間お世話になった人々を訪ねていく旅だった。旅を続けることで、お互いの深い愛と「一緒にいたい」という純粋な気持ちを改めて感じる2人だったが、「さようなら」を伝える時は刻一刻と近づいていた…。
公式サイト 映画批評/デート向き映画判定
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