シャミ:
深津さんの台詞のなかに「生きていても死んでいてもそんなに変わらない」という台詞があったのですが、監督ご自身は生と死の違いについてどうお考えですか?
黒沢清監督:
こればかりは想像を絶するのでわからないことですが、瑞希が言った台詞は実は僕が考えたものなんです。だから同じように、生きていても死んでいてもあまり違いはないと思っています。たぶん想像がつかないからこそ、死んだらそこですべてがなくなると考えるのが一番簡単なんですよ。でも何もかもなくなるという考えは、非常に乱暴だと思います。もちろん死ぬことで何かが間違いなく断絶すると思いますが、一方でほぼ確実にそのまま続いていくものがあると思うんです。例えば、生きている人が100だとしたら、死んでも案外80くらいは続くものではないかと思っていて、死んだときに「こんなにも続くものなんだ」って思う気がします。わかりませんけどね(笑)。
シャミ:
この映画を観ていても同じようなことを感じましたが、監督のお話を聞きすごく納得できました。死んでも続くものが多いということは、“死”ってそんなに怖いものではないのかも知れませんね。
黒沢清監督:
死んでからどうなるかがわからないからこそ怖いんですよね。でも最終的に死んでしまうのが現実ですから、実は人間の過ごす時間は死んでからの方が長いのではないかと思います。人間が生きているのは本当にある一定の期間だけで、死んでこそ本当の人間という存在になれるのかも知れないと思います。
シャミ:
じゃあ今の私達は仮の姿の可能性もあるということですね。死って本当に奥深いですね。
黒沢清監督:
もちろん、あの世がどうなってるのかはさっぱりわかりません。でもこうやって想像してみることは悪いことではないと思います。わからないこととはいえ、こういった映画やいろいろなものを通じて「死んだらどうなるのだろう?」と、楽しく死を想像することは非常に有意義なことだと思います。
シャミ:
ちなみに監督ご自身は幽霊に対して恐怖はありますか?
黒沢清監督:
突然幽霊がいたらやっぱり怖いと思うでしょうね(笑)。でもこの歳になると、もう亡くなってしまった知り合いがたくさんいるんです。だからその人がひょいと現れたら、最初はビックリするかも知れませんが、「いや〜、会いたかった!」ってなると思います。昔は映画などの影響で、幽霊って訳のわからない恐ろしいものだと思っていましたが、具体的に亡くなってしまった人が増えてくると、その人達を懐かしく思ったり、聞きたいことや積もる話がたくさんあるんです。
シャミ:
知っている人達であれば、むしろ会ってみたいですよね。では最後に、これから本作をご覧になる方に向けて一言お願いします。
黒沢清監督:
もともと他人だった男女が、あることをきっかけに夫婦になり、愛することを通り越して、どこまで深くなっていけるかを見守って欲しいと思います。それは間違いなく生と死を乗り越えられると確信して撮ったので、夫婦の関係ってここまでになれるんだということをこの映画を通して体感して頂けたら嬉しいです。
2016年3月28日取材&TEXT by Shamy
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2016年4月20日ブルーレイ&DVD発売、レンタル開始
監督:黒沢清
脚本:宇治田隆史/黒沢清
出演:深津絵里/浅野忠信/蒼井優/小松政夫/村岡希美/奥貫薫/赤堀雅秋/千葉哲也/首藤康之/柄本明
発売元:ポニーキャニオン、アミューズ
販売元:ポニーキャニオン
妻の瑞希のもとに、3年前に失踪した夫、優介が幽霊となって突然帰ってくる。姿形は生きているのと変わらない優介に誘われるまま、瑞希は2人で旅に出ることを決意。それは夫が失踪して自宅に戻ってくるまでの3年間お世話になった人々を訪ねていく旅だった。旅を続けることで、お互いの深い愛と「一緒にいたい」という純粋な気持ちを改めて感じる2人だったが、「さようなら」を伝える時は刻一刻と近づいていた…。
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